日本サステイナブル・レストラン協会は、日本の加盟店のすぐれた取り組みを、英国のThe Sustainable Restaurant Association (The SRA) と連携し、The SRAのウエブサイトやソーシャルメディアを通じて、業界のみなさまに共有しています。

2026年9月のテーマは、More Plants, Better Meat (より多くの野菜とベターミートの使用)について、SRAジャパン加盟店、アンティカ・ロカンダ・ミヤモト(熊本県熊本市)の、宮本シェフに話を伺いました。取材の全文を日本語で紹介します。

熊本市に店を構えるアンティカ・ロカンダ・ミヤモトの宮本けんしんシェフ。

宮本シェフが生産者とともに育てた牛肉を、薪火や炭を使って焼きあげるステーキを求めて全国からゲストが訪れる。

宮本シェフは、自身が考えるサステナビリティの意味についてこう語る。

私たちが取り組んでいるのは、食を通じて阿蘇の草原と人の営みを守り、次の世代につなげていくことです。

日本最大の草原、阿蘇で放牧される「あか牛」

阿蘇は、約22,000ヘクタールの面積を誇る日本一の広さを持つ大草原で、世界農業遺産国立公園にも認定されています。野焼きや放牧、採草といった1,000年以上続く人間の営みによって、森林化が防がれ、雄大な草原の景観と独自の生態系が守られてきました。

野焼きは、毎年2-4月に行われ、5月に新しい草が芽吹きます。草原は、地上部全体で光合成が行われ、水は地下に浸透して貯水されます。

阿蘇には、500を超える種類の草が生えると言われており、牛が繁殖力の強い草を食べることによって、絶滅危惧種の草が復活する。牛がいることで生態系が保たれているのです。

また、野焼きをすることで環境が再生される効果もあります。 

また、一般的に、牛肉1kgを生産するためには、約15,000リットルの水が必要で、水資源の枯渇が問題視されます。ところが、阿蘇は、草原があることで貯水効果が高まり、九州を代表する多くの一級河川の水源になっています。「九州の水がめ」といわれているほどで、隣県の宮崎、大分の農業をも支えているといわれています。アンティカ・ロカンダ・ミヤモトが使う牛肉は、この阿蘇で放牧されているあか牛。

宮本シェフが使用するあか牛は、いまでは手がける人も少なくなった放牧で、阿蘇に自生する野草を飼料に育ちます。牧草ではなく、野草を使うのが阿蘇の伝統。

草原は、守るだけでは減っていく。 野草という自然資源を生かすこと。料理人があか牛をおいしく料理することで食べる人が増えると、さらに規模を拡大して放牧ができ、草原が活かすことができる。ボランティアや補助金などで草原を保全するということではない。おいしい牛を放牧で育てることで、一般の消費者にこの草原のしくみを伝えていく。

日本では、独自に配合した飼料を与え人の手で作り上げた、「サシ」の多い肉が、柔らかく美味しいと評価され、高値がつく。草だけを食べる放牧牛をおいしく提供するために、宮本さんは、大学や生産者と共同で放牧の方法や、補助的な飼料の与え方、独自の熟成方法などを研究しています。肉の味を高め、おいしく食べてもらうことで、放牧のあか牛の需要が途切れないようにするための努力です。

肉を食べることで草原と有明海の生態系が守られている

昔の人は環境のためではなく、田畑を耕す「暮らし」のために牛を飼い、その結果として阿蘇の美しい草原が維持されてきました。しかし、農業が機械化され、牛が農耕に使われなくなった現在では、食べるための牛を放牧し、その肉を料理人が美味しく料理することが必要です

また草原は、放牧牛がそのまま食べるだけでなく、干し草に加工したり、バイオマスの資源になったり、堆肥にしたり、今では少なくなった茅葺き屋根の茅として、伝統の建築を守るなど、多くの用途に活用されています。また、阿蘇に降った大量の雨は、火山灰や溶岩の地層でゆっくりとろ過され、カルシウムやマグネシウム、シリカなどの豊富なミネラルを含んだ湧水や地下水となります。その肥沃な水が白川や筑後川などの1級河川を通じて有明海に流れ込み、植物プランクトンや海苔の生育に欠かせない栄養をもたらしています。 

雄大な草原の自然・命の循環をコースに込めて

宮本シェフのコース料理に表現されるのは、阿蘇の千年の伝統である「野焼き」や、雄大な草原から海への命の循環を表現したストーリー。前菜からメインまで、その季節に熊本で旬を迎える野菜や食材が随所に登場します。

またコースには、宮本シェフ自身の記憶も重なります。子どもの頃に食べた祖母の手料理。有明海で放課後に友達と採りに行った貝や魚。故郷の風景。それらが確実に失われつつある風景にも心を痛め、積極的に伝統漁法の漁師さんから買い付けを行い、お皿で表現し、ゲストに訴えます。

