トロントの「Library Bar」が北米サステナブル・バー賞を受賞。食品ロスから労働環境まで、一杯のカクテルに詰まった未来への取り組み

トロントの「Library Bar」が北米サステナブル・バー賞を受賞。食品ロスから労働環境まで、一杯のカクテルに詰まった未来への取り組み

「North America’s 50 Best Bars」の第2回授賞式が、今年もカナダ・バンクーバーのVancouver Convention Centreで開催されました。

その中で、2026年の「North America’s Sustainable Bar Award(北米サステナブル・バー賞)」を受賞したのは、トロントの歴史あるホテル、Fairmont Royal York内にあるLibrary Barでした。

築97年を迎えるFairmont Royal Yorkの中にあるLibrary Barは、文学をテーマにしたカクテルやアールデコ様式の空間デザインでも知られています。しかし今回高く評価されたのは、そのデザイン性だけではありません。

サステナビリティに対する幅広く、そして深い取り組みが評価されました。

サステナブル・レストラン協会(SRA)のCEOであるジュリアン・カイユエット・ノーブル氏は、今回の受賞について次のようにコメントしています。

「トロントのFairmont Royal York内にあるLibrary Barの皆さん、おめでとうございます。食品ロス削減から建物改修による排出量削減、そして従業員の完全な組合化まで、サステナビリティに対する包括的で統合的なアプローチが素晴らしいものでした。

私たちは、地域調達への姿勢や、その土地らしさを大切にしている点にも感銘を受けました。Library BarはOntario 100km認証を取得しており、州内の独立系農家から、生産者自身が価格を決めた食材を購入しています。また、コーヒーかす、アボカドの種、柑橘類の皮などを地元蒸留所と協力してリキュールへ再生し、それをバーで提供しています」

では、なぜLibrary Barの取り組みはそこまで高く評価されたのでしょうか。

Library Barの責任ある調達

地域農家とつながる「Ontario 100km Foods認証」

Library Barは、「Ontario 100km Foods認証」を取得しています。

この認証は、オンタリオ州内の独立系農家から食材を調達している取り組みを評価する制度です。

100km Foodsは、生産者とLibrary Barのような購入者を直接つなぐネットワークとして機能しています。透明性の高い地域の食システムを構築し、生産者の生計を支えるだけでなく、新鮮で旬の食材へのアクセス向上にもつながっています。

また、Fairmont Royal Yorkでは、ホテルの屋上を庭園と養蜂場へと転換しています。

そこで育てられた野菜やはちみつは、ホテル内のすべての飲食施設へ直接供給されています。

「食品ロス」をカクテルの素材へ

Library Barでは、メニュー設計にも循環型(サーキュラー)の考え方を取り入れています。

地元の蒸留所と連携し、これまで食品廃棄物として扱われていたものを、新しい価値を持つリキュールへ生まれ変わらせています。

具体的には次のようなものです。

・コーヒーかす
・アボカドの種
・皮をむいた柑橘類

これらは独自のカクテル原料として活用されています。

この取り組みによって、過去1年間だけでも約1,000kgの柑橘類廃棄物が埋立処理や焼却を回避しました。

Library Barが取り組む社会的サステナビリティ

Library Barでは、環境面だけでなく社会面でのサステナビリティにも力を入れています。

サービススタッフ、キッチンスタッフ、バーテンダー、サーバー補助スタッフの職種は、包括的な労働協約の締結によって完全に組合化されています。

この協約によって、スタッフには以下が保障されています。

・適正な報酬
・十分な権利と福利厚生
・身体的健康への支援
・精神的健康への支援
・経済的安定への支援
・多様性と包摂性のある職場環境

さらに、Library Barは地域コミュニティ支援として、2つの団体と連携して余剰食品の再分配も行っています。

B12Giveは、余剰食品と食料不足の課題をつなぐことを目的とした地域の認証B Corpです。同日中に物流支援を行い、余った食品を必要としているコミュニティへ届けています。

