ロシアとウクライナ戦争で明らかになった食料安全保障の脆弱性

ロシアとウクライナ戦争で明らかになった食料安全保障の脆弱性

2022年2月24日にロシアとウクライナとの戦争が始まってから約1か月が経ちます。今回のロシアとウクライナとの戦争により、「世界的な食料危機が起こるのではないか」ということが危惧されています。

農林水産省の発表によるとここ数年の日本の食料自給率は40%を下回り、2020年度は37%となっています。(※カロリーベースによる試算)これは、現在、日本で食べられているものの内、37%が国内生産で、残りの63%は海外からの輸入に頼っているということを意味します。今回のロシアとウクライナの戦争のような国際情勢次第で、食料の輸入ができなくなり、日本も食料危機に陥る可能性が十分にあります。今回の戦争を通じて、「食のつながりと平和構築」について考えていきませんか?

 

*以下SRAの記事を翻訳して抜粋したものです

現在のロシアとウクライナとの戦争は、国を破壊し、荒廃させ、何百万人もの人々を避難させ、生活を破綻させています。しかし、この危機の影響はそれだけではありません。この戦争が世界の食料安全保障の危機を生み出していることが、ますます明らかになってきているのです。ロシアとウクライナは、農業と食料の世界的な最大生産国であり、食料生産、安全保障、価格に世界的な影響を及ぼすことになります。

 

ウクライナ

ウクライナは世界の穀倉地帯と呼ばれ、世界の小麦の約4分の1、ひまわり製品(種子や油など)の約半分を輸出しているほどです。ウクライナでは、3月の最初の10日間が種まきの時期で、4月の最終週までに種まきを完了させなければなりませんでした。ウクライナの中でも農業生産性の高い地域で農作業ができなくなったら地域的にも世界的にも、栽培や流通の量が少なくなってしまうのです。

 

ロシア

ロシアは小麦、トウモロコシ、ヒマワリ油の世界輸出の大部分を担っています。また、作物の成長に欠かせないカリやリン酸といった肥料の主要原料の生産国でもあります。

 

2つの国

ロシアとウクライナは、輸出されるトウモロコシの19%、小麦の3分の1、ヒマワリ油の80%を生産しています。これらの数字を並べると、非常に厄介なことが見えてきます。
その穀物の多くは、動物飼料やパンの生産にも使用されています。つまり、パンの生産だけでなく、タンパク質やその他多くのサプライチェーンに影響を及ぼすことになります。

 

世界的にはどのような影響がでるのでしょうか?

まだ世界的に小麦の供給に支障は出ていませんが、戦争が始まってわずか1週間で、すでに価格は55%も急騰しています。戦争が長引けば、ロシアやウクライナから安価に輸出される小麦に頼っている国々は、7月には品薄になることが予測されます。特にエジプトやレバノンなどでは、人々の食生活の大部分が政府補助金で安価にパンが販売されており、その原料となる小麦はウクライナから輸入されているため、食料不安が生じ、人々が食料難に陥る危険性があります。また、ウクライナやロシア産の製品は大量の家畜の飼料となるため、家畜の飼料価格の上昇につながり、それにより世界的に肉や乳製品の価格が上昇する可能性があります。

 

ポジティブに捉える余地はあるのでしょうか?

では、なぜ私たちは戦争から、1%でも何か良いものが生まれるものがあるかもしれないという感情にしがみついているのでしょうか?
それは、人間の本性の裏返しです。ロシアとウクライナの戦争を背景に、善意の力が表面に出てきているからです。料理人、パン職人、シェフたちが、ウクライナ国内だけでなく、イギリス国内でも先導して動いているというニュースもあります。

人々の食事を確保するために、食のプロが大規模な活動を行う素晴らしい事例も紹介されています。

ネイト・ムック氏は、ワールド・セントラル・キッチンの仲間とともに、ウクライナとポーランドの国境にいる人々に必要な温かい食事を提供し、スペインの郵便局が貨物機を貸し出して食料を届けたことを語っています。

