継続的改善の精神でアジアベストレストラン50に選ばれたTOYO EATERY

継続的改善の精神でアジアベストレストラン50に選ばれたTOYO EATERY

世界中のシェフやレストラン、特に影響力のある著名なシェフや有名店は、食の未来、ひいては地球の未来に対して、非常に重要な役割を担っています。

2023年のアジアのベストレストラン50は、まさにこのことを証明するものでした。 今年の受賞者であるマニラのTOYO EATERYは、自らの役割と責任を認識しているだけでなく、それに真正面から取り組み、フィリピンのみならず世界中のレストランに感銘を与えるような、前向きな変化をし続けるモデルを作り出しているからです。

環境を守ることはサステナビリティの重要な要素ですが、TOYO EATERYでは、それだけではなく、共に働く人々の伝統や文化、テロワール(風土特性)を尊重することを最も大切にしています。

TOYO EATERYは、フィリピン国内の良い影響を与えている人々との関係づくりを中心に事業を展開しています。特に、伝統食材や郷土食材に焦点を当て、サプライヤーや生産者をパートナーとして長期的な関係を築くことを大切にしています。

ジョーディ・ナバラ シェフ

この進歩的なレストランの理念の中で最も感銘を受ける要素のひとつは、可能な限り良い影響を与える食材を調達し提供するために、常に改善に取り組み続け、新たな方法を探し続けるひたむきな姿勢です。このことは、2022年の包括的なサステナビリティレポートに記載された彼らの発言によく表れています。

「私たちの店は世界で最もサステナブルなレストランではないかもしれませんが、今日が今までで最もサステナブルだと思います。これからも、私たちの価値観を守り、より良いものにしていき、世界がどんな変化に直面しても対応できるように成長し進化し続けていこうと計画しています。」

その例が、牛肉の転換です。彼らは2020年に輸入牛肉を使用しないという決断をしました。そして、その2年後の2022年には、メニューから牛肉を完全に無くしました。今では、テイスティングメニューの半分以上がベジタリアンかビーガンです。

改善し続けることへのコミットメントをさらに証明しているのが、「地元産」「オーガニック」「トレーサビリティ」の三原則に基づく透明な調達方針です。現在、原材料の90%が地元産、75%がオーガニック、同じく75%はトレーサビリティが確保されたものです。2025年にはそれぞれ95%、90%、90%にするという目標を掲げています。

 

マウンテン・バイオレット古代米という、その名の通り紫色(炊いても紫色)の米など、伝統的で土着の食材は彼らの食の哲学のまさに核心です。このような食材を調達し提供することで、生物多様性と職人的生産者のネットワークの両方を支援しています。

 

レストランは、その店の置かれた環境の中で運営しなければなりません。TOYO EATERY の場合、紅茶やコーヒー、砂糖といったハイリスクな食材の90%地元で調達し、しかも、そのほとんどをオーガニックにしたことが、彼らにとってプラスに働きました。

TOYO EATERY の看板メニュー、バハイクボ 

TOYO EATERY の精神を理解するためには、看板メニューのひとつである「バハイクボ」を見るのが一番でしょう。バハイクボは、18種類の野菜をさまざまな方法で調理したものです。この料理は、TOYO EATERY のパートナーである農家と築き上げ、これからも深めていく貴重な関係性を象徴しています。

農家との関係は、TOYO EATERYが女性農業者の協同組合であるGood Food Co,のために行った大規模な募金活動にも表れています。この活動を通して、農家の気候変動リスクへの適応や、リスクに対する生産者コミュニティの対策強化を支援しています。

店舗スタッフの健康も重要な優先事項です。毎年、店舗を休業して全従業員に休息とリフレッシュの時間を提供しています。

レストランの影響を全般的に改善するという目標は、調達にとどまりません。2年後を目標に、エネルギーと水の消費量を25%削減し、2024年末までに食品廃棄物ゼロを達成することを約束しています。

ジョーディ・ナバラシェフと彼のチームの受賞を祝福し、さらなる活躍を期待します。今後も彼らの活躍に注目していきたいと思います。

トム・タナー、サステナブルレストラン協会)