また、La Tablée des Chefsは、食品提供者と地域パートナーをつなぐ役割を担っています。

2025年には、

・6,000kg以上の回避可能な食品廃棄を再活用
・毎月2,000食以上を地域の慈善団体へ提供

という成果につながりました。

Library Barの環境への取り組み

Fairmont Royal Yorkは、ゼロカーボン実現に向けた取り組みとして、北米最大規模となる歴史的ホテル改修プロジェクトを完了しました。

このプロジェクトでは、「Zero Carbon Building Performance Standard認証」を取得しています。

この改修によって、年間7,000トン以上のCO₂排出削減が見込まれています。

これは、自動車1,558台を道路からなくすことに相当します。

また、建物運営から直接発生する排出量の80%を削減し、残りについてはCarbonzero認証によるオフセットで対応する予定です。

世界最大規模の湖水冷却システムも採用

バーの冷却システムには、「Toronto Deep Lake Water Cooling」が導入されています。

これは世界最大規模の湖水利用冷却システムです。

オンタリオ湖の深層から自然に冷たい水を引き上げ、循環システムを通じてホテルや病院、住宅施設などを冷却しています。

これにより、従来のエネルギー効率が低い冷却設備への依存を減らしています。

また、暖房と給湯については電気ヒートポンプシステムへ切り替え、従来の蒸気設備は廃止されました。

さらに、AIを活用した廃棄物追跡システムや調達・調理プロセス改善、ホテル全体の有機廃棄物・リサイクルの仕組みによって、食品廃棄物の埋立量を2023年比で50%以上削減しました。

1年間で111,895kgの削減を達成し、利用客1人あたりの食品廃棄量も20%削減しています。

参照記事:https://thesra.org/news-insights/news/and-north-america-s-50-best-bars-sustainability-award-goes-to/

 

         

         

 

         

         

 

         

         

 

【未利用食材に新たな価値を】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【未利用食材に新たな価値を】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 ファイナリスト
一瀬 颯真 いっせそうま(ザ・キャピトルホテル 東急 中国料理「星ヶ岡」)

静岡県出身。東海調理製菓専門学校卒業後、東京・自由が丘「蔭山樓」にて研鑽を積む。2023年 ザ・キャピトルホテル 東急 入社。

「食用に向かない」と言われる肉を、料理人の技術でおいしくすることはできないだろうか。
ザ・キャピトルホテル 東急 中国料理「星ヶ岡」で点心を担当する一瀬颯真さんは、未来のレシピコンテストで産卵を終えた比内地鶏の老鶏を使った料理「雪花秋鶏~比内老鶏の雪花仕立て~」を考案した。一般には硬く食用に向かないとされる鶏を、中国料理の伝統技法によって一羽余すことなく味わう一皿に仕立てている。

一瀬颯真さんは現在、ザ・キャピトルホテル 東急 中国料理「星ヶ岡」で、点心を担当している。餃子や焼売などの点心の製造に加え、新しい点心メニューの開発も主な役割の一つだ。
既存メニューの改良だけでなく、食材の見直しにも積極的に取り組んでいる。現在特に力を入れているのは、点心に使用する食材の国産化だという。

「粉や肉、野菜など、点心に使う主要な食材をできるだけ国産に切り替えていく取り組みを進めています」

同ホテルでは全社として積極的にサステナビリティの取り組みを進めている。特に「星ヶ岡」は外国産食材から国産へ順次切り替えを進めるなど、サステナビリティの取り組みを強化し、FOOD MADE GOOD Awardsの社会部門で最優秀賞を受賞した。点心部門でもその方針に沿い、食材の見直しを進めている。

将来、料理人として自身の表現を深めていくうえで、できるだけ国産食材を使った料理を提供したいと考えており、現在の取り組みはそのための学びにもなっているという。

サステナビリティとの関わり

以前の職場では「サステナビリティ」という言葉自体が身近ではなかったという一瀬さん。同ホテルに転職し、料理人としての視野が大きく広がった。

「星ヶ岡」では47都道府県の食材をテーマにしたフェアを3カ月ごとに開催しており、各地の食材を使った料理の提案が求められる。その中で、自然と地域食材や国産食材への関心が高まっていった。