ウクライナのテレビシェフ、ダーシャ・マラホヴァ氏は、逃亡した国中のレストランやパン屋が、兵士、病院スタッフ、ボランティア、年金生活者のために、体を張って料理を作っていることをフードプログラムのプレゼンターダン・サラディノ氏に伝えました。港町オデッサでは、市場の商人たちは自分たちの農産物をすべて配り、市民に食料として与えていました。

一方、英国では、「#CookforSyria」の活動を行った素晴らしい人たちが、再び立ち上がりました。現在、レストランは特別ディナーを開催し、請求書に寄付を載せており、本稿執筆時点でユニセフに11万5千ポンドを寄付しています。
この2年間、私たちはパンデミックに苦しみましたが、それ以上に戦争には明るい兆しがありません。しかし、食を通じた平和構築の働きかけは、1%の希望と言えるかもしれません。

2022年版IPCC報告書を受けて – あなたにできること

2022年版IPCC報告書を受けて – あなたにできること

参照:英国サステイナブル・レストラン協会 エマ・キャロル・モンティル氏より

2021年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、IPCC第6次評価報告書の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)を発表しました。

そして、2022年2月28日、待ち望んだ第2作業部会報告書が発表されました。そこでは気候変動の影響の評価を行うとともに、生態系、生物多様性、人間社会について、地球レベルおよび地域レベルで考察しています。また、地球が気候変動に適応するための能力についても検討されました。報告書の主執筆者であるヘレン・アダムス博士によると、「報告書の中で明確なことの一つは、状況は確かに悪いけれど、実際のところ未来は気候ではなく、私たちにかかっているということ」を示しています。そこで、本レポートでは、その見出しを簡単にまとめるとともに、なぜ私たちは希望を持ち続けるべきなのか、そしてより重要なこととして、私たちはどのように、そしてなぜ気候変動への対応を積極的に行い続けるべきなのかについてご紹介します。

主な見出し

調査結果は、3つの主要な分野に分類されています。

・観測・予測される影響とリスク

・現在の適応策とその効果

・気候変動に強い開発

観察・予測される影響とリスク

ビリー・ジョエル氏の言葉とは対照的に、この危機を起こしたのは、間違いなく私たち人間なのです。

本報告書では、気候危機が人間活動によって引き起こされていることは明らかであることを強調しています。その結果、異常気象がより頻繁に発生し、自然や人々に広範な被害をもたらしています。分野や地域を問わず、最も脆弱な人々やシステムが、最も不当な影響を受けています。気候変動に対する生態系と人々の脆弱性は、地域間および地域内で大きく異なり、この格差は、社会経済的発展、持続不可能な資源利用、不公平、ガバナンスなどの要因によって引き起こされます。

本報告書では、1.5℃の気温上昇をめぐる警告は依然として残っています。今後数十年以内に地球温暖化が1.5℃の気温上昇を超えた場合(オーバーシュート)、我々の地球はさらなる深刻なリスクに直面することになります。オーバーシュートの大きさと期間によっては、その影響の多くが取り返しがつかなくなり、自然および人間のシステムの両方に重大なリスクをもたらすことになります。さらに、気候変動の影響とリスクはますます複雑化し、緩和することが難しくなっています。

現在の気候変動の適応策とその効果

このセクションは、より「良いニュース」側に寄ったものです。この報告書では、気候変動の適応策の計画と実施において、部門や地域を問わず大きな進展があったことを認めています。しかし、この進展は偏在しており、多くのギャップがあります。さらに、著者らは、人と自然に対するリスクを軽減することができる、実現可能で効果的な適応策があることを概説しています。また、「人間のシステムと生態系において適応策を実施、加速、維持するためには、それを可能にする条件が重要である」ことも強調しています。これには、政治的行動、制度的枠組み、政策、教育の改善などが含まれます。

気候変動に強い開発(気候変動の影響に対処するための能力構築)