フェアトレード:人と地球のために公平・公正に調達するか、それともそれを失う危険を冒すか

フェアトレード:人と地球のために公平・公正に調達するか、それともそれを失う危険を冒すか

記事は英国SRAのニュースを翻訳し抜粋したものです。

どの店でどんな料理を食べるかを決める時に、「持続可能性を意識している」と答えた消費者は70%に上ることがイギリスCGAの調査で明らかになりました。このような風潮の中で、ホスピタリティ業界が持続可能性の実現のために懸命に努力することは、業界すべてのリーダーにとって喫緊の課題です。 しかし、食品廃棄物、CO2排出量、プラスチック使用量など、自社店舗内の課題は山積みです。さらに広範囲のサプライチェーンの持続可能性について考えることなど、途方もない作業に感じても無理はありません。

しかし、顧客が重要視するのは、自社店舗だけでなく事業のあらゆる側面、つまりさらに広範囲のサプライチェーンも持続可能であることです。Co-opのエシカル消費レポートによると、2010年から2020年の間に、エシカルフードやドリンクへの支出は54億ポンドから141億ポンドに増加しており、英国の消費者の中で持続可能な消費への関心が高まっていることを示しています。この関心の高まりはホスピタリティ業界でも顕著になっており、CGAFood Insights Reportによると、69%の消費者が、倫理的に調達された飲食物を重視すると回答しています。

倫理的な調達によって、意識の高い消費者にアプローチできる機会が得られるだけでなく、私たちの大切な食材や飲料を生産する農家や労働者を手厚くサポートすることは、レストラン事業の安定性にとっても有効です。 例えば、最近の研究では、現在コーヒー豆が栽培されている農地の約50%が、気候変動により2050年までに栽培に適さない土地になる可能性があると言われています。気候変動への対策を取ると同時に、農家がこの状況に適応できるようにするサポートがすぐにでも必要です。

新型コロナや世界的な生活費高騰によって、農家が直面する困難はさらに深刻化し、生産コストは事業の継続を難しくしています。コーヒー生産者の平均年齢が50歳を超えるなど、若手世代の農業離れに加え、気候変動の影響があり、企業が依存する生産物の将来的な安定供給に深刻なリスクがあります。気候変動は、私たちにとって非常に大切な食材と、それらを生産する農家や農業従事者の生活を脅かす脅威となっています。

会社として、サプライチェーンの農家や生産者に協力できること

生産者を支援するために最初にすべきことは、自社のサプライチェーンにおけるリスクを理解することです。フェアトレード財団は最近、世界初のリスクマップというものを発表しました。これは、様々な生産物の生産者団体の意見を聞き、フェアトレード財団が活動する国で最も大きな人権リスクと環境のリスクを包括的に示したものです。

 





フェアトレードが作成したリスクマップ

 自社店舗でフェアトレード製品を使用したり、個人的にフェアトレードの原材料や製品に切り替えることで、特定されたリスクに取り組むサプライチェーンの農家や労働者、そのコミュニティの支援をすることになります。 フェアトレードの生産者は、一連の社会的、経済的、環境的基準に従って生産しています。これらの基準により、彼らは環境的に持続可能な手法を用いて生産した生産物をフェアトレード製品として販売することができ、より公正な価格と様々な恩恵を受けることができます。フェアトレード認証の製品とそうでない製品の消費者価格は多くの場合、大きな差はなく、フェアトレード・バナナの価格はたった1ポンド高い程度ですが、地域社会への影響は生活を変えるほどの大きな違いを生みます。

 

他に知っておくべきこと

フェアトレード製品の種類は非常に幅広く、イギリス国内だけでも6,000点以上が認証されています。コーヒー、バナナ、チョコレートが有名ですが、南アフリカや南米産のフェアトレードワインや、スタッフの制服にフェアトレードコットンを用いるなど、調達にサステナビリティを取り入れる機会はたくさんあります。