入社当初はデザート部門を担当し、平飼い卵や地域の牛乳などを扱う中で、食材の背景を自分で調べるようになったという。

「平飼いとはどういう飼育方法なのか、飼料はどうなっているのか。そういうところまで自然と調べるようになりました」

こうした経験が、食材の生産背景や環境への影響を意識するきっかけになった。

 

未来のレシピができあがるまで

今回のコンテストのテーマは「ベターミート」。一瀬さんはまず、ベターミートやアニマルウェルフェアについて理解することから始めた。食材を探す中で最終的に選んだのが、秋田の比内地鶏の老鶏(親鳥)だった。実はこれは、「星ヶ岡」でスープのベースとして普段から使われている食材で、特別に取り寄せたものではない。

「すでに厨房にある食材で、サステナブルな料理が作れないかと考えました」

老鶏は一般的に肉が硬く、食用としては扱われにくい。しかし一瀬さんは、その評価に疑問を抱いた。

「食用に向かないと言われる肉でも、中国料理の技法を使えばおいしくできる。それを示すことが料理人の役割だと思いました」

当初は平飼い鶏の肉を使う予定だったが、制作を進めるうちに「価値が低いとされてきた食材こそ料理で向き合うべきではないか」という考えが強まり、老鶏を主役に据えることを決めた。

完成した料理「雪花秋鶏~比内老鶏の雪花仕立て~」では、老鶏を一羽余すことなく料理に使用している。肉は主役の料理として調理し、卵は秋田の冬景色をイメージした雪花仕立てと中国料理の保存食である鹹蛋(塩漬け卵)に。内臓は凍鶏(鶏肉の煮凝り)に仕立て、骨や筋などの端材は透き通った清湯スープとして活用した。

中国料理の技法を用いて、老鶏一羽の命を余すことなく味わう料理となっている。

 

コンテストを通じて得た学び

今回の経験で最も変わったのは、料理を考えるときの発想の出発点だったという。
以前はまず肉料理を考え、必要に応じてベジタリアン向けの料理に置き換える発想だった。しかし今は、肉料理とプラントベースの料理を最初から並行して考えるようになった。

それは制限への対応ではなく、食べる人の多様性を前提に料理を設計するという意識の変化だった。
また、食材選びの意識も変わった。国産のたけのこなどに切り替えることで味の質が向上し、「お客様に安心して提供できる」という実感にもつながったという。

「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

「サステナブルは、料理そのものに近い」

一瀬さんにとってサステナビリティとは、特別な概念ではない。端材をスープやタレに活かすこと、廃棄を最小限に抑えること、食材を丸ごと使い切ること。そうした行為は、もともと料理人が自然と向き合ってきた営みそのものだという。

「難しく考えすぎず、まずは自分が扱っている食材をよく知ること。捨てる部分を減らす工夫をすること。そういう小さな一歩から始められると思います」

未来のレシピコンテストは、その「当たり前」を言葉にし、改めて見つめ直す機会だった。料理人としての技術だけでなく、どんな価値観で料理と向き合うのか。その問いを、これからも厨房の中で更新し続けていく。

産卵を終え、食用として扱われにくい比内地鶏の老鶏を、中国料理の技法で一羽丸ごと味わう一皿。卵は秋田の冬景色に見立て雪花仕立てと鹹蛋に、内臓や端材は凍鶏や清湯スープとして構成した。伝統品種の生産持続とアニマルウェルフェアへの願いを込めて、老鶏の価値を料理で示している。

【命をつなぐ一口をつくる】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【命をつなぐ一口をつくる】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 ファイナリスト
上田愛奈 うえだ あいな(ザ・キャピトルホテル 東急)

山口県出身。福岡県 中村調理製菓専門学校に入学し、製菓衛生師科習得後、本命の調理師1年コースに転科し卒業。卒業を機に東京へ上京。

 上田愛奈さんは現在、ザ・キャピトルホテル 東急のメインキッチンでビュッフェや西洋料理のコース料理、婚礼料理など宴会料理を中心に担当している。

未来のレシピコンテストでは、ジビエの鹿肉を使った一口料理「深煎りの森 − 鹿の食卓と人が醸す恵み」を考案した。駆除された鹿の命を無駄にせず、食を通じて循環を生み出すこと。その思いを小さな一皿に込めた挑戦だった。

