FOOD MADE GOOD フィールドワーク in 船橋開催レポート

FOOD MADE GOOD フィールドワーク in 船橋開催レポート

2026年10月8日、SRAジャパンは、千葉県船橋市の海光物産株式会社のご協力のもと、東京湾の漁業について学ぶ「FOOD MADE GOOD フィールドワーク in 船橋」を開催しました。

今回のフィールドワークのきっかけとなったのは、2026年4月、SRAジャパンの生産者パートナーである海光物産の大野和彦社長が取り組むクラウドファンディングのプロジェクトに、SRAジャパン代表の下田屋が参加したことでした。

プロジェクトのテーマは、「地元の漁業を守り、コノシロの絵本を作り、子どもたちに自分らしく生きることの大切さを伝えること」。

「孫が生まれたことがきっかけ。子どもたちに、豊かで明るい未来を残してやりたい」大野社長は優しい笑顔で語ります。

海光物産は、「瞬〆すずき」や「さわらの神」などのブランド化を進め、全国の有名ホテルや飲食店に海産物を届けている水産会社です。また、東京湾の水産資源を次世代に残すため、資源管理に取り組み、持続可能な漁業の実現に向けて、さまざまな活動や働きかけを行う、サステナビリティを重視した先進的な取り組みを展開しています。

今回のフィールドワークの目的は、江戸前の豊かな水産資源と漁業を未来につなぐために、海光物産がどのような取り組みを行っているのか、実際の漁業の現場を訪ね、体験を通じて学ぶことでした。

なぜコノシロなのか

コノシロは、江戸前寿司の人気のネタである「コハダ」の成魚の名前で、イワシと同じニシン目ニシン科の魚です。成長に伴って呼び名が変わる出世魚として知られ、幼魚のシンコは、旬の夏には1キロ当たり数万円の値がつくこともある高級魚です。若魚のコハダも1キロ当たり数千円で取引される一方、成魚のコノシロになると、小骨が多く調理に手間がかかることなどから需要が限られ、1キロ当たり数十円程度にしかならないこともあるそうです。そのため、低利用魚とされています。

スズキのブランド化を進める海光物産が、なぜコノシロ漁にも力を注ぐのでしょうか。

東京湾の特徴

その背景を理解するために、まずは船橋漁港から見た東京湾の地形を確認してみます。

地図の赤い丸印が、今回の出発地点となった船橋漁港です。

船橋市を中心に一体に広がるこのあたりの浅瀬は「三番瀬(さんばんぜ)」と呼ばれ、古来から多様な生き物が生息する豊かな海域として知られています。東京湾は、江戸前寿司に代表される江戸の食文化を支えてきた海でもあります。なかでもコハダは、冷蔵技術がなかった時代に、酢で締めることで保存性を高めた、江戸前寿司を代表する魚のひとつです。

東京湾には、多摩川、荒川、隅田川、江戸川など、多くの河川が流れ込み、陸域からさまざまな栄養分が運ばれてきます。こうした栄養分が、東京湾の豊かな生態系を支える要因のひとつとなっています。

そのため、この海域は水深が浅く、河川から運ばれた土砂が堆積する場所でもあります。海上では、海底にたまった土砂を取り除く作業船も見られました。船舶の航行に必要な水深を確保し、座礁を防ぐための作業とのことで、東京湾で見られる独特の光景だそうです。

この漁が行われているのは、こうした閉鎖性が高く水深が浅い海域です。沿岸の多くは埋め立てや開発によって人工的な護岸となり、商業施設や工業地帯が広がっています。都市活動や工場排水などが海の環境に与える影響も気になるところですが、国や自治体による排水規制など、さまざまな対策が講じられ、水質は保たれているのだといいます。

船は船橋漁港を出発し、左手に陸地を見ながら千葉方面へと向かいました。航路は岸からわずか数百メートルほどしか離れておらず、都市のすぐそばに漁場が広がっていることがわかります。

地図の矢印の方向へ進み、約1時間で漁場に到着しました。地図上では、長方形で赤く示したあたりです。

そして巻き網漁の現場へ

そして、巻き網漁船と合流。まき網漁法は、1隻の網船が中心となって円を描くように網を投入する1隻巻き(いっそうまき)と、2隻の漁船が息を合わせ、ひとつの大きな網で魚群を囲い込む2隻巻き(にそうまき)の2通りの方法があり、海光物産が行うのは2隻巻きです。さらに、パワーのあるエンジンを詰んだ小さな補助船(デブネ・伝馬船・テンマなどど呼ばれる)が、2隻の位置を修正したり、全ての業務を効率よく、迅速に行えるよう、調整している様子も見ることができました。

巻き網漁は、魚の群れを見つけ、その周囲に網を展開して漁獲する漁法です。遠くから見ると、直径百メートル以上の巨大な網が海面に広がっている様子が、はっきりとわかります。写真の赤い線で囲んだ部分が、その網です。

魚は昼夜で行動を変え、日中に群れを形成して活動する魚種も多いそうです。漁師たちは魚の習性や潮の流れなどを見極めながら、魚群を探して網をかけていきます。

続いて、2隻の漁船は、互いの動きを合わせながら徐々に距離を縮め、きんちゃく袋のひもをしばるような要領で、網を少しずつ手繰り寄せるように巻き上げていきます。海鳥が海面に浮かんでくる魚を狙って集まってきています。