このセクションもまた、良いニュースっぽく語られることがあります。この報告書では、これまで取り組まれてきた以上に、実証可能な気候変動の回復力(レジリエンス)がある開発が急速に世界中で行われてきたことを認めています。

しかし、これはまだ十分なものではありません。著者らは、政府や組織体がリスク軽減、公平性、正義を優先した包括的な開発選択をすることで、気候変動に対する回復力を生み出すことができると説明しています。

さらに、政府とコミュニティ、教育機関、科学その他の機関、メディア、企業との協働や、従来疎外されてきたグループとのパートナーシップの構築により、気候変動への回復力を実現することができます。

また、著者らは、今後10年間の私たちの選択と行動が地球の将来を決定すると主張しています。IPCCの共同議長であるデブラ・ロバーツ教授は「今が本当に重要なときです。私たちの報告書は、事態を好転させるためには、この10年間が行動のときであることを明確に指摘しています。」と述べています。

つまり、この報告書は私たちの不安が確かなものになったと同時に、最悪の事態を回避するためのわずかな時間的猶予を与えてくれているのです。

SRAとして何をしていくのか?

不思議なことに、この報告は恐るべきものではありますが、驚く内容ではなく少し安心しています。確かに状況は悪いのですが、悪いということは既にわかっていました。しかし、希望が残されているかどうかは分かりませんでした。でも実際には、希望は残っているのです。このこと自体が、人々が行動を変え、より持続可能な方法で行動するための勢いと動機付けになることを期待しています。

気候変動の原因が人類にあるということ、そしてその問題において食料が大きな割合を占めていることは明らかですが、人類と私たちのフードシステム両方が解決策の一部になりうる、そしてならなければならないこともまた明らかです。ホスピタリティ産業は、そのためにユニークな役割を担っています。食料は非常に影響力の大きいセクターであり、世界の温室効果ガス排出量の大きな割合を占めているだけでなく、食料が私たちの生活のあらゆる側面と交錯しているからです。

SRAの目標は、環境的に修復可能で、社会的に進歩的なホスピタリティ産業への変革を促進することです。英国内のホスピタリティ産業のサステナビリティを向上させるだけでなく、世界的にサステナビリティを加速することができるよう、世界的な拡大にも取り組んでいます。私たちは、グローバル・パートナーシップ・プログラム(香港と日本の拠点を含む)、国際企業とのパートナーシップ(フロール・デ・カーニャやヴァローナなど)、そしてグローバル・キャンペーンを通じて、これを実現することを目指しています。例えば、最近リニューアルした「One Planet Plate」キャンペーンでは、地球全体で500万食の持続可能な食事を提供することを目指しています(詳しくはこちらをご覧ください)。

また、Net Zero Nowの友人や同僚とともに、レストラン、パブ、バーのプロトコルに取り組み、これらの施設がネットゼロ(温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするという意味)に移行できるよう支援しています。Net Zero Nowは、企業が気候変動という緊急事態に取り組む必要があること、そしてこのプロセスをできるだけ身近なものにすることが必要であることを認識しています。Net Zero Nowは、中小企業がバリューチェーン全体の気候変動への影響を計算し、削減するためのセクター別のツールや有用なガイダンスを提供することによって、これを実現しようとしています。

私たちのFood Made Goodのレーティングは、今後も外食産業全体のサステナビリティを評価するための代表的なものであり続けるでしょう。この評価ツールは、企業の行動へのコミットメントを示し、さらにサステナビリティを高めるためのサポートとガイダンスを提供しています。

あなたはどうすればいいのでしょうか?

