未来のレシピコンテスト2025 学生部門賞
横井 瑚子 よこいここ(名古屋調理師学校)
1999年三重県志摩市生まれ。岐阜大学地域科学部を卒業後、2022年よりリファインホールディングス株式会社に入社し、新規事業部「食のリファイン推進室」にて勤務。食と資源循環に関わる取り組みに携わる。その後、料理人として食により深く関わることを志し、2025年4月に名古屋調理師専門学校へ入学。現在は調理技術の習得とともに、持続可能な食のあり方を学んでいる。
現在、名古屋調理師学校でアレルギー対応や薬膳など、食と体のつながりを中心に学んでいる横井瑚子さん。学校では、調理技術だけでなく、「食べる人の体や背景」を意識した料理づくりを学んでいる。
この進路を選んだ背景には、大学時代の経験が大きく影響している。横井さんは大学でまちづくりを学び、実際に地方の農村に入り、地域の人々や自然とともに暮らす経験を重ねてきた。
「大学生のときにまちづくりを学んでいて、実際に田舎に入って、地域の方と自然とのつながりの中で暮らしたり、いろいろな農業に携わらせていただいたり、住み込みで伝統的な干し柿づくりのアルバイトをさせてもらったりしました」
その中で、食と自然、そして人との関係に強い関心を持つようになったという。
「地域のおじいちゃんやおばあちゃんから、『昔はこれが採れていたのに』という話を聞く機会も多くて、環境の変化を実感しました。そうした経験を通して、いい食材、本物の食材が確かに存在することを、現地で知りました」
一方で、そうした食材が社会に十分に届いていない現実にも直面した。
「大量生産・大量消費の中で社会が動いてしまっているという矛盾を感じていました。でも当時の私は食に関する専門知識がなく、それを届ける力がありませんでした。だからこそ調理師学校に来ました」
この経験は、横井さんの現在の軸となっている。
「いまも変わらず、生産者と消費者、自然と人を“つなげられる人”になりたいというテーマを持って過ごしています」
■ サステナビリティとの関わり(参加前)
コンテスト参加以前から、横井さんはサステナビリティに関心を持っていた。その背景には、大学卒業後の3年間の社会人経験がある。環境や資源循環をテーマにした会社で働き、食の新規事業の立ち上げに関わっていた。
出産を経験した雌牛である経産牛に、地域資源からつくった飼料を与え、その肉をブランド化して価値を高める取り組みに携わった。廃棄されがちな資源を活かし、地域循環の中で新しい価値を生み出す経験は、彼女の食に対する視点を大きく形づくった。
この経験と、大学時代の農村での暮らしが重なり、「食・環境・地域」を結びつけて考える姿勢が育まれていったのだ。
■ レシピ制作でぶつかった壁――「思い」と「おいしさ」つかった壁
未来のレシピコンテストへの参加を決めた背景には、自身の中にあった葛藤があった。環境や食に対する強い思いはあったものの、それを具体的な料理として表現した経験はなかった。
「これまでは“思い”だけで生きてきた部分があったので、それを形にするチャンスだと思いました。他の料理人さんとは違って、レシピを一から考えたことがないという点が一番不安でしたが、学校のサポートもあったので挑戦してみようと思いました」
コンテストのレシピづくりの過程で、横井さんは自分自身の課題と真正面から向き合うことになった。それは「思いが先行しがちで、料理としての完成度が追いついていない」という悩みだった。
「私の場合はどうしても思いが先行しがちで、『これは環境にいいものですよ』と提供したとしても、それが刺さるのはもともとその分野に関心がある人たちだけになってしまうのではないか、という悩みがずっとありました」
横井さんにとっての本質的な問いは、「環境に良い料理」ではなく、「誰にとってもおいしい料理をどう届けるか」だった。
レシピを考える初期段階では、自然の循環そのものを一皿で表現しようとしたという。
しかし、アイデアを料理に落とし込む段階で葛藤が生まれた。
「例えば温かいお肉に冷たいジュレを合わせるような表現を考えたときに、それが本当においしく届けられるのか、それでいいのかという疑問がありました」
先生と議論を重ねながら進めていく中で、横井さんは「思いを伝えること」と「料理として成立させること」のバランスに悩み続けたという。