2隻の漁船がさらに距離を縮めると、網の中に集められた魚が海面に姿を現し始めました。

そこへ3隻目となる、私たちが乗船していた「運搬船」が横付けされました。運搬船と漁船をロープでつなぎ、3隻が一体となって、網の中の魚をすくい上げる作業が始まりました。

運搬船に次々と引き上げられる魚たち。そのほとんどはコノシロですが、網を引き上げるたびに、数匹のスズキやクロダイも混ざっていました。

スズキとクロダイは手作業で選別され、生きたまま船内の生簀へ移されます。一方、コノシロは氷水を張った船底の貯蔵庫に収められていきます。

この作業は、網の中の魚を引き上げ終えるまで何度も繰り返されます。最後には、エイやサメなど、食用としての流通が限られる魚種も見られました。これらは一度船上に引き上げられた後、船体側面の排出口から海へと戻されていました。

巻き網漁は、魚群を効率よく漁獲できる一方で、対象とする魚以外の生き物を捕獲する「混獲」や、過剰漁獲のリスクもある漁法とされています。今回の見学でも、サメやエイが混獲されていましたが、速やかに放流される様子を確認することができました。

海光物産では、こうした巻き網漁の課題を回避するために、漁獲量や混獲魚種の記録、産卵期の魚をとらないことや、不要な漁獲物の放流なども行い、漁業を資源の確保の面から持続可能なものにすることを実践しています。

漁港での水揚げ

漁を終えて港に戻ると、水揚げ作業が始まります。氷水で冷やされたコノシロは、そのままコンテナへと移されていきました。

大野社長によると、取引先の冷凍加工会社では、1回当たり40トンの受け入れ体制があるため、その処理能力に合わせて漁獲量を調整しているそうです。受け入れ能力がさらに大きければ、さらに多く漁獲することも技術的には可能とのことでした。

一度の操業で大量の魚を漁獲できる巻き網漁の特徴を知ると同時に、漁獲能力の高さゆえに、資源の状態を把握し、適切な漁獲量を管理することの重要性も見えてきます。また東京湾の食資源の可能性も知ることができました。

一方、スズキは生きたまま海水を満たした生簀へと移されます。

ここから、漁師のみなさんが生簀のまわりに出刃包丁を持って集まり、鮮度を保つための処理が始まります。まず、尾の付け根とエラの部分に包丁を入れ、氷水の中で血抜きを行います。血を適切に取り除くことで、魚の臭みや品質の低下を抑えることができます。

約20分間、氷水の中で血抜きをした後、次の工程である神経締めへと進みます。

数百匹ものスズキが、スピーディに処理されていく様子は圧巻でした。巻き網漁での操業から、水揚げ後の鮮度管理に至るまで、漁師のみなさんの熟練した技術と、信頼関係にもとづくチームワークが、魚の品質を支えていることがよくわかります。

コノシロの可能性

海光物産の大野社長は、コノシロの可能性について、次のように語ります。

「コノシロは、東京湾の貴重な資源です。骨が多くて食べにくいため、一般家庭や飲食店ではあまり利用されず、漁業用の餌などとして、1キロ当たり数十円程度の価格しかつきませんでした。

それが、加工や流通の工夫によって、最近では100円程度まで上がってきました。さらに価値を高めることができれば、漁師は全体の魚を獲る量を減らしても、収入を確保できるようになります。

また、地元の子どもたちに学校給食を通じてコノシロを食べてもらうための活動にも取り組んでいます。コノシロの安定的な需要を生み出すとともに、子どもたちに自分たちが暮らす地域の海や漁業について、もっと知ってもらいたい。そんな思いから、行政にも働きかけながら、志を同じくする仲間たちと活動を進めています。

コノシロの価値が上がれば、漁師の収入も上がります。今は漁師になりたいという若者が減っていますが、収入が安定すれば、漁業を志す人も増えるかもしれません。それは、江戸前の伝統的な食文化を守ることにも、地域の食料供給を支えることにもつながります。

だからこそ、コノシロの活用に取り組むことには、大きな意義があるのです」

千葉県は、全国有数のスズキの産地として知られています。なかでも船橋は全国トップクラスの漁獲量を誇り、船橋産のスズキは市場でも高く評価され、地域の漁業者にとって重要な収入源となっています。

しかし、高い値がつく魚ばかりを狙い、過剰に漁獲することになれば、将来の水産資源に影響を及ぼす可能性があります。

そこで重要になるのが、コノシロの価値を高め、有効活用していくという考え方です。

これまで十分に食用として利用されてこなかったコノシロに新たな需要を生み出すことは、漁業者の収入源を多様化し、スズキなど特定の魚種への漁獲集中を抑えることにもつながる可能性があります。

ここにあるのは、単に「未利用魚 / 低利用魚を活用することがサステナブル」という考え方ではありません。

海の生態系を守り、漁業者の暮らしを支え、地域の食文化を次世代へつなぐ。そのすべてを結びつけながら、持続可能な漁業を実現しようとする取り組みです。

最後に、クラウドファンディングによって出版された絵本『ふなばしの海のおはなし コノシロさんちのハルちゃん』が参加者に配られました。

この絵本は、大野社長が代表を務める一般社団法人「伝統江戸前漁業を未来につなぐ会」が制作したもので、300冊が船橋市に寄贈され、市内の小学校にも配布されました。

この絵本が子どもたちと地元の海をつなぎ、東京湾の豊かな恵みと江戸前の漁業を未来へ受け継ぐきっかけになることをわたしたちも心から願っています。

追記:

船橋漁業協同組合 直売所「三番瀬みなとや」
コノシロのフライをおいしくいただきました。
骨も気にならず、ふっくらおいしかったです。

サステナブル・レストランサミット2026 「サミットパートナー」のご案内

サステナブル・レストランサミット2026 「サミットパートナー」のご案内

一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会(SRAジャパン)は、2026年11月24日、初となるサステナブル・レストランのカンファレンス「サステナブル・レストランサミット2026」を開催いたします。

今回のテーマとして設定したのは、
「HOSPITALITY RISING ― 地球規模の課題、地域での解決策」。

現在、気候変動、生物多様性の損失、食料システムの持続可能性、働く人々を取り巻く課題など、私たちの食や飲食業を取り巻く環境は、大きく変化しています。その一方で、日々お客様と向き合い、食材を選び、生産者とつながり、料理をつくり、地域に根ざして事業を営むレストランの現場には、こうした地球規模の課題を解決していくための多くのヒントと可能性があります。私たちSRAジャパンは、これまで全国のレストラン、シェフ、生産者、企業、教育機関、地方自治体、NGO/NPOなどさまざまなパートナーの皆さまとともに、「食」を起点に、より良い未来をつくるための取り組みを進めてまいりました。その一つひとつの実践と、これまで活動を支えてくださった皆さまへの感謝を大切にしながら、今回初めて、全国の食のサステナビリティの実践者が集い、互いの経験や知恵を共有し、次の行動へとつなげる場として、このサミットを開催することといたしました。

本カンファレンスは、英国のサステナブル・レストラン協会が2026年に発表した、飲食業のサステナビリティに関するインサイトレポート『HOSPITALITY RISING』をベースに構成しています。『HOSPITALITY RISING』は、世界各地のフードサービスの現場で生まれている創造性、リーダーシップ、そして具体的な実践を可視化し、それらを特別な事例として終わらせるのではなく、世界中の事業者が学び、それぞれの地域やビジネスの中で実行可能な行動へとつなげていくことを目的としています。

当日は、このレポートの内容や海外における先進的な取り組みをご紹介するとともに、日本各地でサステナビリティの実践を続けるレストランのシェフをはじめ、生産者、企業、地域など、さまざまな立場の実践者の皆さまにもご登壇いただく予定です。
成功事例だけではなく、試行錯誤や課題も含めた現場のリアルな経験を持ち寄り、「自分たちの地域や現場であれば、どのようにできるだろうか」と、ともに考え、学び、次の一歩を見つける一日にしたいと考えています。

大きな課題も、一つのレストラン、一人のシェフ、一人の生産者、一つの企業、そして一つのそれも小さな地域から始まる小さな行動が少しずつ繋がることで、社会を動かす大きな力になると私たちは信じています。そして、このサミットを「話を聞いて終わる場」ではなく、新しい出会いや連携が生まれ、翌日からの具体的な行動につなげていくきっかけの場にしていきたいと思っています。

そして、この一日の最後には、これまでレストランのサステナビリティの推進の活動をともにつくり、支えてくださった皆さまへの感謝を込めて、グローバルな基準であるFOOD MADE GOODスタンダードを中心として推進するコミュニティの成長をともに祝い、実践者同士がお互いの取り組みを讃え、学び合い、新たなつながりを育む食事とネットワーキングの時間も設けます。

また当日は、第6回となる「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2026 特別賞」、ならびに次世代の料理人たちと食の未来を考える「未来のレシピコンテスト2026」の授賞式も同時開催いたします。

改めまして、これまで活動をともにしてくださった皆さま、支えてくださった皆さまに、改めて心より感謝申し上げます。そして今回初めてご参加いただく皆さまにも、ぜひこの場を、新しい仲間やアイデア、そして次の行動と出会う機会としていただけたら幸いです。

飲食業から社会を変えていく。日本の各地域から、地球規模の課題に対応し変化を生み出していく。

そんな「FOOD MADE GOOD」のムーブメントを、皆さまとともに、この機会からさらに大きく育てていきたいと考えています。本カンファレンスの趣旨に是非ご賛同いただき、ご参加いただくとともに、温かいご支援とご協力についても賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

それでは、2026年11月24日、皆さまと会場でお会いできることをとても楽しみにしております。

一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会

代表理事 下田屋 毅

 

【インタビュー】あか牛を提供することで、阿蘇の草原の生態系と、この地で暮らす人の営みを未来へつなぐ ーアンティカ・ロカンダ・ミヤモト

【インタビュー】あか牛を提供することで、阿蘇の草原の生態系と、この地で暮らす人の営みを未来へつなぐ ーアンティカ・ロカンダ・ミヤモト

日本サステイナブル・レストラン協会は、日本の加盟店のすぐれた取り組みを、英国のThe Sustainable Restaurant Association (The SRA) と連携し、The SRAのウエブサイトやソーシャルメディアを通じて、業界のみなさまに共有しています。

2026年9月のテーマは、More Plants, Better Meat (より多くの野菜とベターミートの使用)について、SRAジャパン加盟店、アンティカ・ロカンダ・ミヤモト(熊本県熊本市)の、宮本シェフに話を伺いました。取材の全文を日本語で紹介します。