まだ入社1年目で大きな役割を任される段階ではないが、料理を食べるお客様の姿を想像しながら、日々の仕事に向き合っているという。

出身は山口県。中村調理製菓専門学校で2年間学び、卒業後に現在のホテルへ入社した。実家の周囲に洋食店が多く、さまざまなレストランで食事をする中で料理人という仕事に興味を持つようになった。
将来は技術を磨くだけでなく、後輩や周囲の人にも目を配れる「みんなに愛される料理人」になることを目標にしている。

■ レシピ制作の背景

 今回のコンテストで上田さんが考案した料理は「深煎りの森 − 鹿の食卓と人が醸す恵み」。

幼い頃から鹿を身近に見て育った上田さんにとって、鹿は親しみのある存在だった。しかし成長する中で、農作物被害などの理由から多くの鹿が駆除され、その一部が食べられることなく廃棄されてしまう現実を知ったという。

「命を無駄にせず、循環を大切にする食の在り方を提案したい」

その思いから、駆除された鹿肉を主役に据えた料理を考えた。鹿肉以外の食材には植物性食材や有機野菜を使用し、ベターミートとプラントベースの考え方を組み合わせた一皿に仕上げている。 

 

■ サステナビリティとの関わり

コンテストに応募するまで、上田さんは「プラントベース」や「ベターミート」という言葉をほとんど知らなかったという。

社内に貼られていたポスターをきっかけにコンテストの存在を知り、テーマについて調べるうちに興味が広がっていった。食材の育て方や環境への影響などを調べる中で、料理と環境の関係を意識するようになった。


特に印象に残っているのは、コンテスト前のプラントベース・ベターミートマスタープログラムのセミナーで聞いた言葉だった。

「なぜジビエはベターミートにはいるのか」という質問に対して講師が答えた「どうしても殺さなければならない命があるなら、その命をどうやって無駄にせず、最後まで届けるか」という言葉が、今回のレシピの大きなテーマになったという。

 

■ レシピ制作でぶつかった壁

料理人として働き始めてまだ半年ほどのタイミングでの挑戦だったため、「料理人として参加することへのプレッシャー」を強く感じていたという。


頭の中で思い描いた料理を本当に形にできるのか。そんな不安を抱えながらも、シェフや先輩に相談しながらレシピを作り上げていった。


先輩たちは答えを直接教えるのではなく、考えるためのヒントを与えてくれた。上田さんはそのヒントをもとに自分で調べ、試行錯誤を重ねていったという。


調理面で最も難しかったのは、鹿肉の火入れだった。今回は炭火のみを使ったローストを選び、温度計ではなく手で触れた感覚で火入れを判断した。自然の炭火を使うことで、調理方法自体もサステナブルな選択にしたいと考えた。

■ コンテストを通じて得た学び

このコンテストを通して、料理への向き合い方が大きく変わったという。
食材を調理する前に、それがどこから来たのかを自然と確認するようになった。また、野菜の皮などの食材ロスを減らす工夫も意識するようになった。


「料理は技術だけではなく、命の責任を形にする仕事だと感じました」


職場でも変化があった。コンテストをきっかけに先輩や上司と料理について話す機会が増え、技術や工夫を教わる場面も多くなったという。

■ 今後の展望

料理人としてはまだスタートラインに立ったばかりだが、まずは日々の現場で経験を積みながら技術を磨いていきたいと考えている。

その中で、料理を通して人に喜んでもらうこと、そして食材や命への敬意を忘れない料理人でありたいと語る。

将来的には、後輩にも目を配りながらチームで料理を作れる、周囲から信頼される料理人になることを目標にしている。

■ 「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

 上田さんは、このコンテストを「参加するメリットしかない経験だった」と振り返る。

料理人としてまだ経験が浅い人でも、知識を調べ、料理を考え、伝える過程を通して大きく成長できるという。

応募時には200文字の説明文を記載しなければならず、短い言葉で料理の意図を伝えることが難しかったというが、料理を通してメッセージを伝える方法を学ぶ良い機会になったという。

「何度でも挑戦したいと思えるコンテストでした」

そう語る上田さんにとって、この経験は料理人としての新しい一歩になった。