サステナビリティに関心のある個人として、あるいは変化を起こそうとしている企業の従業員としてこれを読んでいるのであれば、気候危機と戦うために必要な地球規模の変化に向けて、誰もができることがたくさんあります。

まずは個人の生活を変えてみましょう。食生活、交通手段、買い物の仕方や場所など、さまざまなことを変えてみましょう。自分にはどのような変化の可能性があるのか、まずは自分の興味やモチベーション、そして現実的に可能なことから考えてみてください。

同様に、あなたがビジネスをしているのなら、サステナビリティの実践を振り返り、改善できる点を確認することが重要です。例えば、再生可能エネルギーへの転換、地元のサプライヤーの利用、メニューに載せる野菜の数を増やすなどです。これは地球への影響を減らすだけでなく、従業員の定着やビジネスのインセンティブにも大きな影響を与えます。Food Made Goodのレーティングは、あなたの会社の実践を評価し、よりサステナブルであるためのステップを称賛し、改善すべき点を明らかにするのにも役立ちます。また、Net Zero Nowと連携して、温室効果ガス排出量を削減することも可能です。

個人または企業として、他の企業や政府機関に圧力をかけ、組織的な変化をもたらすことができます。地球を守るためには、個人の行動でもかなりの違いがありますが、大規模な変化を起こすためには、最も権威のある人たちの行動が必要です。地元でどのような変化を起こすべきか、地元の議員に手紙を書いたり、請願書に署名したり、キャンペーンに参加したり、色々なことをやってみましょう。

私たちは今、重大な局面に立たされているのです。だからこそ、私たちの行動は今までになく重要です。コラボレーションとイノベーションを通じて、私たちが協力し、緑豊かな未来を維持できることを願っています。

報告書の全文と各テーマの最終章(案)はこちらからご覧いただけます:

英語:https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg2/

日本語:http://www.env.go.jp/press/109850.html

【レポート】「持続可能な食の未来 “Future Dining Table”」を考える

【レポート】「持続可能な食の未来 “Future Dining Table”」を考える

2月16日(水)SRA-Jは、FOOD MADE GOODの評価項目にもある「プラントベース」と「食品ロス削減」をテーマに、トップシェフ2名にお話いただき、この日限りのスペシャル・ヴィーガンコースをお楽しみいただく「持続可能な食の未来 “Future Dining Table”」を主催しました。

植物由来の原材料から作られた食事「プラントベース」は、健康的であるだけでなく、動物由来の食材から作られた料理に対して環境負荷が低いことから、今世界的に注目されています。

また、FAOのレポートで、食品ロスと廃棄物を1つの国だと考えた場合、世界で3番目に大きな温室効果ガスの排出源となることが指摘されていることからも、「食品ロス削減」に向けた対策は急務の課題といえます。

この企画では、ミシュランガイド一つ星とグリーンスターを獲得したイノベーティブイタリアンレストラン「FARO」エグゼクティブシェフの能田耕太郎氏と、「ONODERA GROUP」グループエグゼクティブシェフでSRA-Jのプロジェクト・アドバイザー・シェフでもある杉浦仁志氏をパネリストに迎え「持続可能な食の未来」について掘り下げました。

はじめに、包括的な食のサステナビリティ評価を行うSRA-Jから、代表理事の下田屋毅より「プラントベース」と「食品ロス削減」に取り組むレストランを評価している理由についてご紹介しました。

日本人が1日あたりに出している食品ロスの量は約124gといわれ、これは、ごはんの場合お茶碗約一杯分に相当します。世界では、人が消費するために生産された食料の約1/3が捨てられているという現実があります。

こうした地球規模の課題は、私たちの毎日の食の中にあるのです。

杉浦シェフは、水害や人口減少問題を抱える佐賀で地域に根ざしたウェルビーイングメニューの開発や、秋田のフードラボでのデンマークと連携した発酵の研究など、各土地において、先人の知恵を未来へ伝えるべく、古来からの食の歴史とテクノロジーを合わせ、未来に繋がる人と地球に優しい循環型のレシピを創っています。

しかし、現実としてシェフ同士の会話では、日々の営業に関わることや「どうやったらミシュランの星を取ることができるか」という話題が多くなりがちです。それに対して、能田シェフ、杉浦シェフともに、企業のレストランのエグゼクティブシェフとして「どう社会に貢献することができるか」という視点で活動をしています。

実は能田シェフも、イタリアを拠点にしていた頃は他のシェフたちと同じように考えていたそうです。しかし、日本に帰国した際に「料理人として何を社会に返していけるか」と考えるようになりました。そんな時に、出会ったのが杉浦シェフでした。

