「リジェネラティブ農業」という言葉を耳にされたことはありますか?

海外では普及していっていますが、日本ではまだまだメジャーではないのが現状です。「リジェネラティブ農業」は、日本語で「環境再生型農業」とも呼ばれ、農地の土壌をただ健康的に保つのではなく、土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指す農業を指しています。土壌が健康であればあるほど多くの炭素を吸収(隔離)するため、リジェネラティブ農業は気候変動を抑制するのに有用な手法だと考えられています。

日本でも話題になった動きとしては、世界最大の食品・飲料メーカーの「ネスレ」やアウトドアブランド「パタゴニア」がその可能性にいち早く着目し、それぞれ独自のアクションを起こしています。

ネスレは、2020年12月に気候変動対策に向けたロードマップを発表しました。その中には、ネスレが世界中の支店でリジェネラティブ農業の拡大を推進すること重点におき、約44億スイスフラン(日本円で約5,200億円)を投資し、リジェネラティブ農業の実践にあてるとしています。また、2030年までに商品に使われる原料の50%(1,400万トン以上)をリジェネラティブ農業で調達することを目指しています。

また、パタゴニアでは、「リジェネラティブ農業」の可能性にいち早く着目した企業のひとつです。1996年に自社製品に使用するコットンの100%をオーガニックコットンに移行し、次のステップとして「リジェネラティブ・オーガニック」への移行に取り組んでいます。2020年からは「リジェネラティブ・オーガニック認証」のパイロットコットン栽培の拡大に向けて、150以上のインドの農家と提携しています。

日本企業でも「リジェネラティブ農業」の動きは少しずつ増えています。
北海道に拠点を置く、ユートピアアグリカルチャーもそのひとつです。「リジェネラティブ農業」によってつくられた乳製品や卵などを使用した製菓製造に取り組んでいる企業で、北海道の広大な大地を活用した牛や鶏の放牧に取り組みながら、北海道大学と共同で「循環型酪農によるCO2の吸収・隔離」に関する研究を行っています。「リジェネラティブ農業」によって作られたこだわりの素材を用いたチーズケーキ「チーズワンダー」は、完売続出で中々手に入らない人気商品となっています。

 

以下SRA本部のブログより翻訳
https://www.foodmadegood.org/groundswell-making-the-case-for-regenerative-agriculture/

著者:ルイーザ・ドット, SRA シニアプロジェクトマネージャー

SRAは、Food Made Goodに関連する企業の代表者を連れて、グラウンズウェルフェスティバル(リジェネラティブ農業の会議とショー)に行き、リジェネラティブ農業の原理、課題、解決策について学びました。

SRAをはじめ訪問者は下図を手にもち、一連のセッションと屋台を訪ねました。
土づくりを中心とした農業が、いかにして、荒廃した広大な土地の回復、生物多様性の向上、炭素の隔離(二酸化炭素の大気中への排出を抑制する手段)、気候変動対策、土壌侵食に対する回復力を構築するかを探りました。生産性の向上、そして何より美味しく栄養価の高い食料の提供につながることも示していました。これらの原則を包含するリジェネラティブ農業(環境再生型農業)という言葉は、ここ数年、人気を博してきました。

ここでは、その中からいくつかを紹介しましょう。

オネストバーガー(イギリス国産の食材にこだわったバーガーショップ)は、「グラスルーツ」の農家グループと協力して、リジェネラティブ農業を実践する農場から牛肉を調達しています。農家側にとっては、牛肉の市場につながり、オネストにとっては、牛肉を丸ごと手に入れられることになります。

ホームドッツ(2012年に設立され、サフォークのブランプトンに拠点を置く英国の食品小売および製造会社)は、自らを「誇り高き仲買人」と表現し、約35の農家で栽培された英国産の豆類や穀物を全国のレストランに供給するマーケットをつくりました。。
ワハカ(メキシコスタイルの屋台の食べ物を販売する英国のレストラングループ)やケンブリッジ公爵のメニューに、植物の力で作られた豆類を提供し続けているのです。