フェアトレード製品を購入すると、生産者は「フェアトレード最低価格」によって保護されます。これは、フェアトレードを通じて製品が販売された時に生産者に支払われる最低価格のことです。 また、農家はフェアトレード・プレミアムを受け取ることができます。このプレミアムは、地域医療や住宅の改善など、農家が選択した事業、社会、環境プロジェクトに投資され、農家の収益を他の基本的なニーズに回すことができます。フェアトレード製品を仕入れるというシンプルな選択を通じて、会社としてこのようなプロジェクトに貢献することができるのです。

最後に、何を購入するか決める時に持続可能性を意識する倫理的意識の高い消費者について振り返ってみましょう。CGAによると、消費者の53%が外食する際に品質が高くサステナビリティの賞を受賞しているものを選ぶことが多いと回答し、消費者の40%が飲食店はサステナビリティの情報提供についてもっとして欲しいと考えています。フェアトレードは世界で最も信頼され、認知されている倫理的認証であり、英国での認知度は87%で、78%の人がフェアトレードに関心があると答えています(KantarQ4 2022)。サプライチェーンに実際的なインパクトを与え、取り組みについてシンプルで効果的な方法で消費者に伝えたいホスピタリティビジネスの事業者にとって、フェアトレードは最適な選択肢となります。

(ウィル・ブラウニング、フェアトレード財団パートナーシップ開発責任者)

日本サステイナブル・レストラン協会では、今年も5月にフェアトレードラベルジャパンのフェアトレード・ミリオンアクションキャンペーンに特別協力をしています。このキャンペーンは、我々のサステナビリティの推進項目「世界の農家とサプライヤーの支援」に貢献することになります。是非キャンペーンへの参加を通じてこの項目への貢献を進めてください!

【参照サイト】https://foodmadegood.jp/fairtrade-million-action-campaign2023/

フェアトレードミリオンアクションキャンペーン2023に参加しましょう!

フェアトレードミリオンアクションキャンペーン2023に参加しましょう!

日本サステイナブル・レストラン協会では、今年も5月にフェアトレードラベルジャパンのフェアトレード・ミリオンアクションキャンペーンに特別協力をしています。

このキャンペーンは、我々のサステナビリティの推進項目「世界の農家とサプライヤーの支援」に貢献することになります。是非キャンペーンへの参加を通じてこの項目への貢献を進めてください!

 【期間】 202351(月)531(水)

 【対象】
・フェアトレードの飲み物(コーヒー、紅茶、ハーブティー、ココア、ワイン等)のご提供や、フェアトレード食材(スパイス、オイル、ごま、砂糖、はちみつなど)をメニューにご利用いただける飲食店
・レストランやカフェ店舗のほか、ホテルやその他施設なども対象です。
※複数店舗をお持ちの企業様は、代表店舗1店、もしくは店舗ごとにご登録をお願いいたします。

 【掲載イメージ(昨年のサイト)】
 https://2022.fairtrade-campaign.com/partners/shop.html
※メニューとして提供している飲食店・レストランを本キャンペーンの特設サイトにてご紹介させていただきます。

 【登録】
キャンペーンへの登録は以下の申請フォームからお願いいたします。
申請フォーム https://pro.form-mailer.jp/fms/ec2ec567282542

【参加登録料】無料

【登録締切】
最終締切:2023513日(土)

※登録いただき次第、順次HPにて公開してまいります。
※締切以降のご登録も可能ですが、出来るだけ締切前にご登録ください。


【広報物】:フライヤー、ポスター、スイングPOP、カードPOP、卓上POPなど
イメージはキャンペーン公式サイトよりご覧いただけます。(データをダウンロードして是非印刷してお使いください)

海外からの輸入食材、例えば、コーヒー、紅茶、ハーブティー、ココア、ワイン等の飲み物、またはスパイス、オイル、ごま、砂糖、バナナ、チョコレートなどを使用している場合、もしかしたら自分達が知らないうちにその調達物が環境や人権への悪影響を与えている可能性もあります。フェアトレードに配慮している食材は、その海外の地域の生産者さんが環境や人権に配慮された環境で幸せに働くことができる方法がとられていますので、まず海外からの食材があるか確認して、フェアトレード配慮の商品をメニューに採用するとともに、本キャンペーンに参加してみましょう!

英国SRAのCEOが来日しFOODEX にて登壇!英国・香港・日本の交流会も開催されました!