普段からヴィーガンやフードロスをテーマに、一皿ごとに思いを込めた料理を提供している「FARO」とはいえ、レストランでそのことについてメインで話すことはありません。ここでは、そうした料理の裏にある「メッセージ」を深く掘り下げていきました。

Q:日本における「プラントベース」や「食品ロス削減」の現状について

杉浦シェフ:一人ひとりが意識できるような社会環境ができればいいですよね。日本でも豆や野菜をまるごと使ったZENBという商品ができたように、今まで捨てられた部分を、人のアイデアやシェフの手で価値に変えていくフェーズに入りかけていると感じています。海外の特徴でいうと、特に若年層の意識が高いです。今日はそうした動向に関心がある皆さんと、食事を通じて、身近なところから意識を変えていく機会にしたいと思います。

能田シェフ:東京のガストロノミーレストランやファインダイニングといわれるようなところでは、ほぼ皆さん同じ食材を使っています。日本の中でトップクラスといわれる食材は、需要に対して供給が間に合っていないのが現状です。僕自身も東京に戻ってきた際に、正直そういう食材が欲しいなと思いましたが、分けてもらえない。じゃあどうしたらいいのかと考えた時に、今までの経験を生かして、自分が本当に美味しいと思う食材を新たに開拓しました。

世間一般で言う「いいもの」を提供するのではなく、自分たちで価値を創り「こういう食材を食べてください」と伝えているのが今の「FARO」のあり方です。全ての食材に原価がかかっていますが、捨てた部分はお客様から還元されない。だったらそれを使うことで採算を取る方が良い。競争率が激しく値段が上がったものを買うのではなく、たとえ世間ではB級品であっても、僕たちがA級品だと思うなら、A級品の値段を出して食材を買う。それが生産者を支えるレストラン側からできる方法だと考えています。

杉浦シェフ:能田シェフが素晴らしいのは、「高級レストラン=全て高級な食材を使う」のではなく、端材もアイデアで価値に変えていくことができることです。例えばマグロのトロは、昔は廃棄されていた食材だったけれども、今は他の部位よりも高い値段で販売されています。これからの料理人はそういう「価値を創り出すクリエイター」のような役割を担っていくのではないでしょうか。能田シェフはそのパイオニア的存在だと思っています。

Q. A5ランクの牛肉が極端に評価される社会システムについて

能田シェフ:レストランはお客様ありきなのですが、ヨーロッパではお客様を育てる循環があります。一方で日本ではクレームをベースにした関係性ですよね。「FARO」にも牛肉を食べたいというお客様はたくさんいらっしゃるけれども、牛肉を食べて満足するなら「FARO」でなくても良いと思います。需要の関係で牛肉はいろんなランクのものが流通していますが、家畜の多くは社会に対して優しくないやり方で生産されています。だったら無理して家畜を食べる必要はなくて、野生の動物を食べればいい。

日本では害獣と言われる猪や鹿も、きちんと料理してあげれば、A5ランクの牛肉にも負けないお肉なんです。それを僕たち料理人がしていかないといけない。日本は一般的に牛肉を食べはじめて100年ちょっとしか経っていないにも関わらず、今では牛肉がないと生きていけないという状況に陥っているということ自体、社会が混乱してるのだと思います。魚においては鯛が同じ状況です。養殖して、美味しくない、体にも良くないものも多く出回っています。「FARO」ではそうした魚ではなく、未利用魚と呼ばれる漁港にあがっても行き先がない魚を使っています。牛肉や鯛を使うことを否定はしませんが、他の食材も誰かが使わないとごみになってしまうので、それをお客様が支えるシステムにならないと日本の飲食業界の未来はないのかなと思います。

杉浦シェフ:一方でポジティブなところでは、メディアにおいても社会的な発信が増えています。数字のノルマがあるなかでも「自分に少しできることは何か」という意識の高い人たちが取り上げてくださることで、いいムーブメントが起こっていくことを予感していますね。

