未来のレシピコンテスト2025 最優秀賞受賞
一之瀬 愛衣 いちのせあい(株式会社SOLUNA)
滋賀県出身。エコール辻大阪に在学後、京都のミシュラン一つ星レストランで研鑽を積み、その後東京「エスキス」などで経験を重ねる。再び京都に戻り、NOMA出身者が立ち上げた薪火料理店に参画。現在は「旅するガストロノミー」を主宰し、各地を巡りながら土地の食材や文化を一皿に表現する移動型レストランを展開している。
一之瀬愛衣さんは現在、「旅するガストロノミー」を運営し、各地を移動しながら期間限定のレストランを開催している料理人だ。運営は基本的に一人で行う一方、実際のレストラン開催時にはミシュラン出身の料理人を中心に6〜7名のチームを編成し、その土地ごとの食材・文化・風景を反映した料理を提供している。
「私にとって料理は、単なる表現や技術ではなく、自然からいただいたものを人へ、そして未来へと渡していく行為だと思っています。だからこそ、自然と人を料理でつなぐ“媒介者”のような存在でありたいという価値観を大切にしています」
この活動に至った背景には、ミシュランレストランでの6年間の修業経験がある。一つのレストランにとどまり技術や美味しさを極めることの大切さを理解しつつも、「料理人として、人としてどうありたいか」を考えたとき、より自然に近い場所で生産者の声や自然の声を聞き、感じた物語をお客様に届けたいという思いが強まったという。
「この土地でしかできないこと、その土地が持つポテンシャルや文化を一皿に落とし込みたいと思い、旅するガストロのミーという形を選びました」
■ 未来のレシピコンテストとの出会い
未来のレシピコンテストを知ったきっかけはSNSだった。以前から食を通じたサステナブルな取り組みに関心があり、コンテストが「レシピの完成度だけでなく、料理の背景にある社会や環境への向き合い方」を評価している点に共感して参加を決めた。
料理人としての課題感も、参加を後押しした。
「レストランで働いていると、誰がどんな環境で食材を育てたのか、どの土地から生まれた食材なのかまで考えられず、作ることだけに集中してしまいがちでした。自然と分断されている感覚があり、その背景をもっと知りたいと思っていました」
滋賀県の山と琵琶湖に囲まれた環境で育ったことも、一之瀬さんの価値観形成に影響している。幼少期から自然との距離が近く、食や環境に対する感覚が生活の中で培われてきたという。
■ サステナビリティとの向き合い方
参加前のサステナビリティ理解については、「言葉としては知っていたが、体系的に学んだわけではなく、現場の実感として向き合ってきた」と語る。生産者の声や自然環境の変化に触れる中で、「これからの料理人にとって避けては通れないテーマ」だと感じていた。
日常の実践としては、特別に意識するというよりも、自然由来の素材に惹かれ、木や石などの道具を選ぶことが習慣となっていたという。
コンテストの応募フォーマットでは、食材の産地や輸送距離、環境負荷などを数値で考える項目があり、「距離や環境負荷をここまで細かく意識していなかった」と新たな気づきを得た。
「感覚的に大事だと思っていたことを、言葉や数字に落とし込む経験になりました」
■ レシピ制作でぶつかった壁――テーマを料理として成立させること
最も難しかったのは、「サステナブル」という大きなテーマを、自分の主張としてではなく料理として自然に成立させることだった。
「理念が前に出過ぎず、でも背景は確かに感じられる、そのバランスが難しかったです。さらに、それを同時に言葉にして説明する作業も大きな挑戦でした」
限られた食材の中で、美味しさ、独自性、ストーリー性を両立させることにも悩んだという。また、「サステナブルを料理として表現すること」と「それを言葉にすること」を同時並行で行うことも彼女にとってのチャレンジでもあった。
コンテストを通して最も印象に残ったのは、「環境に真剣に向き合う多様な人々との出会い」だった。日常の選択そのものを環境と結びつけて考える姿勢に大きな刺激を受けたという。
また、審査員の生江シェフから受けたコメントが強く心に残っている。
「自然の美しさと、人間の意思によって生まれる美しさを、お皿の上でどう響き合わせるか」
この言葉は、今後の彼女の料理の重要なテーマになっていくと話す。
■ コンテストを通じて得た学び
レシピ制作を通じて得た最大の学びを、一之瀬さんはこう表現する。
「料理とは、自然から受け取ったものを人へどう届けるかという関係性の表現なのだと学びました」
参加後は、仕入れ・調理工程・副産物の扱い・伝え方など、あらゆる判断において「自然や社会との関係性」をより強く意識するようになった。
例えば鹿肉を扱う際には、鹿が何を食べ、どんな環境で生き、森の中でどんな役割を果たしているのかを専門家に聞き、その理解をメニューに反映させるようになったという。
■ 今後の展望
コンテストを通じて「料理人としての軸がより明確になった」と語る。
「その場所でしか生まれない料理で、自然と人をつなぐ役割を担いたい。その思いをはっきり言葉にできるようになりました」
また、今回のレシピは海外でのイベント時にメニューとして展開したいと考えており、日本の伝統技術とフレンチの要素を融合した一皿として発信していきたいという。
■ 「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ
一之瀬さんは、「サステナブルは特別なことではない」と強調する。
「自分が立っている場所の自然や文化に目を向け、何を選び、何を大切にするかを丁寧に考えることから始まります。料理を通して未来とどう関わりたいのかという問いを持って向き合えば、このコンテストはとても豊かな学びの場になります」
かつて肉が乏しかった日本で、たんぱく源として育まれてきた「厚揚げ」を主役に据えた一皿。
きのこのデュクセルを挟み、湯葉で包むことで精進料理の「見立て」を再構築した。
皮や葉、きのこの軸まで使い切り、発酵で旨みを引き出したソースとともに、環境負荷の少ない未来の食卓を描いている。
最近のコメント