熊本市に店を構えるアンティカ・ロカンダ・ミヤモトの宮本けんしんシェフ。

宮本シェフが生産者とともに育てた牛肉を、薪火や炭を使って焼きあげるステーキを求めて全国からゲストが訪れる。

宮本シェフは、自身が考えるサステナビリティの意味についてこう語る。

私たちが取り組んでいるのは、食を通じて阿蘇の草原と人の営みを守り、次の世代につなげていくことです。

日本最大の草原、阿蘇で放牧される「あか牛」

阿蘇は、約22,000ヘクタールの面積を誇る日本一の広さを持つ大草原で、世界農業遺産や国立公園にも認定されています。野焼きや放牧、採草といった1,000年以上続く人間の営みによって、森林化が防がれ、雄大な草原の景観と独自の生態系が守られてきました。

野焼きは、毎年2-4月に行われ、5月に新しい草が芽吹きます。草原は、地上部全体で光合成が行われ、水は地下に浸透して貯水されます。

阿蘇には、500を超える種類の草が生えると言われており、牛が繁殖力の強い草を食べることによって、絶滅危惧種の草が復活する。牛がいることで生態系が保たれているのです。

また、野焼きをすることで環境が再生される効果もあります。 

また、一般的に、牛肉1kgを生産するためには、約15,000リットルの水が必要で、水資源の枯渇が問題視されます。ところが、阿蘇は、草原があることで貯水効果が高まり、九州を代表する多くの一級河川の水源になっています。「九州の水がめ」といわれているほどで、隣県の宮崎、大分の農業をも支えているといわれています。アンティカ・ロカンダ・ミヤモトが使う牛肉は、この阿蘇で放牧されているあか牛。

宮本シェフが使用するあか牛は、いまでは手がける人も少なくなった放牧で、阿蘇に自生する野草を飼料に育ちます。牧草ではなく、野草を使うのが阿蘇の伝統。

草原は、守るだけでは減っていく。 野草という自然資源を生かすこと。料理人があか牛をおいしく料理することで食べる人が増えると、さらに規模を拡大して放牧ができ、草原が活かすことができる。ボランティアや補助金などで草原を保全するということではない。おいしい牛を放牧で育てることで、一般の消費者にこの草原のしくみを伝えていく。

日本では、独自に配合した飼料を与え人の手で作り上げた、「サシ」の多い肉が、柔らかく美味しいと評価され、高値がつく。草だけを食べる放牧牛をおいしく提供するために、宮本さんは、大学や生産者と共同で放牧の方法や、補助的な飼料の与え方、独自の熟成方法などを研究しています。肉の味を高め、おいしく食べてもらうことで、放牧のあか牛の需要が途切れないようにするための努力です。

肉を食べることで草原と有明海の生態系が守られている

昔の人は環境のためではなく、田畑を耕す「暮らし」のために牛を飼い、その結果として阿蘇の美しい草原が維持されてきました。しかし、農業が機械化され、牛が農耕に使われなくなった現在では、食べるための牛を放牧し、その肉を料理人が美味しく料理することが必要です

また草原は、放牧牛がそのまま食べるだけでなく、干し草に加工したり、バイオマスの資源になったり、堆肥にしたり、今では少なくなった茅葺き屋根の茅として、伝統の建築を守るなど、多くの用途に活用されています。また、阿蘇に降った大量の雨は、火山灰や溶岩の地層でゆっくりとろ過され、カルシウムやマグネシウム、シリカなどの豊富なミネラルを含んだ湧水や地下水となります。その肥沃な水が白川や筑後川などの1級河川を通じて有明海に流れ込み、植物プランクトンや海苔の生育に欠かせない栄養をもたらしています。 

雄大な草原の自然・命の循環をコースに込めて

宮本シェフのコース料理に表現されるのは、阿蘇の千年の伝統である「野焼き」や、雄大な草原から海への命の循環を表現したストーリー。前菜からメインまで、その季節に熊本で旬を迎える野菜や食材が随所に登場します。

またコースには、宮本シェフ自身の記憶も重なります。子どもの頃に食べた祖母の手料理。有明海で放課後に友達と採りに行った貝や魚。故郷の風景。それらが確実に失われつつある風景にも心を痛め、積極的に伝統漁法の漁師さんから買い付けを行い、お皿で表現し、ゲストに訴えます。

地域の自然や伝統という大きな物語と、ひとりの料理人のパーソナルな記憶、その両方がコースのなかに織り込まれ、ただおいしく食べるだけではない、アンティカ・ロカンダ・ミヤモトならではの特別な体験をゲストに提供しています。

ベターミートを選ぶには

サステナビリティを考える時、牛肉はどうしても環境面での負荷が問題になり、使うことがためらわれます。そこでベタミートである放牧牛を調達しようとしても、その流通量は少なく、調達は簡単ではありません。ベターミートの選び方について、肉の専門家である宮本シェフはこう答えます。

 流通量の95%を占める和牛の中には、放牧牛ではありませんが、生産者が家族のように愛情を込めて大切に育てており、アニマルウェルフェアに配慮された、より良く育てられた牛を見つけることができます。またJGAP認証を取得している生産者もいます。このような生産者や認証の肉を使うことも一つの選択肢といえると思います

FOOD MADE GOOD Japan Awards2024 BEST調達賞受賞

アンティカ・ロカンダ・ミヤモトは、2024年に日本サステナブル・レストラン協会に加盟しました。しかし宮本氏は、それまで自分たちの活動を特別にサステナビリティを意識してきたわけではなかったといいます。

私たちは、何か特別にサステナビリティに取り組んできたという感覚ではありませんでした。地元で、昔ながらの方法で誠実に食材を育てている人たちから仕入れる。そういう当たり前のことを続けてきただけなのです

その取り組みをFOOD MADE GOODスタンダードによって客観的に見直した結果、最高評価となる3つ星を獲得。さらに「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2024」では、「BEST調達賞」を受賞しました。