Q. 日本のポテンシャルについて

能田シェフ:日本は四季が豊かで、食材も世界にも類に見ないほどバリエーションがある国なので、そのポテンシャルを引き出すことはシェフとしてとても魅力的です。日本、特に東京は世界有数の観光都市になりつつあるので、食材だけにとどまらず伝統文化や伝統技術を伝えていきたいと考えています。

杉浦シェフ:私は今後日本で、料理人の働き方や価値が変わってくることに期待しています。私の考え方では、料理ではなく真ん中に「食」を置いています。なぜかというと、皆さんの日常生活や、それに付随して間接的に関わる人たちがたくさんいるからです。レストランを取り巻く社会問題として長時間労働の問題がありますが、テクノロジーを組み合わせることによって、働き方が最適化されたり、苦労する作業に機械をあてがったりすることもできるようになります。食品ロスに限らず、料理人がハブとなって、いろんな課題における「最適化」をしていけることを楽しみにしています。

Q. スペシャル・ヴィーガンコースの構成について


*能田シェフによるメイン「れんこんのロースト 野菜のめぐみ」

能田シェフ:僕は最初のアミューズの2品と、出汁を担当していて、そのほとんどが野菜くずから作られたものです。次に杉浦シェフによる前菜2品の後に、ZENBという黄えんどう豆のみを100%使ったパスタを使ってパスタ・エ・ファジョーリというイタリアの伝統料理のオマージュしたお皿を楽しんでいただきます。ヴィーガン料理なので、プロテインの大切さを考えて豆づくしにしています。メインはレンコンを使ったお皿で、下にサステナビリティソースを敷き、周りにパウダーでデコレーションしています。どちらも野菜の余った部分で作られたものです。デザートはパティシエの加藤より、レストランで余りがちな「パン」をテーマにしたお皿をご用意しました。


*加藤シェフによるデザート「毎日のパン」

杉浦シェフ:私は能田さんの料理を毎回見させていただいているので、その間をつなぐような料理をご提供させていただきました。

*杉浦シェフによるメイン「マッシュルームガーデン」

常日頃から2人で色んな話をしていて、気になる人がたくさんいた中で、今回は株式会社フードロスバンクにご協力いただきました。社会的にも問題になっている日本米や買い手がなくて困っている野菜をご提供いただき、今回のコースに盛り込んでいます。

Q. 料理をするうえでのセオリーについて

杉浦シェフ:私はフードペアリングという考え方をもとに料理をしていています。まず食材に対してどのような食べ合わせがあるかというのを隙間なく書き出していきます。例えば白いご飯に対して漬物、魚というふうに。その中で何と何が繋がっているかというのを、自分の中で3つくらいピックアップして一つの皿を作ることが多いです。米国の場合は様々な国や宗教の人たちがいて、ヴィーガン、ハラール、コーシャの対応が求められる中で、定義的なものから要素を合わせることでオリジナルの料理を作るということを海外で学びました。

能田シェフ:僕もイタリアで培ってきたものが今の自分に繋がっています。イタリア料理は家庭料理の派生で、基本的には食べ物を捨てないんです。ところが今イタリアの高級レストランに行くと当たり前に食べ物を捨てていて、家庭でしないことを職場でするという矛盾が生まれています。だからこそ、自分を育ててくれた恩返しに、イタリア料理の本来のフィロソフィーを伝えていきたいです。それに加えて、父親として未来を意識するようになったので、持続可能な社会をレストランから作るというのがテーマです。

登壇者プロフィール・イベント情報はこちから

(この企画は、地球環境基金の助成金を受けて開催しております)

SRA 2021年の振り返り

SRA 2021年の振り返り

この記事は英国SRAのニュースを翻訳し抜粋したものです。

2021年は、まるでジェットコースターのような1年でした。ロックダウンから始まったこの1年(英国)は、 始まりの場所で終わりを迎えてしまいそうな勢いです。多くの人が、最も困難な状況にもかかわらずビジネスを続けるために、いや、成功させるために全力を注いだ1年でもあったと思います。しかしこの業界は混沌とした世界に身を置いています。この業界が切実に必要としているリーダーシップ、サポート、認知が足りない状況ではありますが、この機会に、今年1年の成果を振り返ってみたいと思います。 

