【「自分の思い」を料理で表現する実験の機会】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【「自分の思い」を料理で表現する実験の機会】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 学生部門賞
横井 瑚子 よこいここ(名古屋調理師学校3月卒業)

1999年三重県志摩市生まれ。岐阜大学地域科学部を卒業後、2022年よりリファインホールディングス株式会社に入社し、新規事業部「食のリファイン推進室」にて勤務。食と資源循環に関わる取り組みに携わる。その後、料理人として食により深く関わることを志し、2025年4月に名古屋調理師専門学校へ入学。調理技術の習得とともに、持続可能な食のあり方を学び、2025年3月に卒業した。

 1年間、名古屋調理師学校でアレルギー対応や薬膳など、食と体のつながりを中心に学んだ横井瑚子さん。学校では、調理技術だけでなく、「食べる人の体や背景」を意識した料理づくりを学んでいる。

この進路を選んだ背景には、大学時代の経験が大きく影響している。横井さんは大学でまちづくりを学び、実際に地方の農村に入り、地域の人々や自然とともに暮らす経験を重ねてきた。

「大学生のときにまちづくりを学んでいて、実際に田舎に入って、地域の方と自然とのつながりの中で暮らしたり、いろいろな農業に携わらせていただいたり、住み込みで伝統的な干し柿づくりのアルバイトをさせてもらったりしました」

その中で、食と自然、そして人との関係に強い関心を持つようになったという。

「地域のおじいちゃんやおばあちゃんから、『昔はこれが採れていたのに』という話を聞く機会も多くて、環境の変化を実感しました。そうした経験を通して、いい食材、本物の食材が確かに存在することを、現地で知りました」

一方で、そうした食材が社会に十分に届いていない現実にも直面した。

「大量生産・大量消費の中で社会が動いてしまっているという矛盾を感じていました。でも当時の私は食に関する専門知識がなく、それを届ける力がありませんでした。だからこそ調理師学校に来ました」

この経験は、横井さんの現在の軸となっている。

「いまも変わらず、生産者と消費者、自然と人を“つなげられる人”になりたいというテーマを持って過ごしています」

■ サステナビリティとの関わり(参加前)

コンテスト参加以前から、横井さんはサステナビリティに関心を持っていた。その背景には、大学卒業後の3年間の社会人経験がある。環境や資源循環をテーマにした会社で働き、食の新規事業の立ち上げに関わっていた。

出産を経験した雌牛である経産牛に、地域資源からつくった飼料を与え、その肉をブランド化して価値を高める取り組みに携わった。廃棄されがちな資源を活かし、地域循環の中で新しい価値を生み出す経験は、彼女の食に対する視点を大きく形づくった。

この経験と、大学時代の農村での暮らしが重なり、「食・環境・地域」を結びつけて考える姿勢が育まれていったのだ。 

 

■ レシピ制作でぶつかった壁――「思い」と「おいしさ」つかった壁

 未来のレシピコンテストへの参加を決めた背景には、自身の中にあった葛藤があった。環境や食に対する強い思いはあったものの、それを具体的な料理として表現した経験はなかった。

「これまでは“思い”だけで生きてきた部分があったので、それを形にするチャンスだと思いました。他の料理人さんとは違って、レシピを一から考えたことがないという点が一番不安でしたが、学校のサポートもあったので挑戦してみようと思いました」

コンテストのレシピづくりの過程で、横井さんは自分自身の課題と真正面から向き合うことになった。それは「思いが先行しがちで、料理としての完成度が追いついていない」という悩みだった。

「私の場合はどうしても思いが先行しがちで、『これは環境にいいものですよ』と提供したとしても、それが刺さるのはもともとその分野に関心がある人たちだけになってしまうのではないか、という悩みがずっとありました」

横井さんにとっての本質的な問いは、「環境に良い料理」ではなく、「誰にとってもおいしい料理をどう届けるか」だった。

レシピを考える初期段階では、自然の循環そのものを一皿で表現しようとしたという。
しかし、アイデアを料理に落とし込む段階で葛藤が生まれた。

「例えば温かいお肉に冷たいジュレを合わせるような表現を考えたときに、それが本当においしく届けられるのか、それでいいのかという疑問がありました」

先生と議論を重ねながら進めていく中で、横井さんは「思いを伝えること」と「料理として成立させること」のバランスに悩み続けたという。

「料理としての知識がまだ浅い中で、自分の思いを料理で表現することが一番難しかったです」

このプロセスは苦しかった一方で、彼女にとって大きな転機にもなった。
審査員の生江シェフから投げかけられた言葉が、特に強く心に残った。

「環境にいいものを使ってそれを届けるということは、その分野に興味のある人にとっては価値があるけれど、興味のない人からすると、ときに“押し付け”や“暴力”のように受け取られてしまうこともある。でも、美味しさは誰のことも傷つけない。だからこそ、まずは美味しいものを届けることが大切で、そこにチャレンジした今回の取り組み自体に意味がある」