英国SRAのCEOが来日しFOODEX にて登壇!英国・香港・日本の交流会も開催されました!

3/9 ザ・キャピトルホテル東急で開催されたネットワーキングイベントの集合写真

日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-Japan)は、2023年3月7日から10日まで東京ビッグサイトで開催されたアジア最大級の国際食品・飲料展「FOODEX JAPAN 2023」にサステナビリティの専門家として参画しました。

3月9日(木)には、SRAの英国本部からCEOのジュリアン・カイウエット・ノーブル(Juliane Caillouette-Noble)が世界のレストランのサステナビリティに関してプレゼンテーションを行い、世界のサステナブル・レストランの最新動向や取り組みを紹介しました。

 

その後行われたパネルディスカッションには、英国SRAと香港、また日本からサステナビリティを先進的に推進する加盟店のシェフが登壇しました。香港からThe Mandarin Oriental Landmark Hotel in Hong Kongのリチャード・エッケバス氏、英国SRAからOzone Coffee Roastersのサム・スコット氏、兵庫県芦屋のBottega Blu.の大島隆司氏が登壇し、「地球と人にとって有益な」レストランづくりについてディスカッションが行われ、サステナビリティに取り組む世界の飲食業界のリーダーから、持続可能な飲食店を実現するためのアイデアやノウハウが共有されました。



FAROでの懇親会の様子

英国SRAと香港との交流会は、3月8日にSRA-Japanのメンバーレストランの「FARO」で行われました。能田耕太郎シェフと加藤峰子シェフパティシエが手掛けるヴィーガンガストロノミーを推進するレストランで、ヴィーガンチーズ、フラワータルト、ヴィーガンティラミスなど斬新なヴィーガン料理が振る舞われました。

 

写真左から杉浦シェフ、曽我部総料理長 

3月9日(木)には、ザ・キャピトルホテル東急​​​​で英国SRAのCEOであるジュリアン・カイウエット・ノーブル氏、また英国SRAからサム・スコット・シェフ、さらに香港CEOハイディ・スパーレル氏、またThe Mandarin Oriental Landmark Hotel in Hong Kongのリチャード・エッケバス・シェフ、香港からその他のシェフを囲んでネットワーキングが行われました。そのネットワーキングイベントでは、​​ザ・キャピトルホテル東急総料理長の曽我部 俊典氏とONODERA GROUPエグゼクティブシェフの杉浦 仁志氏による​​サステナビリティに配慮した料理が振る舞われました。​

写真左からSRA-Japan下田屋、香港ハイディ・スパーレル氏、英国SRA ジュリアン・カイウエット・ノーブル氏

また、​​​​日本サステイナブル・レストラン協会代表理事の下田屋毅から、コロナが明けて日本にもインバウンドが戻ってきており、日本の飲食店レストランも昔のような活気が戻ってきており、サステナビリティの推進についてもより関心が高くなってきていることを共有するとともに、英国SRAのジュリアン・カイウエット・ノーブル氏、そして香港のハイディ・スパーレル氏からグローバルに連携を進めてきており日本ともその連携をこれから進めていくことをお話いただきました。

サスティナブルキッチンROSYのランチ交流会の集合写真

3月10日(金)には豊洲市場の見学後に、サステナビリティを推進する日本サステイナブル・レストラン協会の加盟店である「サスティナブルキッチンROSY」でランチ交流会が行われました。SRA-Japanの企業パートナーで、持続可能な漁業と養殖に取り組み、漁業者を支援している「UMITO Partners」の岡本氏、東京湾のスズキ漁業者である「海光物産」の大野氏から日本のサステナブルシーフードについて学びました。

最後に、ザ・ランドマーク・マンダリンオリエンタル香港の総料理長、リチャード・エッケバス氏の言葉をお伝えさせていただきます。

「東京で開催されたFOODEXで、SRA‐Japanとのコラボレーションによるトークセッションに参加できて嬉しく思います。サステナブルな飲食店を実現するという、同じ思いで活動している仲間に出会えただけでなく、私たちのノウハウを日本の業界関係者と共有することができたからです。交流会では、日本の飲食店と交流し、さらに詳しく彼らの経験から学ぶことができました。3年間のパンデミックの後、海外の同業者と会うのは新鮮で、今後とも、このような異文化体験の機会をたくさん持ちたいと思います。」