メディアやお客様から好意的な反応をいただきました。でも、何よりうれしかったのは、私たちの仲間である生産者の皆さんが受賞を誇りに思い、一緒に喜んでくれたことです

すでに取り組んでいる店にこそ、FOOD MADE GOODスタンダードを

すでにサステナビリティに関する取り組みを行っているレストランは、すぐにでもスタンダードを始めることをお勧めすると、シェフはアドバイスする。

 自分たちの取り組みが客観的にサステナビリティに値すると高く評価されるかもしれません。また、自分たちになにが足りないのか、具体的に知ることができ、次に何を行うべきか方向性を見出すことができます

シェフ:
宮本けんしん Kenshin Miyamoto

19歳で渡伊。
イタリアの名店「ラ・テンダ・ロッサ」、「ラ・シリオラ」「ヴィッラ・ロンカッリ」などで修行。
27歳で帰国後、実家の「イタリー亭」に勤務。
31歳で「リストランテ・ミヤモト」開店。

2011年
農水省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞を受賞。

2012年
熊本県農業コンクール「農業貢献賞」。
熊日新聞創立70周年記念「熊本グランドデザイン論文」にて優秀賞。
アサヒビール『九州情熱人』にて「熊本で最も熱い人大賞」。
熊本県食農ネットワーク運営委員。
「食の大地・くまもと」世界農業遺産推進研究会代表。
阿蘇地域世界農業遺産推進協議会委員。

2013年
熊本県観光審議会委員就任。
「食の大地・くまもと」親善大使へ就任。
阿蘇地域世界農業遺産協会 顧問就任。
阿蘇地域世界農業遺産認定の立役者となる。

2014年
日本政府より「2015年 ミラノ国際博覧会日本館サポーター」就任を委嘱される。
社会活動支援機構より社会活動大賞受賞。
熊本県知事より「世界農業遺産・阿蘇」認定に尽力したとして、感謝状を授与される。

2015年10月
イタリアミラノで開催されたミラノ国際博覧会にて、熊本県と阿蘇をPRする。
料理のデモンストレーションを行う。

2016年
熊本地震においての支援活動や東京でのチャリティーイベントなどを精力的にプロデュース。

2017年
JAL国内線ファーストクラスの機内食の監修。

2019年
農林水産省「料理マスターズ」シルバー賞受賞。

2020年
老舗料亭「なだ万」全店での「熊本フェア」のアドバイザー就任。

2021年
高島屋百貨店の熊本食材を活用したお中元をプロデュース。

2024年
FOOD MADE GOOD Japan Awards BEST調達賞受賞。

アンティカ・ロカンダ・ミヤモト
熊本県熊本市中央区新屋敷1丁目9−15
https://al-miyamoto.com/

FOOD MADE GOODスタンダードは、世界中で使われている、ホスピタリティ産業(飲食業、ホテル)のサステナビリティの推進度合いをはかることのできる、グローバルスタンダードです。日本サステイナブル・レストラン協会加盟店の正会員店舗は無料で参加することができます。自店のサステナビリティの推進度合いの客観的評価を得られるとともに、どこを改善したらよいのか等のアドバイスが得られます。詳しくは、日本サステイナブル・レストラン協会加盟店にお問い合わせください。

EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」が9月27日から適用開始:ホスピタリティ事業者に求められること

EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」が9月27日から適用開始:ホスピタリティ事業者に求められること

EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」に基づく新たなルールが、2026年9月27日から適用開始となりました。この指令は、レストランやホテルを含むホスピタリティ事業者が、サステナビリティについて消費者に「どのように伝えるか」に大きく関わります。

これは単なる新しい規制への対応ではありません。サステナビリティについて、あいまいな言葉ではなく、具体的な行動と証拠をもとに伝えていくことが、これまで以上に求められる時代への転換でもあります。

ここでは、ECGT指令のポイントと、ホスピタリティ事業者が今後どのように備えるべきかを整理します。

「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」とは

「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令」(Directive (EU) 2024/825、ECGT)は、グリーンウォッシングや商品の早期陳腐化などの不公正な商慣行から消費者を保護し、商品やサービスについて、より信頼できる情報に基づいて選択できるようにすることを目的としたEU指令です。

ECGTは、新たに独立した消費者法体系をつくるものではなく、既存のEUの「不公正商慣行指令(UCPD)」と「消費者権利指令(CRD)」を改正するものです。ECGT指令そのものは2024年3月26日に発効しており、EU加盟国は2026年3月27日までに国内法化することが求められました。そして、これらの新たなルールは2026年9月27日から適用されています。

主な目的は次の2点です。

  • ・グリーンウォッシング、商品の早期陳腐化、信頼性に欠けるサステナビリティ表示などの不公正な商慣行から消費者を守ること
  • ・商品やサービスについて、環境・社会・循環性に関する、より明確で信頼できる情報を消費者に提供すること

ECGTによって改正された不公正商慣行指令は、企業間取引(B2B)ではなく、企業から消費者への商慣行(B2C)を対象としています。商品の販売前、販売時、販売後を含め、商品やサービスの販売・提供・広告などに直接関係するコミュニケーションが対象となり得ます。