供給の不足、コロナによる閉鎖、業界としてこれまで経験したことのないような大規模な人員不足にもかかわらず、驚くほど粘り強く、革新的な、そしてクリエィティブさを目の当たりにしました。業界全体としては、残念なことにいくつもの店が閉まってしまいましたが、多くの人が懸念していたよりも少なかったように感じます。そして、サステナビリティにおいては新たなエネルギーを感じ危機感を目の当たりにしました。小規模なレストランでは地元のサプライヤーを支援するためにメニューを減らし、大規模なチェーン店では牛肉を減らし、野菜を増やし、50%以上がプラントベースのメニューに移行しているのを目にしました。



また、パッケージデザインの革新という面では、コンポスト(堆肥化)を促すものであったり、循環型のテイクアウト用のパッケージのトライアルが行われました。チーム内で記録的な数のサステナビリティリードを採用し、二酸化炭素排出量を計算し、途方もない努力をし、平均気温の上昇を1.5度までにとどめるという英国政府の2050年の目標に先立って、ネットゼロを達成するための科学的根拠に基づいた目標を発表しました。そんな中、Food Made Goodのコミュニティに新しい企業を迎えることができたのは、とてもうれしいことです。目標達成のために、彼らは私たちと「今決定的な行動を起こす」というコミットメントを共有しています。 

SRAもまた、この12ヶ月の間に様々な変化を経験しました。過去5年間にわたりリーダーシップを発揮してきた前CEOのアンドリューや素晴らしい同僚が卒業していきましたが、夏には、チームは再び成長し始めました。秋には、10年以上前に設立されて以来、初めて「メンバーシップ組織」という肩書をはずし、私たちのモデルを変更することを発表しました。これは、単にビジネスの計画を認識するだけでなく、行動を証明することに重点を置き、コミュニティの信頼性を深めることを目的としています。



また、このコミュニティは、指と指を合わせるように業界で働くすべての人をつなげるというコミットメントのもとにリニューアルしました。

私たちSRAは、グローバルにおける展望を再考し、別組織としてグローバルでの展開を進めてきた「Food Made Goodグローバル」と再び合併し、香港と日本のパートナー・ハブとの連携を実現し、2025年までに世界中の10万個のキッチンと共に働いていくという大きな目標を掲げました。 

パートナーであるNet Zero Now、コカコーラ・ユーロパシフィック・パートナー、英国ペルノ・リカールとともに、パブ、レストラン、バーのための業界初のNet Zeroプロトコルの認証を開始し、このセクターの企業に気候変動対策のためのツールを提供することが可能になりました。

すでに、英国SRAの加盟レストランである「Hawksmoor」「ahaca」、「Pizza Pilgrims」、「Peach Pubs」などが、私たちSRAのサポートにより温室効果ガス排出量ゼロを達成するために、この業界基準を実行しています。今年も多くの企業と協働できることを楽しみにしています。



2022年の幕開けとして、HSBCのスポンサーシップで#OnePlanetPlateキャンペーンを開始します。このキャンペーンは、レストランがより良い食の未来にどのように貢献するかを示す機会であり、食事をする人や家庭で料理をする人が食の選択において行動を起こすよう喚起するものです。あなたのレストランの「One Planet Plate」料理を投稿して、日本での今後の展開にもご期待ください。

2021年、多くの皆さんと皆さんのビジネスを深く知ることができとても嬉しく感じました。皆さんの献身と信念、粘り強さと回復力には、本当に感心させられました。そして、より強く、より環境に優しい未来を築くために、これからも協働していくことを楽しみにしています。







アボカドの種は捨てないで。調味料棚に仲間入りを!

アボカドの種は捨てないで。調味料棚に仲間入りを!