「料理としての知識がまだ浅い中で、自分の思いを料理で表現することが一番難しかったです」
このプロセスは苦しかった一方で、彼女にとって大きな転機にもなった。
審査員の生江シェフから投げかけられた言葉が、特に強く心に残った。
「環境にいいものを使ってそれを届けるということは、その分野に興味のある人にとっては価値があるけれど、興味のない人からすると、ときに“押し付け”や“暴力”のように受け取られてしまうこともある。でも、美味しさは誰のことも傷つけない。だからこそ、まずは美味しいものを届けることが大切で、そこにチャレンジした今回の取り組み自体に意味がある」
この言葉は、横井さんが抱えていた葛藤そのものにまっすぐ届いた。環境への思いを伝えることと、誰もが素直に受け取れる“おいしさ”を両立させること。その難しさと可能性の両方を改めて考えるきっかけになったという。
■ コンテストを通じて得た学び
横井さんにとって未来のレシピコンテストは、「思いを料理として形にする訓練の場」だった。
これまで関心を持ってきた未利用資源や資源循環、地域性、食と体の関係といったテーマを、抽象的な理念ではなく一皿のレシピとして具体化する経験になったという。
レシピ制作の過程では、食材の背景を調べることの大切さを実感した。どこでどのように生産され、どんな環境や人の手を経て自分のもとに届いているのかを意識するようになった。また、料理の味や見た目だけでなく、環境への影響や社会的な意味を同時に考える必要性を学んだ。
さらに、「環境に良いこと」と「おいしいこと」は対立するものではなく、両立させるための工夫が必要だということを、実践を通して理解したという。
■ 今後の展望
横井さんは2026年4月から、地元企業への就職が決まっている。これまでの学びや経験を活かし、地域食材の価値を伝え食材や食文化を伝承する仕事に携わる予定だ。
横井さんの根底にあるのは、コンテスト以前から一貫して持ち続けてきた「地域と自然をつなぐ食」というテーマだ。
「ずっと変わらず、その地域のものを生かして届けていきたいと思っています。人と人とのつながりや、自然と人とのつながりに、できるだけ多くの人が触れられるようにしたいという思いがあります。強制ではなくて、なんとなく“それいいよね”と思ってもらえるような、ゆるやかなつながりの輪を広げていきたいです。そのために、もっといろいろなことを学びながら、小さなアウトプットを積み重ねていきたいと思っています」
彼女にとって料理は、ただ食べ物を提供する行為ではなく、人・地域・自然をゆるやかにつなぐ表現方法としての手段でもある。
■ 「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ
これから未来のレシピコンテストに挑戦しようと考えている人に向けて、横井さんは自身の経験を率直に語る。
「私自身も、コンテストは初めてで、プロの方と一緒に戦うなんて無理だと思っていました。きっと多くの学生が同じ気持ちになると思います。でも、誰かと競うこと自体が目的ではなく、その過程で自分と向き合う時間こそが大事なんだと感じました」
「応募する中で、私は本当にたくさんの矛盾と向き合いました。美味しい料理を作るためにはバターを入れたほうがいい、というような常識がある一方で、それがこのコンテストの軸と合わないこともある。かといって、理想の食材ばかりを全国から集めれば、それ自体が環境負荷になってしまう。考えれば考えるほど迷路に入っていくような時間がありました」
それでも、その葛藤こそがこのコンテストの価値だと感じている。
「大変ではありますが、そうした視点を持って調理場に立つこと、あるいは調理場にいなくても食と向き合うことは、必ず自分の視野を広げてくれると思います。人は誰もが食べることから逃れられないからこそ、この経験はすごく意味があると思います。誰かと競うっていうことに意味があるのではなくて、その向き合う時間がこの先の人生に必ずプラスになると思うので、ぜひチャレンジしてほしいです」
鹿を主役に、鹿が暮らす山の風景を一皿で表現した。葉や栗で森を、里に下りて穀類を食べる様子を重ね、麦で岩や地形をイメージしている。水色の皿は、川や水の循環、そして水によって成り立つ地球そのものを象徴している。
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