違反に対する具体的な制裁や執行方法は、各加盟国の国内法によって異なります。EU法は、制裁が「実効的、比例的かつ抑止力のあるもの」であることを求めています。

また、複数の加盟国にまたがる重大な越境違反等については、加盟国が設定する罰金の最大額を、関係加盟国における事業者の年間売上高の少なくとも4%とすることが求められています。売上高の情報が利用できない場合には、最大額を少なくとも200万ユーロとする必要があります。したがって、「4%または200万ユーロがEU共通の罰金上限」という意味ではありません。

何が対象になるのか

ECGTの適用開始により、サステナビリティに関する消費者向けコミュニケーションでは、特に次の点に注意する必要があります。

1. あいまいな環境主張や、誤解を招く社会的主張

「エコフレンドリー」「グリーン」「環境に優しい」「気候に優しい」「省エネ」「生分解性」など、優れた環境性能を示しているかのような包括的・一般的な環境主張は、一定の要件を満たさない限り使用できません。

ECGTでは、このような「一般的環境主張(generic environmental claims)」について、その主張に関連する「認められた優れた環境性能(recognised excellent environmental performance)」を事業者が実証できない場合、原則として禁止されます。

ここでいう「認められた優れた環境性能」には、例えばEUエコラベル、加盟国で正式に認められたEN ISO 14024 Type Iのエコラベル、または適用されるEU法に基づく最高水準の環境性能などが含まれます。単に何らかの第三者認証を取得しているだけで、すべての一般的環境主張が認められるわけではない点には注意が必要です。

一方で、主張の内容を同じ媒体上で明確かつ目立つ形で具体化している場合には、「一般的環境主張」ではなく、具体的な環境主張として評価されます。

例(一般的):「環境に優しい包装」

例(具体的):「この包装材の製造に使用したエネルギーの100%は再生可能エネルギー由来です」

後者のように具体的に示した場合には、一般的環境主張には該当しません。ただし、その場合でも、主張が正確であり、十分な証拠によって裏づけられていることが必要です。

社会的な主張についても注意が必要です。適正な賃金、社会保障、労働安全、人権、平等、インクルージョン、多様性、社会貢献、動物福祉などは、ECGTによって明示的に「社会的特性」として取り扱われるようになりました。

ただし、環境に関する一般的主張と同じように「包括的な社会的主張が一律に禁止される」という意味ではありません。社会的特性について誤解を招く表示や説明を行っていないかが、ケースごとに判断されます。事業者は、事実に基づく主張についてその正確性を裏づけられるようにしておく必要があります。

ヴィーガンやベジタリアンといった表示も、それ自体が直ちにサステナビリティ表示になるわけではありません。しかし、「ヴィーガンだから地球に良い」「ベジタリアンだから動物福祉に優れている」といった環境面・社会面の利点を暗示するような形で使用する場合には、その文脈によって環境主張やサステナビリティ表示としてECGTの対象になる可能性があります。

将来の環境性能についての主張にも注意

「2030年までにネットゼロを達成します」「2035年までに環境負荷を半減します」といった、将来の環境性能に関する主張についても要件が厳格化されます。

こうした主張を行う場合には、明確で客観的かつ検証可能なコミットメントを示し、測定可能で期限の定められた目標と、その目標をどのように達成するかを示す詳細かつ現実的な実施計画によって裏づける必要があります。

また、その進捗については独立した第三者専門家による定期的な検証が求められ、その結果が消費者に利用可能な形で示される必要があります。

つまり、「いつかサステナブルになります」と宣言するだけでは十分ではありません。どのような目標を、いつまでに、どのような方法と資源を使って達成するのかを示し、その進捗を確認できる仕組みをつくることが重要になります。

2. カーボンオフセットに基づく気候関連の主張

これまで多くの企業が、排出量を算定したうえでカーボンクレジットを購入し、そのオフセットを根拠として商品やサービスを「カーボンニュートラル」などと表示してきました。

ECGTでは、温室効果ガス排出量のオフセットを根拠として、商品やサービスそのものが温室効果ガス排出の観点から「中立」「削減」「ポジティブな影響」を持つと主張することが禁止されます。

これは、カーボンクレジットの購入や外部の気候プロジェクトへの資金提供そのものを禁止するものではありません。また、それらの取り組みについて、透明かつ誤解を招かない形で説明することまで禁止されるわけではありません。

重要なのは、外部で行われる排出削減・吸収を、自社の商品やサービスそのものの気候性能として表現しないことです。

今後、排出削減について消費者に伝える際には、商品やサービスそのもののバリューチェーンやライフサイクルの中で実現した、実際の削減を具体的に示すことが一層重要になります。

なお、オフセットに依存していない場合であっても、「気候ニュートラル」「気候に優しい」といった表現が一般的環境主張に該当する場合には、前述の一般的環境主張に関する要件も満たす必要があります。

3. 要件を満たさない独自のサステナビリティ表示

ECGTでは、サステナビリティラベルについても新しいルールが設けられています。

原則として、消費者向けに表示されるサステナビリティラベルは、次のいずれかである必要があります。

  • ECGTの要件を満たす「認証制度(certification scheme)」に基づくもの
  • 公的機関によって設けられたもの

公的機関によるものではないサステナビリティラベルの場合、その認証制度には独立した第三者による検証が必要です。さらに、以下のような要件が求められます。

  • ・認証制度の要件や利用条件が公開されていること
  • ・透明性と信頼性が確保されていること
  • ・要件を満たす事業者に対して、公平かつ非差別的な条件で開かれていること
  • ・要件への適合状況を、適格で独立した第三者が監視していること
  • ・制度の要件が、関連する専門家やステークホルダーとの協議を経て設定されていること