英国SRAと香港からの来日は、サステナブルな飲食店を実現するためのアイデアやノウハウが共有された素晴らしい機会となりました。今後も、このような海外関連団体との連携を行い、よりサステナブルな飲食業界の実現に向けて日本サステイナブル・レストラン協会としても推進してまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。


※本記事の一部に地球環境基金の助成金が使用されています。

2023年度アジアのベストレストラン50「アイコン賞」を「レフェルヴェソンス」の生江史伸氏が受賞

2023年度アジアのベストレストラン50「アイコン賞」を「レフェルヴェソンス」の生江史伸氏が受賞

*この記事は「世界のベストレストラン50」のニュースを翻訳、PRTimesの記事よりコメントを抜粋したものです。

 

この度、SRA-Jでアドバイザーとしてもご協力してくださっている「レフェルヴェソンス」の生江史伸氏が2023年度アジアのベストレストラン50「アイコン賞」を受賞されました。受賞にともない、「世界のベストレストラン50」のニュースでインタビュー記事が掲載されておりますのでご紹介します。
生江史伸氏は、東京のL’Effervescence(レフェルヴェソンス)で、倫理観、そして斬新な信頼感を料理の構成に注入する新しい方法を見出しています。ニック・コルディコットは、「2023年アジアのベストレストラン50」アイコン賞を受賞したシェフにインタビューを行い、彼のストーリー、使命、そして未来について詳しく聞きました。

 

生江氏の両親が息子の史伸氏を、発展途上国の政治を研究するために 日本のエリート大学である慶應義塾大学に送り出したとき、 バケツに入ったタマネギに振り回されるとは思ってもみなかったでしょう。

 

しかし、お金が必要だった史伸氏は、キャンパス近くのパスタ屋でアルバイトをすることになりました。このアルバイトが、両親を呆れさせながらも、30年後に『アジアのベストレストラン50』のアイコン賞2023を受賞するような方向へと彼を導いていきました。

 

生江史伸氏は、皿洗いから玉ねぎ刻みに昇進したとき、料理への興味がわいたといいます。「1日に3キロ、5キロのニンニクを切っていました」と彼は言う。「好奇心が刺激されました。スポンジではなく、包丁を持てるということが、とても光栄に思えたんです」。

 

生江氏は料理を作りたかったといいます。イタリア料理が理想です。フランス料理以外なら何でもよかったのです。「フランス料理には強い偏見がありました。彼の心はイタリアにあった。日本社会の窮屈さから解放され、イタリア人のように暮らしたいと思っていました。しかし、どうやって行けばいいのかわからない。コネもない。ビザの取り方さえわかりませんでした。」



大学在学中にレストランで働き始め、皿洗いから玉ねぎのみじん切りまで経験した生江シェフ

 

代わりに、彼は東京の評判の高いイタリアンレストランで仕事を見つけ、フュージョンレストランを開くプロジェクトに参加しました。新しい上司が、ニューヨークに 送り込んでくれ、「毎日たくさんの食事をしたので、カロリーを消費するためにマンハッタンを歩き回っていました。」と彼は振り返る。そんなある日、彼は料理専門書店「キッチンアーツ&レターズ」に出くわしました。

 

店内には、たった1冊の本が並んでいた。「まるで神の啓示のようでした」と生江は言う。ミシェル・ブラス(Michel Bras)の『エッセンシャル・キュイジーヌ(Essential Cuisine)』である。「ミシェル・ブラスは食材にとても誠実でした。トマトはトマトらしく、ナスはナスらしく、その形を残しているところが好きでした」。 

 

そして、もう一つのサインは、ブラス氏が北海道にレストランをオープンするというニュースでした。1週間の体験入学をした生江は、そのときから心を奪われていた。「素晴らしいキッチン、素晴らしいシェフ、美しい環境と風景……。「私は大都市(横浜)で育ったので、自然の美しさに魅了され、そして気づいたのです。ここが私の居場所なのかもしれない “と。

 

