【能登半島地震から1年】インタビュー:日本料理 富成 冨成寿明さん 「あの日から1年。今、思うこと」

【能登半島地震から1年】インタビュー:日本料理 富成 冨成寿明さん 「あの日から1年。今、思うこと」

SRAジャパンは、2024年1月の能登半島地震から、多くの方から寄付金をお預かりし、関係機関と連携しながら、被災された日本料理 富成の冨成寿明さんが続けてこられた炊き出しを支援してきました。最近では、災害直後の「命をつなぐ糧」から、「心を元気にする食」に支援のフェーズが変化してきています。

そのため、心の栄養に加え、飲食店やコミュニティを応援することをテーマに、地域のみなさまにスイーツを楽しんでいただくイベントを2024年12月19日に輪島で開催しました。

その際に、冨成さんと、スイーツを提供されたシェフパティシエの加藤峰子さん、平瀬祥子さんにお話を伺いました。

【1】日本料理 富成  冨成寿明さん
「あの日から1年。今思うこと」
【2】シェフパティシエ 加藤峰子さん
能登の復興を一緒に考え、共同で創っていく」 <近日公開予定>
【3】シェフパティシエ 平瀬祥子さん
「輪島で活動して感じた、パティシエだからできること」
<近日公開予定>

インタビュー:日本料理 富成 冨成寿明さん

「あの日から1年。今、思うこと」

冨成寿明さん
日本料理 富成 (石川県輪島市町野町)店主

山で山菜を採り、海や川で魚を釣り、父と料理することが楽しみだった幼少期。料理人の道に進むため大阪の専門学校を卒業後、大阪の料亭や京都のホテルで修行。その後、地元の輪島に戻り、2008年に父親の仕出し店を継ぐ。2013年「日本料理 富成」に業態を変更。2018年には「町野川再生プロジェクト」を立ち上げ、環境保全や地域活性化の取り組みも精力的に行ってきた。「ミシュランガイド北陸2021」1つ星&グリーンスターを獲得。2024年1月、令和6年能登半島地震、9月 令和6年奥能登豪雨に被災し、7月末まで炊き出しを続ける。現在は、イベントや講演活動を行いながら、事業の再開を模索している。日本サステナブル・レストラン協会加盟店。

9月の豪雨のあと、前を向く心が折れた

9月の水害の直後の輪島市の町野川。冨成さんのお店のすぐ近くを流れる。(冨成さんのインスタグラム投稿より)

– 被災されてもうすぐ1年になりますね。9月には水害もあり。本当に大変な1年だったと思います。1月から7月まで続けてこられた炊き出しも終了し、今の心境はいかがですか?

そうですね、今、一番考えているのは、これからのことです。自分のお店を再建することについてですが、すごく不安があります。再建してお客さんが来てくれるのかとか、実際に自分たちの生活がそれで成り立つのか。

地震だけだったら、まだそれほど不安はなかったんです。でも9月の水害で、地元の地域の被害ももちろんですが、今までやってきた、川の保全活動など地域の環境を復活させる取り組みが、1からやり直しというよりも、本当にマイナスに戻ってしまった。そのショックも大きかったです。

お店の再建を考えても、まず食材が手に入りにくいですし。生産者も減っている状況で、果たしてこのままお店を再建していいのかという不安が、今は一番大きいです。

 

店を再建するための資金について考える日々

震災前に改装工事を始めた店舗。カウンターに立ち、お客様と会話しながら食事を提供する形にこだわりたいと話して下さった。(2024年7月撮影)

再建するにもやっぱり資金とかかかりますしね。被災したのは、ちょうど銀行さんから借り入れをする直前のタイミングだったんです。

借りる前だったというのは、不幸中の幸いというか。でも、今後、資金を借りないで、再建を諦めるということになれば、これまで支払った自己資金が全部無駄になってしまいます。