この言葉は、横井さんが抱えていた葛藤そのものにまっすぐ届いた。環境への思いを伝えることと、誰もが素直に受け取れる“おいしさ”を両立させること。その難しさと可能性の両方を改めて考えるきっかけになったという。

 

コンテストを通じて得た学び

横井さんにとって未来のレシピコンテストは、「思いを料理として形にする訓練の場」だった。

これまで関心を持ってきた未利用資源や資源循環、地域性、食と体の関係といったテーマを、抽象的な理念ではなく一皿のレシピとして具体化する経験になったという。

レシピ制作の過程では、食材の背景を調べることの大切さを実感した。どこでどのように生産され、どんな環境や人の手を経て自分のもとに届いているのかを意識するようになった。また、料理の味や見た目だけでなく、環境への影響や社会的な意味を同時に考える必要性を学んだ。

さらに、「環境に良いこと」と「おいしいこと」は対立するものではなく、両立させるための工夫が必要だということを、実践を通して理解したという。

 

■ 今後の展望

横井さんは2026年4月から、地元企業への就職が決まっている。これまでの学びや経験を活かし、地域食材の価値を伝え食材や食文化を伝承する仕事に携わる予定だ。

横井さんの根底にあるのは、コンテスト以前から一貫して持ち続けてきた「地域と自然をつなぐ食」というテーマだ。

「ずっと変わらず、その地域のものを生かして届けていきたいと思っています。人と人とのつながりや、自然と人とのつながりに、できるだけ多くの人が触れられるようにしたいという思いがあります。強制ではなくて、なんとなく“それいいよね”と思ってもらえるような、ゆるやかなつながりの輪を広げていきたいです。そのために、もっといろいろなことを学びながら、小さなアウトプットを積み重ねていきたいと思っています」

彼女にとって料理は、ただ食べ物を提供する行為ではなく、人・地域・自然をゆるやかにつなぐ表現方法としての手段でもある。

 

「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

これから未来のレシピコンテストに挑戦しようと考えている人に向けて、横井さんは自身の経験を率直に語る。

「私自身も、コンテストは初めてで、プロの方と一緒に戦うなんて無理だと思っていました。きっと多くの学生が同じ気持ちになると思います。でも、誰かと競うこと自体が目的ではなく、その過程で自分と向き合う時間こそが大事なんだと感じました」

「応募する中で、私は本当にたくさんの矛盾と向き合いました。美味しい料理を作るためにはバターを入れたほうがいい、というような常識がある一方で、それがこのコンテストの軸と合わないこともある。かといって、理想の食材ばかりを全国から集めれば、それ自体が環境負荷になってしまう。考えれば考えるほど迷路に入っていくような時間がありました」

それでも、その葛藤こそがこのコンテストの価値だと感じている。

「大変ではありますが、そうした視点を持って調理場に立つこと、あるいは調理場にいなくても食と向き合うことは、必ず自分の視野を広げてくれると思います。人は誰もが食べることから逃れられないからこそ、この経験はすごく意味があると思います。誰かと競うっていうことに意味があるのではなくて、その向き合う時間がこの先の人生に必ずプラスになると思うので、ぜひチャレンジしてほしいです」

鹿を主役に、鹿が暮らす山の風景を一皿で表現した。葉や栗で森を、里に下りて穀類を食べる様子を重ね、麦で岩や地形をイメージしている。水色の皿は、川や水の循環、そして水によって成り立つ地球そのものを象徴している。

GUIDE TO ELECTRIFYING YOUR KITCHEN HIGHLIGHTS 「厨房の電化の手引き」(英語版)公開

GUIDE TO ELECTRIFYING YOUR KITCHEN HIGHLIGHTS 「厨房の電化の手引き」(英語版)公開

サステナブル・レストラン協会(英国)と、グローバル・クックセーフ・コアリション(GCC)、およびホスピタリティ・エネルギー・セービング アンド サステナビリティ(HESS)との共同制作による、キッチンの電化に関する新しいガイドブックが公開されました。