その3年後、ブラス氏は生江氏を副料理長に抜擢し、一流料理学校の卒業生を含む年長者や経験豊富な同僚よりも格上としました。時間が経つにつれ、そして謙虚になるにつれ、この状況はそれほど気まずいものではなくなくなりました。シェフは、自分の経歴の少なさが役に立ったと考えています。「私は、何も書かれていないホワイトボードだったのです。シェフが大好きで、何でも吸収していました。だから、彼の哲学に対する私の思いは、厨房の誰よりも強かったかもしれません」。

 

しかし、5年が過ぎた頃、彼は他に何があるのだろうと思い始めました。「私は別の武器が欲しかった」ので、イギリスのブレイにある「ザ・ファット・ダック」でヘストン・ブルメンタール氏のもとで働くことにしました。ブラス氏とブルメンタール氏は、一方は自然に目を向け、他方は科学に目を向けるという、まったく異なる性格の持ち主だが、生江氏は共通点を見出しました。独学で料理を学び、新しい方向性を模索し、彼にインスピレーションを与えました。

 

東京で新たなスタート

2010年、生江氏は自分のレストランを持ち、東京の高級住宅街、西麻布にL’Effervescence(レフェルヴェソンス)をオープンさせました。2人の師匠のアイデアを融合させた料理は、批評家からも賞賛されましたが、今となっては「奇妙でばかばかしい」と表現します。「私は、野生のハーブやよくわからない植物、採集したもの、それに乳化剤や泡、液体窒素をたくさん入れようとしていました」と彼は言う。「それは、あまり自然なことではありませんでした」。

 

以来10年余り、生江氏は自らの哲学に磨きをかけてきました。トリュフやブータン産のマツタケを空輸する程度で、食材は99%日本産です。



L’Effervescenceの看板メニューであるカブ料理「Fixed Point」は、レストランの歩みを象徴しています。

 

分子生物学的なタッチは減り、低音調理器の出番は少なくなったが、看板メニューのカブを4時間水に浸し、バターで味付けする料理には欠かせない存在です。この料理は開店当初からメニューに載っています。季節限定のメニューのはずだったが、生江氏がメニューに入れ替えようとした矢先、2011年に日本で地震が発生しました。震災直後の東京では、24人のスタッフが1日に1人しか来店しないこともあり、新メニューを考案する余裕はなかったといいます。カブは私たちの出発点であり、その料理から私たちの歩みを見ることができます」という理由から、現在では「フィックスドポイント(不動点)」と名付けられています。

 

彼はそれを賞賛で測定することもできました。L’Effervescence(レフェルヴェソンス)は2014年以来、アジアのベストレストラン50に名を連ね、2021年にはミシュランの3つ星を獲得し、サステナビリティのためのグリーンスターも獲得しています。しかし、おそらく最高の尺度はこの最新の受賞であり、なぜなら生江氏は料理の才能よりもはるかに多くのことでアイコンとなっているからです。

 

厨房の向こう側を見る

シェフは、自分の評判の高さと、L’Effervescenceで食事をする余裕のある一部の社会との格差を痛感しており、自分の立場を利用しようと決意しています。

 

「高級レストランの世界は、3〜5パーセントの特権階級の人たちだけの小さなコミュニティです。「しかし、私はファインダイニングの技術や知識の幅を広げ、社会のために役立てたいのです」。だから、農業経済学と海洋生物学を学び、生物多様性、海洋砂漠化、日本の林業政策の誤りなどについて熱く語ります。

 

地域社会レベルでは、人々が自分たちの食べるものについてもっと考えるようになることを望んでいます。スーパーマーケットがビッグデータを使って食の選択肢を狭め、それが農家に与える影響を心配しています。生江氏は、親子でダイビングに出かけ、プロの漁師と一緒に海藻を採取し、採取した海藻を使った料理を食べさせたことがあります。彼のメニューやウェブサイトには、砂糖からセロリまで、すべての食材を提供してくれる職人が掲載されていますが、これは食材の品質について柔軟に対応するためではなく、人々が小さな生産者から購入することを望んでいるからです。



美食界が農産物との関係を見直すことを願う生江氏

 