2026年9月27日時点で市場に存在するサステナビリティラベルも、この要件を満たしている必要があります。要件を満たさない既存制度は制度を適合させる必要があり、そうでなければ関連するラベルを商業コミュニケーションから外す必要があります。ECGT自体には、この日以降の追加的な移行期間は設けられていません。

Food Made Good Standardについても、こうした新しいEUの要件を踏まえ、認証制度の透明性、第三者検証、証拠審査などの仕組みを整備しています。

Food Made Good Standardおよびそれに関連するプロセスについては、監査パートナーであるIntertekによる確認を経ており、ECGTにおけるサステナビリティラベルの認証制度要件を踏まえた運用が進められています。

なお、サステナビリティラベルとして認証制度の要件を満たすことと、「グリーン」「環境に優しい」などの一般的環境主張を使用するための「認められた優れた環境性能」を示すことは、法律上別の問題です。

認証ラベルが使用できるからといって、それだけであらゆる環境主張を自由に行えるわけではありません。

4. 事業の一部についての取り組みを、全体に当てはまるかのように伝えること

ECGTでは、商品やサービスの一部分にしか当てはまらない環境上の利点を、商品・サービス全体の特徴であるかのように伝えることにも注意が必要です。

例えば、商品の包装だけに再生素材を使用しているにもかかわらず、商品全体が再生素材でできているかのように「再生素材を使用」と表示すれば、消費者に誤解を与える可能性があります。

ホスピタリティ事業でも同様の考え方が重要です。例えば、「すべて地元産のものを調達しています」という表現では、食材だけでなく、飲料、清掃用品、アメニティなども含めて、すべて地域から調達しているように受け取られる可能性があります。

実際には「料理に使用する野菜の80%を○○県内から調達しています」ということであれば、その範囲を明確に示す方が、より正確で信頼できるコミュニケーションになります。

ホテルグループ全体、レストラングループ全体、あるいは施設全体について環境上の主張をする場合にも、実際にその範囲すべてで主張が成立しているのかを確認する必要があります。

5. 法律で義務づけられていることを、特別な特長として宣伝すること

法律によってすべての同種の商品やサービスに求められている要件を、あたかも自社だけの特別なメリットであるかのように宣伝することも問題となります。

つまり、「法律を守っていること」自体を、競合他社にはないサステナビリティ上の優位性のように表示することはできません。

また、商品やサービスと実質的に関係のない利点を強調することも禁止対象となり得ます。欧州委員会が示している考え方に照らせば、もともと該当することが当然である商品について「○○フリー」などと強調し、消費者に特別な優位性があるように思わせる表示などには注意が必要です。

Food Made Good Standardが単なる法令遵守だけではなく、法的要件を超えた実践や継続的な改善を重視している理由の一つもここにあります。法令を守ることを出発点とし、その先にある実質的な行動を評価・改善していくことで、事業者がサステナビリティについて信頼できる形で伝えるための基盤をつくることができます。

対象となるのは、主に消費者向けのコミュニケーション

ECGTによって改正された不公正商慣行指令は、B2C、つまり事業者から消費者に向けた商慣行を対象としています。

そのため、投資家や企業などを対象として作成される企業レベルのサステナビリティ報告書やESG報告書は、通常、それ自体がこのルールの直接の対象になるわけではありません。

しかし、その報告書に掲載した情報を、ウェブサイト、SNS、広告、メニュー、店頭ポスター、商品パッケージ、消費者向けキャンペーンなどに転用すれば、そのコミュニケーションは消費者向けの商慣行としてECGTの対象となる可能性があります。

「ESG報告書に書いてあるから、そのまま広告にも使える」とは限らないということです。

EU域外の事業者はどうなるのか

ECGTはEU法であるため、EU域内企業だけに関係すると思われるかもしれません。

しかし、ECGTによって改正された不公正商慣行指令は、EU単一市場における消費者保護を対象としており、事業者や商品がEU域内のものか、第三国のものかだけで適用範囲が決まるわけではありません。

欧州委員会も、EU単一市場の消費者保護に関係する商慣行については、事業者や商品がEU域内または第三国のいずれに由来するかにかかわらず、ルールが適用され得ることを明確にしています。

そのため、日本を含むEU域外の事業者であっても、EUの消費者を対象として商品やサービスを販売・広告する場合には、このルールを意識する必要があります。

例えば、日本のホテルやレストランがEUの消費者を明確に対象としたウェブサイトやキャンペーンでサステナビリティに関する主張を行う場合には、ECGTを含むEU消費者法の適用可能性について確認しておくことが重要です。

こうした基準は、EU市場だけにとどまらず、今後、企業のグローバルなサステナビリティコミュニケーションにも影響を与えていく可能性があります。

ECGTはホスピタリティにとって何を意味するのか

ECGTの適用開始は、サステナブルなホスピタリティが、より成熟した段階に入る一つの契機と言えるでしょう。

これからは、「サステナビリティに取り組んでいます」という意図を示すだけではなく、次の点を具体的に示すことが、これまで以上に重要になります。

  • ・何をしているのか
  • ・どこまで実現できているのか
  • ・その根拠は何か
  • ・どのように進捗を測っているのか

しかし、説明責任が強化されることは、ホスピタリティ業界にとって必ずしも悪い知らせではありません。むしろ、本気でサステナビリティに取り組んできた事業者にとっては、自らの取り組みをより信頼できる形で伝えられる機会になります。