どなたでも無料でダウンロードできますので、キッチンの電子化の方法や海外の事例に関心のある方はぜひご覧ください。

日本からは、ザ・キャピトルホテル 東急のオールデイダイニング ORIGAMI様、ジターリア・ダ・フィリッポ様の二店舗が紹介されています。

今回新しく公開されました『Making the Switch: Why and How to Electrify Your Commercial Kitchen』には、電気化への移行手順が段階的に解説されているほか、すでに電気化を実現したシェフやレストランからの体験談、そしてHESSによる実環境でのシミュレーション結果(財務面、エネルギー面、および二酸化炭素排出量の削減効果を示すもの)が掲載されています。この調査によると、厨房機器をガスから電気へ切り替えるだけで、レストランはエネルギーコストを最大20%削減し、エネルギー使用量を最大64%削減できることが明らかになりました。

『Making the Switch』は、ホスピタリティ業界、特に業務用厨房の持続可能性とコスト効率の向上を目指すレストラン、居酒屋、およびケータリング事業者にとって、重要な情報源となります。 

データ分析により、実質的なコスト削減が明らかに

HESSは、業務用厨房の実際のエネルギー使用データと、業務用機器の最新の性能データを組み合わせ、英国の3つの業態(ガストロパブ、中華テイクアウト店、インド料理店)を対象に、電気化による潜在的なコスト削減効果を監視・分析・算出しました。ホスピタリティ業界において、このような機器レベルでの透明性の高いデータが公開されることは極めて稀であり、本ガイドは電気化に関する詳細な財務的・運営上の根拠を提供する数少ない資料の一つとなっています。

 

この独自の分析では、次のような結論が導き出されました:

  • 電化により、このガストロパブは年間8,839ポンド(17%)のエネルギーコストを削減でき、エネルギー消費量は64%減、二酸化炭素排出量は65%減となる見込みです。
  • 中華テイクアウト店では、年間4,493ポンドの節約(エネルギーコスト21%削減)が見込まれ、エネルギー使用量は61%減、二酸化炭素排出量は62%減となる。
  • インド料理店では、年間2,610ポンド(8%)のエネルギーコスト削減が見込まれ、エネルギー消費量は49%、二酸化炭素排出量は50%減少する。

また、このシミュレーションでは、新しい電気設備のコストを考慮しても、ガストロパブの改修による投資回収は3年目で達成され、10年間で65,000ポンド以上の節約が可能であることが示された。

これらの調査結果は、電気調理への切り替えによる長期的な節約の可能性を強調しており、経済的に不確実な時代においてホスピタリティ業界の事業が存続するための重要な戦略として電化を位置づけています。同時に、規制要件やエネルギー市場の変動に対しても将来を見据えた備えとなるものです。

金銭的な節約以上のメリットとは?

このガイドでは、コスト削減以外にも、呼吸器疾患やがんの原因とされる二酸化窒素やベンゼンといった危険なガス関連化学物質の発生をなくすことや、強力な温室効果ガスであるメタンの排出を削減することなど、さらなるメリットについても解説しています。また、IHクッキングヒーターは調理と後片付けの両面で、はるかに効率的です。オーストラリア・タスマニア州にあるレストランScholéのシェフ兼オーナー、ルーク・バージェス氏は、IHコンロに切り替えたことで、掃除にかかる時間が24分からわずか21秒に短縮されたと語っています。これにより、同店では掃除にかかる人件費だけで年間3万オーストラリアドル以上の節約を実現しました。

Food Made Good認定レストランBiBiのシェフ兼オーナー、チェット・シャルマ氏は次のように述べています。「誘導加熱なら、温度制御が格段に優れ、後片付けもはるかに簡単で、厨房の温度もチームにとって明らかに涼しくなります。高品質な調理器具への初期投資は多少必要ですが、その違いは実感できます。さらに、ガスで厨房を運営する場合よりもコストは抑えられます。このガイドが、現在導入を迷っているシェフやレストラン経営者の皆様が、少なくとも今後のプロジェクトにおいて(既存の事業でなくとも)、より情報に基づいた切り替えの決断を下す一助となることを願っています。」