参照:Sublimely satisfying: Tom Hunt’s mole negro with avocado and tacos. Photograph: Tom Hunt/The Guardian

*アボカドをはじめとする輸入食材に関しては、特にフェアトレードなどの認証がついているものが好ましいです。

アボカドの種は、ナツメグと同じようにすりおろすと苦みが出て、調味料の棚に仲間入りさせるのに魅力的なアイテムです。また、アボカドにはコレステロールを下げる栄養素や抗酸化作用があるとされていますが、科学的な研究はまだ始まったばかりです。

モーレは25~35種類の材料を使った風味豊かなメキシコ料理で、アボカドの葉は多くのレシピに登場しますが、甘みとのバランスをとるために、アボカドの種をすりおろして使うといいでしょう。肉と一緒に食べるのが一般的ですが、砕いたアボカドと一緒にタコスにするのもおすすめです。

【モーレ・ネグロ】
モーレ(mole)とはメキシコ料理で唐辛子を入れた煮込み料理やソースのことをさします。ネグロnegroは黒いという意味。モーレは気品があり、美味しく、最終的には満足感を与えてくれます。様々な種類のメキシコのドライ唐辛子を使うことで、本格的な味わいと深みを出すことができます。メキシコではネットや大型スーパーで購入できます。普通のハラペーニョやスコッチボネット(唐辛子の種類)を使っても美味しくできますが、辛さには注意が必要です。シンプルにトルティーヤと一緒に食べたり、揚げたジャックフルーツ(日本語ではパラミツと呼ばれ、クワ科パンノキ属のフルーツ)と一緒に食べたり、潰したアボカドと一緒にタコスにしてライムを絞って食べたりします。一度調理したモーレは、冷蔵庫で1週間以上保存可能です。

下準備 10分
調理時間40分
4~8人分

アーモンド、クルミ、レーズン、かぼちゃ、ゴマ:各大さじ1
クローブ:1個
オールスパイスの実:1個
シナモンスティック:1本
ローリエの葉:1枚
メキシコ産乾燥唐辛子(アンチョコ、ムラート、チルハクル、グアヒーロの混合):4本(種を取り除き、茎を取る)エシャロット(小):1個
ニンニク:8片
トマト:220g
トーストされた古くなったパン:1枚
乾燥タイム:小さじ1
すりおろし生姜:1つまみ
ナツメグパウダー:小さじ1揚げ油(コーン油、キャノーラ油、菜種油):揚げ物用
黒砂糖:大さじ1
オアハカン・チョコレート(またはダークチョコレート) :40g
すりおろしたアボカドの種:小さじ1(お好みで)
塩、黒胡椒:適量

1.耐熱皿にアーモンド、クルミ、レーズン、カボチャの種、ゴマ、クローブ、オールスパイス、シナモン、ローリエを入れ、210℃で5分ほどローストしておく。唐辛子を加え、さらに3分ほど炒める。ボウルに唐辛子を入れ、沸騰したお湯を加えて蓋をする。スパイスを取り除き、トーストしたナッツ、レーズン、種を片側に寄せておく。

2.鉄板を中火にかけ、エシャロット、にんにく、青唐辛子、フレッシュトマトを時々返しながら、少し黒っぽくなるまで乾煎りする。火を止めて冷まし、エシャロットとニンニクの皮をむく。

3.唐辛子を水から取り出し、エシャロット、ガーリック、青唐辛子、トマト、トーストしたナッツ、レーズン、種、トーストしたパン、タイム、ジンジャー、ナツメグパウダーと共に滑らかなペースト状にし、必要であれば唐辛子の漬け汁を少々加える。

4.大きめの鍋に油をひいて中火で熱する。熱くなったら、ペーストをよくかき混ぜながら10分ほど炒める。仕上げに、唐辛子の漬け汁150ml、砂糖、チョコレートを加えて沸騰させ、アボカドの種のすりおろし、塩、コショウで味を調える。さらに15分ほど煮て、できあがり。