エネルギー効率の改善、食品廃棄物の削減、地域の生産者との関係づくり、スタッフの働く環境の改善、責任ある調達などは、環境や社会への貢献だけでなく、コスト削減、事業のレジリエンス、顧客やスタッフからの信頼、地域との関係強化にもつながり得ます。

共通のルールが整うことで、あいまいな「サステナブル」という言葉だけが独り歩きする状況から、実際に行動している事業者が、その取り組みを証拠とともに伝えられる環境へと変わっていくことが期待されます。

だからといって、何も言わないことが答えではありません

新しいルールを前に、「サステナビリティについて発信しない方が安全なのではないか」と考える事業者もいるかもしれません。

しかし、必要なのは「グリーンハッシング」、つまりサステナビリティについて沈黙することではありません。

大切なのは、「言わないこと」ではなく、「正確に言うこと」です。

ホスピタリティにおけるサステナビリティへの取り組みは、簡単に完成するものではありません。試行錯誤を重ねながら、継続的に改善していくものです。

だからこそ、「完璧です」と宣言するのではなく、「現在ここまでできています」「この数字を改善しています」「この課題にはまだ取り組んでいる途中です」と、進捗を具体的かつ誠実に共有することが重要になります。

実質的な進展を業界全体で共有し、学び合うことが、ホスピタリティの持続的な変化につながります。

事業者がECGTに対応するためにできること

まず重要なのは、現在の消費者向けコミュニケーションを一度見直すことです。ウェブサイト、メニュー、SNS、広告、ポスター、ステッカー、店頭表示、商品パッケージなどに、「グリーン」「エコフレンドリー」「環境に優しい」「カーボンニュートラル」「気候に優しい」といった表現が使われていないか確認してください。

使われている場合には、その主張が具体的に何を意味し、どのような根拠があり、ECGTの要件を満たしているのかを確認する必要があります。

  • ・現在使用しているサステナビリティラベルを見直す。 公的機関によるラベルなのか、あるいはECGTの要件を満たす第三者認証制度に基づくラベルなのかを確認します。認証制度の要件や利用条件は公開されている必要があります。自社で独自に作成した「エコバッジ」や、第三者検証の仕組みを持たないサステナビリティマークについては特に注意が必要です。
  • ・一般的な表現ではなく、具体的な事実を伝える。
  • 「地球に優しいレストラン」よりも、「2025年度と比較して店舗の電力使用量を18%削減しました」と伝える方が、消費者にとっても分かりやすく、検証可能です。
  • ・すべての主張について証拠を残す。
  • エネルギー使用量、食品廃棄物量、水使用量、再生可能エネルギーの割合、地元産食材の割合、認証食材の購入記録など、主張の根拠となるデータや資料を整理しておきます。「地元産」という表現を使うのであれば、「地元」を何km圏内、あるいはどの地域として定義しているのかも明確にするとよいでしょう。
  • ・主張する範囲を明確にする。
  • 事業の一部にしか当てはまらない取り組みを、事業全体の成果として表現しないことが重要です。例えば、店舗の電力が100%再生可能エネルギー由来でも、厨房で化石燃料由来のガスを使用しているのであれば、単純に「当店では100%再生可能エネルギーを使用しています」と書くと、実際より広い範囲を示しているように受け取られる可能性があります。「店内で使用する購入電力の100%を再生可能エネルギー由来に切り替えています」など、対象を具体的にする方が適切です。
  • ・企業向けESG情報を、そのまま消費者向けコピーにしない。
  • 投資家向けの報告書で使用している表現が、そのまま消費者向け広告に適しているとは限りません。消費者向けのコミュニケーションでは、証拠に裏づけられているだけでなく、分かりやすく、具体的で、誤解を招かないことが重要です。
  • ・将来目標については、目標だけでなく計画と進捗を示す。
  • 「2030年までにネットゼロ」といった目標を発信する場合には、その達成方法、測定可能な中間目標、必要な資源、進捗確認の仕組みまで考える必要があります。
  • ・社内の確認体制をつくる。
  • サステナビリティに関する表現を、マーケティングやPR部門だけで判断するのではなく、サステナビリティ・ESG担当者などが確認できるプロセスを整えることも重要です。
  • ・信頼できる認証制度を、自社の改善のための枠組みとして活用する。
  • Food Made Goodのように、事業者の実践を幅広く確認し、改善につなげていく第三者認証の枠組みは、単に「ラベルを取得する」ためのものではありません。何ができていて、どこに改善の余地があるのかを整理し、その取り組みについて根拠を持って消費者に伝えるための基盤として活用することが重要です。

これから求められるのは「言わないこと」ではなく「証拠を持って伝えること」

ECGTがホスピタリティ業界に投げかけているメッセージは、サステナビリティについて話すことをやめることではありません。

あいまいな言葉から具体的な事実へ。

自己宣言から検証可能な証拠へ。

「良いことをしています」というメッセージから、実際の行動と進捗の共有へ。

という転換を促していると言えるでしょう。

ホスピタリティは、食材、エネルギー、廃棄物、人、地域、生産者など、多くの社会・環境課題と日々直接関わる業界です。

だからこそ、実際の取り組みを可視化し、測定し、改善し、その進捗を誠実に伝えることには大きな意味があります。

SRAでは、Food Made Goodを通じて、レストランをはじめとするフードサービス事業者が、自らの現在地を理解し、継続的な改善を進め、その取り組みを信頼できる形で伝えられるよう支援していきます。

参考

     

    参照記事:https://thesra.org/news-insights/insights/how-to-make-sure-your-hospitality-business-is-ready-for-ecgt/