サステイナブル・レストラン協会のCEO、ジュリアン・カイユエット・ノーブルは、このガイドについて次のように述べています。「グローバル・クックセーフ・コアリションおよびHESSとの提携により、このガイドを発表できることを大変嬉しく思います。厨房の電化がもたらす環境的・社会的影響に加え、現実的かつ大幅なコスト削減を示すことができたことは、ホスピタリティ業界にとってこれが迷う余地のない選択であることを証明しています。今後数年間で、より多くの事業者がこの変化を取り入れていくことを楽しみにしています。」

ホスピタリティ・エネルギー節約・サステナビリティ担当ディレクターのサム・ムディ博士は次のように述べています。「これまで、公開されているデータがなかったため、事業者は財務的影響に関する明確な証拠なしに電化を求められてきました。私たちの目的は、実際の数値を用いて、様々なタイプの厨房において電気化が具体的にどのような効果をもたらすかを示すことでした。その結果、多様な事業者が電気化によって運営コストを大幅に削減できることが判明しました。また、移行により、複数の機器を単一のより効率的な機器に置き換えることが可能となり、エネルギーコスト以外にも、メンテナンス、スペース、清掃、人件費などにおいてさらなる節約効果が期待できます。」

 

グローバル・クックセーフ・コアリションのディレクター、モニカ・バーンズ氏は次のように述べています。「世界中の政府が新たな電化規制を導入している今こそ、事業者はコスト削減や従業員のウェルビーイング、持続可能性に至るまで、電化による多くのメリットについて学ぶべき時です。この新しいガイドがホスピタリティ業界の転換点となり、電化への切り替えを検討している方々にとって不可欠なツールとなることを願っています。」

ダウンロード(英語版)はこちらから

【自然と人をつなぐ料理へ】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【自然と人をつなぐ料理へ】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 最優秀賞受賞
一之瀬 愛衣 いちのせあい(株式会社SOLUNA)

滋賀県出身。エコール辻大阪に在学後、京都のミシュラン一つ星レストランで研鑽を積み、その後東京「エスキス」などで経験を重ねる。再び京都に戻り、NOMA出身者が立ち上げた薪火料理店に参画。現在は「旅するガストロノミー」を主宰し、各地を巡りながら土地の食材や文化を一皿に表現する移動型レストランを展開している。

 一之瀬愛衣さんは現在、「旅するガストロノミー」を運営し、各地を移動しながら期間限定のレストランを開催している料理人だ。運営は基本的に一人で行う一方、実際のレストラン開催時にはミシュラン出身の料理人を中心に6〜7名のチームを編成し、その土地ごとの食材・文化・風景を反映した料理を提供している。


「私にとって料理は、単なる表現や技術ではなく、自然からいただいたものを人へ、そして未来へと渡していく行為だと思っています。だからこそ、自然と人を料理でつなぐ“媒介者”のような存在でありたいという価値観を大切にしています」


この活動に至った背景には、ミシュランレストランでの6年間の修業経験がある。一つのレストランにとどまり技術や美味しさを極めることの大切さを理解しつつも、「料理人として、人としてどうありたいか」を考えたとき、より自然に近い場所で生産者の声や自然の声を聞き、感じた物語をお客様に届けたいという思いが強まったという。


「この土地でしかできないこと、その土地が持つポテンシャルや文化を一皿に落とし込みたいと思い、旅するガストロのミーという形を選びました」

■ 未来のレシピコンテストとの出会い

 未来のレシピコンテストを知ったきっかけはSNSだった。以前から食を通じたサステナブルな取り組みに関心があり、コンテストが「レシピの完成度だけでなく、料理の背景にある社会や環境への向き合い方」を評価している点に共感して参加を決めた。

料理人としての課題感も、参加を後押しした。

「レストランで働いていると、誰がどんな環境で食材を育てたのか、どの土地から生まれた食材なのかまで考えられず、作ることだけに集中してしまいがちでした。自然と分断されている感覚があり、その背景をもっと知りたいと思っていました」

滋賀県の山と琵琶湖に囲まれた環境で育ったことも、一之瀬さんの価値観形成に影響している。幼少期から自然との距離が近く、食や環境に対する感覚が生活の中で培われてきたという。

 

■ サステナビリティとの向き合い方

 参加前のサステナビリティ理解については、「言葉としては知っていたが、体系的に学んだわけではなく、現場の実感として向き合ってきた」と語る。生産者の声や自然環境の変化に触れる中で、「これからの料理人にとって避けては通れないテーマ」だと感じていた。