国家レベルでは、彼のメガホンが日本政府に圧力をかけることを期待しています。日本周辺の海域で何が起こっているのかについて、より透明性を高めたいと考えており、重要なデータが欠落している公式海図を発見したと述べています。これは当局が「ここには何もない!」と叫んでいるのと同じことだといいます。

 

また、国際的なレベルでは、日本の指導者は国際的な圧力に敏感であり、生江氏の立場を利用してその圧力を高めることができるのであれば、そうするつもりだといいます。昨年は国連本部で、沿岸海域の再生についてスピーチをしました。また、コロナによってレストランが一時閉店に追い込まれた時、彼は勤務前のアドレナリンが、今は目的もなく出ていることに気がつきました。

 

「精神的に参っていたんです。何かしなければと思ったんです」と彼は言う。レストランは社会にとって重要な存在なのか、もしそうだとしたら、人々はそれを理解しているのか。”どうしたらこの業界を価値あるものにできるだろう?”とずっと考えていました。社会科学を通してそれができるかもしれないと考えています。

L’Effervescenceは、食事をさせるだけでなく、教育することにも努めている

 

修士論文は「An Analysis of the Value of the Restaurant Industry(外食産業の価値分析)」と題し、デンマーク・ノーマのレネ・レゼピシェフ、瓢亭/Hyoteiの高橋義弘氏、カンテサンスの岸田周三氏、アメリカ・シングルスレッドのカイル・コノートン、茶禅華の川田知也氏らミシュラン三つ星シェフ5人へのインタビューに基づいて、来月出版予定です。

 

彼は、学問とレストラン業界の架け橋となり、より効率的に、より有用に、より社会構造に不可欠な存在になるよう、他の人々を鼓舞したいと言います。「レストラン業界は、厨房では、不必要に怒ったり、他人を出し抜こうとしたりと、いつも無駄なことにエネルギーを使っているからです」。

 

厨房での仕事を超えて、これらすべてが生江史伸氏をアイコンにしているのだが、彼はその考えを完全には信じていません。もちろん、受賞者は自分がその評価に値しないと言うのが通例だが、生江の場合は質的な問題ではなく、学問的な問題なのです。

 

「アイコン 」の意味がわからなかったので、辞書をひいてみたんです」と彼は言います。

「イメージがわきませんでした 。少なくとも、何年も前に自分が正しい道を歩んだということを、やっと両親に納得してもらえるかもしれないと思いました。」

 

【受賞にあたっての生江史伸氏のコメント】

「今回アジアのベストレストラン50の部門賞であるアイコン賞を受賞できたことを誇りに思うと同時に、この賞が健康の重要性についての認知向上につながることを期待しています。健康は、私達の身体と精神のみならず、社会、私達を包括する環境によって育まれるものです。それらの全ての要素は密接に関連しあっているため、いずれかを無視することはできません。食は、その栄養面のみならず、人と人との理解を深める作用も持っているので、分断されたパーツを修復するのに最善の解決策であると確信しています。コロナ禍以降の時代において、分断された世界が、食の力によって調和を取り戻し、癒されることを願っています。」

 

SRA-Jとビジョンを共有する生江シェフの受賞を心からお祝いするとともに、食の持つ力を信じ、このムーブメントをより日本全体に浸透していくために、一緒に取り組んで参ります。生江シェフ、本当におめでとうございます!

 

生江シェフを紹介した動画をご覧ください。

https://youtu.be/iF5fMTqPBlU

飲食店が実践したい、世界の食品ロス削減アイデア8選

飲食店が実践したい、世界の食品ロス削減アイデア8選

農林水産省によると、「食品ロス」とは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品を示します。日本の「食品ロス」の量は年間522万t(令和2年度推計値)、日本人の1人当たりの食品ロス量は1年で約41kgです。これは日本人1人当たりが毎日お茶碗一杯分(約136g)のご飯を捨てているのと近い量になると言われています。

この記事では、海外で進んでいる食品ロス対策をご紹介しています。飲食店として、個人として、すぐに取り組めそうな内容もありますので、是非参考になさってください。

 

記事遷移先:https://www.table-source.jp/column/foodloss-8ideas/