僕の場合は、お店を改装中だったので、再建に対する地震の補助金が対象外なんです。再建は自己資金だけで行わなければならないという、非常に苦しい状況になっています。

なおかつ自宅も建て直さなきゃいけない。その辺もどうするのか。仮に、再建しないという決断をしてしまったらどうなるのか?ということが常に頭にあります。

家族の生活と将来を考えた時にベストな選択とは

冨成さんの自宅前にて。山に囲まれ、川が流れる自然豊かな場所。(2024年7月撮影)

今、子どもたちと妻は大阪にいて、妻の実家に暮らしていますので、家賃がかからないで生活ができているので助かっています。

でも、子どもたちは人口の多い都会で、お友達もいっぱいで、習い事も行きたいところを選べて、楽しく生活している。そんな中で、僕がお店を再建するから、輪島に戻ってきてというのが、良いのかどうか。本人たちは、戻ってもいいよって言ってくれてるんですけど。

子供たちの将来を考えた時に,子どもたちにとってそれがベストな選択かどうか、正直、父親としては自信が持てなくて。こっちの田舎の自然を体験するというだけなら、普段は大阪に生活して、夏休みや冬休み、春休みで体験できるということもできるので。

そういった、自分の思いだけじゃなく、家族のことも含めると、心がかなり苦しくなってしまうところがあって。 そういう意味で水害が、僕の中では大きかった。

1年後、2年後、そして10年後の輪島はどうなっているか

輪島朝市のあった場所。かつての活気あふれる観光名所が、災害を経て更地に。(2024年12月撮影)

– 先ほどイベントに来場されていた方がおっしゃっていましたが、水害の後、飲食店は3割ぐらいの方が廃業したり、輪島から出て行かれたそうですね。

そうですね。やっぱり僕たちの商売って人口がいないと成り立たない商売なので、そこがやっぱり今回の水害でさらに人口が減ってしまう結果になってしまったので、他の飲食店の皆さんの廃業という決断はいたしかたないと思っています。

– また一方では、これから復興フェーズに入っていくときに、お客さんが増えて飲食店が忙しくなるという見立てもあるそうですが、そういったことに関して、チャンスというように捉えられませんか?

そうですね。今、飲食店を再開しているところは、復興工事関係者さんの需要をとらえて、しっかり売り上げを上げておられるのは間違いないです。ただ、1年後、2年後ぐらいまではいいかもしれないんですけど、その先が不透明ですね。もう地震の報道も全くされなくなって、ある程度工事も終わって、工事関係者の皆さんが来なくなったとき、たとえば10年後を考えたら、果たしてどうなっているのかっていう不安はあって。そこを考えて、今のうちに能登を出ようと決心する方もいらっしゃいます。

復旧もままならない、能登の現状をたくさんの方に知ってほしい

震災後は、料理は炊き出しとまかないだけを作ってきた冨成さんが、腕をふるってコース料理を手がけたダイニングイベント。SRAジャパンの仲間が手を差し伸べる。東京都練馬区 ジターリア・ダ・フィリッポにて。(2024年11月撮影)

– 最近は、イベントや講演活動も積極的に行っていらっしゃるそうですね。

そうですね。僕、最近関東だったり関西で、イベントとか、講演会をさせていただく機会が結構ありまして、そういった中でお話をすると、能登はすでにだいぶ落ち着いて、復興に向かっているんだと思っていらっしゃる方が結構いらっしゃるんです。

でも実際はまだまだ復旧すらままならない状態で、人口が減り続けて、地元の皆さんは疲弊しているっていう状況が続いています。まずは能登を忘れてほしくない。いっぱい亡くなった方もいらっしゃいますし、 大事な方を失われた方もいらっしゃいますし。

そんな思いがあるので、実際の今のこの能登の状況を、たくさんの方に見ていただきたいです。能登に来ていただけたら、すごく嬉しいです。もちろん観光が復活してからもありがたいですけど、まずは、今の現状を見ていただけるとすごく嬉しいなと思います。

人が集まり、笑顔が生まれることは大事だとあらためて思う

ペイストリーシェフをつとめるレストランFAROでは、3割以上を能登産に切り替えているという、加藤峰子さん(写真左)と、輪島港にて。加藤さんは、能登のために、今、飲食人ができることを模索しているそう。(2024年12月撮影)