日常の実践としては、特別に意識するというよりも、自然由来の素材に惹かれ、木や石などの道具を選ぶことが習慣となっていたという。

コンテストの応募フォーマットでは、食材の産地や輸送距離、環境負荷などを数値で考える項目があり、「距離や環境負荷をここまで細かく意識していなかった」と新たな気づきを得た。

「感覚的に大事だと思っていたことを、言葉や数字に落とし込む経験になりました」

■ レシピ制作でぶつかった壁――テーマを料理として成立させること

最も難しかったのは、「サステナブル」という大きなテーマを、自分の主張としてではなく料理として自然に成立させることだった。

「理念が前に出過ぎず、でも背景は確かに感じられる、そのバランスが難しかったです。さらに、それを同時に言葉にして説明する作業も大きな挑戦でした」

限られた食材の中で、美味しさ、独自性、ストーリー性を両立させることにも悩んだという。また、「サステナブルを料理として表現すること」と「それを言葉にすること」を同時並行で行うことも彼女にとってのチャレンジでもあった。

コンテストを通して最も印象に残ったのは、「環境に真剣に向き合う多様な人々との出会い」だった。日常の選択そのものを環境と結びつけて考える姿勢に大きな刺激を受けたという。
また、審査員の生江シェフから受けたコメントが強く心に残っている。

「自然の美しさと、人間の意思によって生まれる美しさを、お皿の上でどう響き合わせるか」

この言葉は、今後の彼女の料理の重要なテーマになっていくと話す。

 

コンテストを通じて得た学び

レシピ制作を通じて得た最大の学びを、一之瀬さんはこう表現する。

「料理とは、自然から受け取ったものを人へどう届けるかという関係性の表現なのだと学びました」

参加後は、仕入れ・調理工程・副産物の扱い・伝え方など、あらゆる判断において「自然や社会との関係性」をより強く意識するようになった。

例えば鹿肉を扱う際には、鹿が何を食べ、どんな環境で生き、森の中でどんな役割を果たしているのかを専門家に聞き、その理解をメニューに反映させるようになったという。

 

■ 今後の展望

コンテストを通じて「料理人としての軸がより明確になった」と語る。

「その場所でしか生まれない料理で、自然と人をつなぐ役割を担いたい。その思いをはっきり言葉にできるようになりました」

また、今回のレシピは海外でのイベント時にメニューとして展開したいと考えており、日本の伝統技術とフレンチの要素を融合した一皿として発信していきたいという。

 

「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

 一之瀬さんは、「サステナブルは特別なことではない」と強調する。

「自分が立っている場所の自然や文化に目を向け、何を選び、何を大切にするかを丁寧に考えることから始まります。料理を通して未来とどう関わりたいのかという問いを持って向き合えば、このコンテストはとても豊かな学びの場になります」

かつて肉が乏しかった日本で、たんぱく源として育まれてきた「厚揚げ」を主役に据えた一皿。
きのこのデュクセルを挟み、湯葉で包むことで精進料理の「見立て」を再構築した。
皮や葉、きのこの軸まで使い切り、発酵で旨みを引き出したソースとともに、環境負荷の少ない未来の食卓を描いている。

美食の未来は「再生」にあり。バンコクの名店「バーン・テパ」がアジアの50ベストでサステナビリティ賞を受賞した理由

美食の未来は「再生」にあり。バンコクの名店「バーン・テパ」がアジアの50ベストでサステナビリティ賞を受賞した理由

昨夜、香港で開催された「アジアの50ベストレストラン(Asia’s 50 Best Restaurants)」の授賞式。そこで、バンコクの「バーン・テパ(Baan Tepa)」が、今年の「サステナブル・レストラン賞(Sustainable Restaurant Award)」に輝くという素晴らしいニュースが飛び込んできました!なぜ彼らがこの名誉ある賞にふさわしいのか、その圧倒的な取り組みの内容をご紹介します。

バンコクのバンカピ地区に位置するバーン・テパの根底にあるのは、タイの文化と伝統への深い敬意です。ここでは、その土地固有の食材を、全く新しい発想で再構築した料理が提供されています。しかし、彼らの素晴らしさは皿の上だけにとどまりません。

彼らが掲げるのは、単に「環境への悪影響を減らす」という受動的なサステナビリティではなく、自然環境をより良い状態へと回復させる**「環境再生型(リジェネラティブ)」**モデルへの転換です。環境、生産者、そして地域の人々に積極的に価値を還元する仕組みをデザインすることで、バーン・テパは「ファインダイニング(高級料理)は責任ある形で成立する」ということを証明しています。