地域の自然や伝統という大きな物語と、ひとりの料理人のパーソナルな記憶、その両方がコースのなかに織り込まれ、ただおいしく食べるだけではない、アンティカ・ロカンダ・ミヤモトならではの特別な体験をゲストに提供しています。

ベターミートを選ぶには

サステナビリティを考える時、牛肉はどうしても環境面での負荷が問題になり、使うことがためらわれます。そこでベタミートである放牧牛を調達しようとしても、その流通量は少なく、調達は簡単ではありません。ベターミートの選び方について、肉の専門家である宮本シェフはこう答えます。

 流通量の95%を占める和牛の中には、放牧牛ではありませんが、生産者が家族のように愛情を込めて大切に育てており、アニマルウェルフェアに配慮された、より良く育てられた牛を見つけることができます。またJGAP認証を取得している生産者もいます。このような生産者や認証の肉を使うことも一つの選択肢といえると思います

FOOD MADE GOOD Japan Awards2024 BEST調達賞受賞

アンティカ・ロカンダ・ミヤモトは、2024年に日本サステナブル・レストラン協会に加盟しました。しかし宮本氏は、それまで自分たちの活動を特別にサステナビリティを意識してきたわけではなかったといいます。

私たちは、何か特別にサステナビリティに取り組んできたという感覚ではありませんでした。地元で、昔ながらの方法で誠実に食材を育てている人たちから仕入れる。そういう当たり前のことを続けてきただけなのです

その取り組みをFOOD MADE GOODスタンダードによって客観的に見直した結果、最高評価となる3つ星を獲得。さらに「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2024」では、「BEST調達賞」を受賞しました。

メディアやお客様から好意的な反応をいただきました。でも、何よりうれしかったのは、私たちの仲間である生産者の皆さんが受賞を誇りに思い、一緒に喜んでくれたことです

すでに取り組んでいる店にこそ、FOOD MADE GOODスタンダードを

すでにサステナビリティに関する取り組みを行っているレストランは、すぐにでもスタンダードを始めることをお勧めすると、シェフはアドバイスする。

 自分たちの取り組みが客観的にサステナビリティに値すると高く評価されるかもしれません。また、自分たちになにが足りないのか、具体的に知ることができ、次に何を行うべきか方向性を見出すことができます

シェフ:
宮本けんしん Kenshin Miyamoto

19歳で渡伊。
イタリアの名店「ラ・テンダ・ロッサ」、「ラ・シリオラ」「ヴィッラ・ロンカッリ」などで修行。
27歳で帰国後、実家の「イタリー亭」に勤務。
31歳で「リストランテ・ミヤモト」開店。

2011年
農水省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞を受賞。

2012年
熊本県農業コンクール「農業貢献賞」。
熊日新聞創立70周年記念「熊本グランドデザイン論文」にて優秀賞。
アサヒビール『九州情熱人』にて「熊本で最も熱い人大賞」。
熊本県食農ネットワーク運営委員。
「食の大地・くまもと」世界農業遺産推進研究会代表。
阿蘇地域世界農業遺産推進協議会委員。

2013年
熊本県観光審議会委員就任。
「食の大地・くまもと」親善大使へ就任。
阿蘇地域世界農業遺産協会 顧問就任。
阿蘇地域世界農業遺産認定の立役者となる。

2014年
日本政府より「2015年 ミラノ国際博覧会日本館サポーター」就任を委嘱される。
社会活動支援機構より社会活動大賞受賞。
熊本県知事より「世界農業遺産・阿蘇」認定に尽力したとして、感謝状を授与される。

2015年10月
イタリアミラノで開催されたミラノ国際博覧会にて、熊本県と阿蘇をPRする。
料理のデモンストレーションを行う。

2016年
熊本地震においての支援活動や東京でのチャリティーイベントなどを精力的にプロデュース。

2017年
JAL国内線ファーストクラスの機内食の監修。

2019年
農林水産省「料理マスターズ」シルバー賞受賞。

2020年
老舗料亭「なだ万」全店での「熊本フェア」のアドバイザー就任。

2021年
高島屋百貨店の熊本食材を活用したお中元をプロデュース。

2024年
FOOD MADE GOOD Japan Awards BEST調達賞受賞。

アンティカ・ロカンダ・ミヤモト
熊本県熊本市中央区新屋敷1丁目9−15
https://al-miyamoto.com/

FOOD MADE GOODスタンダードは、世界中で使われている、ホスピタリティ産業(飲食業、ホテル)のサステナビリティの推進度合いをはかることのできる、グローバルスタンダードです。日本サステイナブル・レストラン協会加盟店の正会員店舗は無料で参加することができます。自店のサステナビリティの推進度合いの客観的評価を得られるとともに、どこを改善したらよいのか等のアドバイスが得られます。詳しくは、日本サステイナブル・レストラン協会加盟店にお問い合わせください。