日本サステイナブル・レストラン協会は、日本の加盟店のすぐれた取り組みを、英国のThe Sustainable Restaurant Association (The SRA) と連携し、The SRAのウエブサイトやソーシャルメディアを通じて、業界のみなさまに共有しています。

2026年7月のテーマは、Celebrate Provenance (産地を賞賛する)について、SRAジャパン加盟店、ヒカリヤニシ(長野県松本市)の、田邊シェフに話を伺いました。インスタグラムでは一部の取り組みのご紹介にとどまったため、こちらで、取材の全文を日本語で紹介します。

ヒカリヤニシでは、地域資源に新たな価値を持たせることと同時に、地域の自然環境との結びつきをより深めることを、念頭において食材の調達を行なっています。
 
1年のうち、わずかな時期しか手に入らない希少な食材は、独自の料理へと仕立てることで、その土地の旬を表すことができます。
料理のラインナップに、確かな土地の個性をもたらす特別な食材は、そうした生産者たちとのつながりがあってこそ手に入るものなのです。
 
その取り組みについて詳しく詳細をご紹介します。

生産者との信頼関係が、料理の価値をつくる

―ヒカリヤニシでは、食材調達において最も大切にしていることは何でしょうか。

「私たちが使う食材のほとんどは長野県内で調達しています。長くお付き合いしている生産者さんが多く、20年近く関係が続いている方もいます。」

そう話すシェフは、「顔が見える関係」であることの大切さを何度も口にします。

取引先には、小規模経営のため有機認証を取得していない農家も少なくありません。しかし、長年築いてきた信頼関係があるからこそ、どのような思いで野菜を育てているのか、畑で何が起きているのかまで理解したうえで食材を仕入れることができるといいます。

「高齢の農家さんの中には、『孫に食べさせたい野菜をつくっている』と話される方もいます。その思いや愛情まで含めて、お客様に届けるのが私たちの役割だと思っています。」

料理には、食材だけでなく、生産者の思いも一緒に盛り込まれています。

レストランから出たものを、もう一度畑へ

―自家農園にも取り組まれているそうですね。

「はい。グループのレストランで使う野菜を育てる農園を運営しています。」

農園では露地栽培で旬の野菜を育てるだけではありません。

レストランから出る食品残渣は堆肥へと生まれ変わり、再び畑へ還される。レストランと農園を循環で結ぶ仕組みを整えることで、廃棄物の削減にもつなげています。

さらに、この農園はスタッフの学びの場でもあるのだそう。

「畑に入って土に触れることで、食材がどのように育つのかを実感できます。料理人にとって、とても大切な経験だと思っています。」

長野だからこそ出会える食材がある

長野県は全国有数の果物の産地として知られています。

「地域の果樹農家さんとのつながりがあるからこそ、一般には流通しない食材を料理に使うことができます。」

例えば、摘果した若い果実や、ワイン用ブドウ・シャルドネの新芽や葉。ブドウの葉は6月のわずか1〜2週間しか収穫できない貴重な食材です。

こうした地域ならではの素材を料理へと昇華できるのも、生産者との信頼関係があってこそだといいます。

間伐材 ― 山の資源を新たな価値へ

松本市を囲む豊かな山々も、食材として活かせるかもしれない。そう考え、ヒカリヤニシでは、この地域全体の価値向上を目指し、身近な資産である「山」に着目。

その発想から生まれたのが、専門家とともに開発したボタニカルドリンクです。

間伐されたカラマツなどの針葉樹や、豊かな水で育つ葉ワサビを使い、最後に炙った針葉樹を液体に浸すことで、森を思わせる香りを引き出しています。

地域資源を活かした新たな価値創出のプロジェクトとして広げたい。— そんな思いが込められています。

ジビエを地域産業として育てたい

長野県では、古くから狩猟文化が根付いています。

猟師と加工事業者が連携し、捕獲後すぐに適切な処理を行うことで、高品質なジビエが地域資源として流通しているそう。

「私たちは店で使うだけではなく、地域全体で積極的にジビエを活用する取り組みをを広げていきたいと考えています。」

そのため、自店だけでなく他の飲食店にも利用を呼びかけ、地域産業としての発展を後押ししています。

地域で育てる鴨― 連携による新たな産業づくり

肉類についても、牛・豚・鶏は信頼できる地元生産者から仕入れています。

さらに近年は、新たな挑戦として地域事業者と連携した鴨の養殖にも取り組んでいます。

「フランス料理に欠かせない鴨を地域で育てられれば、輸入に頼らない持続可能な調達につながります。」

フットプリントの削減と新たな地域産業の創出という視点も、このプロジェクトには込められているのです。

八百屋は、生産者とレストランをつなぐ大切な存在

松本市には、小規模な農家が多いのだそうです。

だからこそ欠かせない存在が、飲食店向けの卸売機能を担う「八百屋」。

「新しい農家さんと取引を始めるときも、八百屋さんが間に入ってくださることで、お互い安心してスタートできます。」

発注量の調整や物流まで支える八百屋の存在は、生産者とレストランを結ぶ重要なパートナーになっています。

ワイン ― 地域の魅力を伝える一杯  

ヒカリヤニシではフランスワインに加え、近年は長野県産ワインにも力を入れている。

県内には約90ものワイナリーがあり、日本を代表するワイン産地の一つです。

「地元の食材には、やはり地元のワインがよく合います。」

料理とワインを通して、生産者や地域の魅力を伝え、地元産品の消費拡大を通じて地域経済の活性化にも貢献したいと考えています。

「産地を賞賛する」ことが、地域の未来につながる

「私はマクロビオティックの『身土不二』という考え方を大切にしています。その土地で、その季節に採れたものを食べることが、人にも環境にも自然なことだと思っています。」

だからこそ、旬を外れた野菜や遠くから運ばれてきた食材ではなく、その土地の恵みを選びます。

「地域で調達するということは、単に近いから選ぶのではありません。農家さんや畜産事業者、加工・流通に携わる方々との信頼関係を築きながら、地域全体で産業を支えていくことだと思っています。」

伝統野菜や地域食材を料理として発信することで、農業や食文化の継承にもつながる。

「産地を賞賛する」ことは食材調達の取り組み方だけではなく、人と人との信頼関係を育み、地域の産業を盛り立て、地域の食文化を未来へつなぐ取り組みです。この姿勢が、ヒカリヤニシの料理と地域の価値の向上に貢献しているのです。

お話を伺ったシェフ

シェフ:田邉 真宏 Masahiro Tanabe

栃木県出身。1975年生まれ。
「エコール・キュリネール・国立」を卒業後渡仏し、一つ星レストランに入店(現二つ星)。
その後、欧州名店を巡り帰国。
「ジェイキュイジーヌトビラ」料理長を経て、現在「ヒカリヤ」の母体である
「明神館」の統括料理長を務める。マクロビオティック・アドバイザー免許を有する。

ヒカリヤニシ
フランス料理
住所 長野県松本市大手4-7-14