授賞にあたり、サステナブル・レストラン協会(SRA)のCEO、ジュリアン・カイエット=ノーブル氏は次のように称賛の言葉を贈りました。

「バーン・テパのチームの皆さん、本当におめでとうございます!小規模生産者を実質的な形で支援し、地域の生物多様性とコミュニティを支える伝統的な食材の市場を創出している彼らの姿勢は、極めて模範的です。また、あらゆる業務から『無駄』を排除する循環型の仕組みへの挑戦にも、私たちは深い感銘を受けました。ファインダイニングに、浪費は必要ないのです」

それでは、彼らの具体的な取り組みについて詳しく見ていきましょう。


1. 責任ある調達:地域と生物多様性を守る

バーン・テパの調達戦略は、レストランがいかにして地域コミュニティを支援し、伝統的な農業技術や先住民の知恵を未来へと繋いでいけるかを示しています。

  • 直接取引の拡大: タイ国内36県、70以上の小規模生産者と直接提携。仲介業者への依存を減らし、生産者に適正な利益が渡るようにしています。

  • 予約注文による安定: 季節ごとの事前発注計画により、生産者に安定した需要を提供し、過剰生産のプレッシャーを軽減しています。

  • 国産率95%: 輸入食材はキャビアとオーストラリア産和牛の2点のみ。それらもメインではなく少量使用にとどめることで、輸送に伴う二酸化炭素排出量(カーボンフットプリント)を抑え、国内生産者を優先しています。

  • 希少品種の価値向上: 在来種の米や野生のハーブ、タイ北部の伝統的な発酵食品である**「トゥア・ナオ(Tua Nao)」**(※タイ版の納豆のようなもの)など、市場に出回りにくい食材を積極的にメニューに取り入れ、生物多様性に市場価値を与えています。

  • 独自の食材マップ: 200種類以上のタイの食材を、産地、旬、生産者ごとに追跡するシステムを構築。これにより、旬に合わせた最適なメニュー構成を可能にしています。


2. 社会的サステナビリティ:知識のプラットフォームとして

バーン・テパは、単に食事をする場所ではなく、知識の交換やコミュニティの繋がりの場として機能しています。

  • 生産者との交流: 毎月「Meet the Producers」セッションを開催。農家や漁師を店に招き、全スタッフに向けて食材や生産方法をプレゼンしてもらいます。これにより、スタッフの知識が深まるだけでなく、作り手と使い手の間に直接的な絆が生まれます。

  • 徹底したスタッフ教育: 全スタッフに毎週少なくとも4時間の研修を実施。キッチン、庭、サービスの役割をローテーションで経験することで、フードシステム全体の理解を深めます。

  • 地域貢献: 少なくとも年1回、全社を挙げたボランティアデーを実施しています。


3. 環境負荷の低減:ゴミを「デザイン」で解決する

「高級キッチンのゴミ問題」に対して、バーン・テパは非常にクリエイティブなアプローチをとっています。

  • 100%オンサイト処理: 有機廃棄物の100%を敷地内で処理する、完全なインハウス循環システムを構築。

  • 廃棄物専門のR&D(研究開発)担当: 驚くべきことに、彼らは「発酵担当」と「余剰食材R&D担当」という専門ポストを設けています。

    • 果物の皮 → 酢やコンブチャ(発酵茶)へ

    • ハーブの茎 → オイルやパウダーへ

    • ネギの端材 → 調味料へ

    • 魚介の殻 → ストック(出汁)へ
      このように、従来「ゴミ」とされていたものを「新しい食材のストリーム(流れ)」へと変えています。

  • スタッフミールの改革: 以前はスタッフの食べ残しが課題でしたが、ビュッフェ形式から「適切なポーションの提供」に切り替えることで、満足度は維持したまま廃棄量を劇的に減らしました。

  • リサイクルをスタッフの福利厚生に: 非有機廃棄物を10カテゴリーに分別。リサイクル業者への売却で得た収益は、スタッフの福利厚生費に充てられます。これにより、分別の徹底が自分たちの利益に直結し、チーム全体のモチベーションを高めています。


バーン・テパのチームによる今回の受賞は、まさに努力の賜物です。彼らの取り組みは、タイの、そして世界のレストラン業界にとっての輝ける道標となるでしょう。

本当におめでとうございます!

参照サイト:https://thesra.org/news-insights/news/why-baan-tepa-won-the-sustainability-award-at-asia-s-50-best-restaurants/