アビー・ローズさんは、アニマルウェルフェアに配慮した食肉生産者であるパイパーズ・ファームのチームの一員として、デボンシャー(イングランド南西部の地域) にある44の農場と協力して、同レベルのアニマルウェルフェアと農業原則に基づいた食肉生産を行っています。討論の多くは、「リジェネラティブ農場」の認証と、合意された基準をめぐり、繰り返し話し合いが持たれました。

この日の基調講演はヘンリー・ディンブルビー氏(英国のビジネスマン兼料理作家。2018年3月に環境食糧農村地域省の非常勤取締役に任命)によるもので、政府が国家食糧戦略を却下したことを受けてのものでした。ディンブルビー氏は、政府が国家食糧戦略を却下した場合でも、レストランは、彼の塩と砂糖の削減に関する勧告に従い続けるべきだと示唆しました。政府の対応(あるいはその欠如)についての英国SRAの見解は、こちらをご覧ください。

この日は、シャンテル・ニコルソンと、彼女が新しくオープンしたアプリシティのサプライヤーで構成される豪華なホスピタリティ・パネルで幕を閉じました。シュラブプロビジョン はイギリス中のリジェネラティブな生産者から野菜や果物を調達しており、ニールズヤードデイリー(イギリスのチーズメーカー)とそのチーズ生産者であるウエストクームチェダーは、そのうちの一社です。シュラブとニールズヤードはそれぞれ、「リジェネラティブ農法」で生産された食材を手作業で加工し、より高い値段で提供していることに触れ、食材の真の価値について語り合いました。そして、食の真の価値を認識し、おいしい食事にもっとお金をかけるよう、より多くのホスピタリティ企業や消費者のコミットが必要であるという意見で一致しました。

気温27度の夏の日陰で、「アニマルウェルフェア(動物福祉に高く配慮した)・ソフトクリーム」を食べながら、私たちは他の接客業の人たちと一緒に、サプライチェーンにもっと再生可能な生産者を取り込むにはどうすればいいかについて話し合いました。大企業に勤める人々は、既存の卸売業者、流通業者、サプライヤーとの間に、特にリジェネラティブな手法などの問題に関して、つながりと透明性が欠けているという問題点が上がりました。

私たちは、何を探すべきか、どのように調達やマーケティングの同僚に伝えるべきかについて、知識を深める必要があることに同意しました。農業の専門家ではないものの、サステナビリティの利点については意見が一致しました。しかし、「リジェネラティブ農業」についての知識があっても、この農法についての定義や認証がない以上、何を基準にすればいいのか分からないという問題があります。さらに、費用やロジスティックスもこれまでと同様、障壁となっているようです。例えば、ある企業は、自分たちの調達ニーズを満たせるチーズ生産者は世界に2社しかなく、そのうちの1社は、よりリジェネラティブな原則に基づいた実験を農場内で始めているという前向きな話をしてくれました。

大規模な外食産業が取ることのできる実践的なステップをいくつか紹介します。

ファーマラマなどの読書やポッドキャストに参加し、サプライヤーのひとりとしてとボランティア活動をする。
・最も購入している食材を特定し土壌の健全性を高めるような活動をしているかどうかを尋ねる。
・小規模のリジェネラティブな生産者を見つけるのは簡単です。土壌の健全性を中核として小麦を栽培しているワイルドファームドグレインや、リジェネラティブな倫理を持つ英国の農家から果物や野菜を調達して供給しているシュラブプロビジョンズなどを試したり、試験的に導入してみてください。
・卸売業者や供給業者に、農場単位の原産地情報を提供するよう求め続けましょう。更新された契約や入札にこれを組み入れてください。
グローバルファームメトリック: サステナブルフードトラストが現在農場で試みている農場での持続可能性のための総合的な評価を試してみてください。