 – 今日、イベントに参加された方から、そろそろ有料でちゃんとしたサービスやものを取引して、経済をみんなで回せるようなイベントの需要があると伺ったのですが、それについてはいかがですか?冨成さんには、ぜひ中心になってやっていただけたらと思います。

そうですね。今日のように多くの方に来ていただいて、皆さんが笑顔になって帰られるのを見ると、こういうイベントは大事だなって改めて思います。

– そうですね。ぜひまた実現させたいですね。その際は、サポートしていただけると嬉しいです。

そうですね、そのような機会がありましたら、協力します。よろしくおねがいします。

FOOD MADE GOOD PROJECT NOTO-POP UP

FOOD MADE GOOD PROJECT NOTO POP-UPは、これから復興フェーズに入る能登と全国各地の料理人をつなぎ、 能登の飲食店や生産者のみなさまに元気になっていただくことを目指すプロジェクト。現地の飲食店に料理人を派遣してポップアップレストランを開催したり、全国各地で 能登の食材を使ったり、能登の料理人とコラボしたイベントを開催するなど、能登の応援を続けてまいります。

皆様の温かいご支援やご協力をお願いいたします。いっしょに能登を応援しませんか。

【能登半島地震から1年】FOOD MADE GOOD PROJECT NOTO-POP UP -こころとからだを想うスイーツとともに

【能登半島地震から1年】FOOD MADE GOOD PROJECT NOTO-POP UP -こころとからだを想うスイーツとともに

SRAジャパンは、2024年1月の能登半島地震から、多くの方から寄付金をお預かりし、関係機関と連携しながら、料理人の派遣や資金提供という形で炊き出しを行い、被災地を支援してまいりました。最近では、災害直後の「命をつなぐ糧」から、「心を元気にする食」に支援のフェーズが変化してきています。

そのため、今回の輪島訪問では、心の栄養に加え、飲食店やコミュニティを応援することをテーマに、輪島市内でいち早くコミュニティの拠点として営業再開された、hosibosi coffeeさんをベースに、地域のみなさまにスイーツを楽しんでいただくイベント「FOOD MADE GOOD PROJECT : NOTO POP-UP ー  こころとからだを想うスイーツとともに」を開催しました。

シェフパティシエの加藤峰子さんと平瀬祥子さん

たくさんの手作りスイーツを携えて参加してくださったのは、シェフパティシエの加藤峰子さんと平瀬祥子さんです。

加藤峰子 シェフパティシエ

2024年の「ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS」の「Asia’s Best Pastry Chef 2024, sponsored by Valrhona 」をはじめとする、数々の賞を受賞し世界レベルで注目されている加藤峰子さん。ペイストリーシェフをつとめるレストランFAROでは、スイーツに使用する食材の7−8割を、石川県産のものを使用されていらっしゃるそうです。今回の輪島訪問には特別な思いを持って参加してくださいました。

平瀬祥子 シェフパティシエ

平瀬祥子さんは、2020年にフランス発祥のレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」でベストパティシエ賞を受賞され、8年連続でミシュラン 一つ星を獲得している東京・東麻布のフレンチ「レストラン・ローブ」でデザートを手がけるほか、石川県金沢市でもお店を構えていらっしゃいます。石川県は第二の地元でもあり、平瀬さんもまた、被災地訪問について特別な思いをもって参加してくださいました。

チョコレートで幸せな気持ちになっていただきたい

「厳しい冷え込みに見舞われる輪島のみなさまに、少しでも暖かな、幸せな気もちになれるようにと、心を込めてお作りしました。」と語るのは、加藤峰子シェフパティシエ。

今回、お二人がフォーカスした素材はチョコレート。非日常な日常を送る被災地の方に、食べて欲しいから。チョコレートに含まれる必須アミノ酸のトリプトファンは、幸せホルモン「セロトニン」の分泌を活発化させ、抗うつ作用があり、特にハイカカオはその成分が多く含まれているそう。

加藤さんの輪島訪問への思いを聞いて、真っ先にサポートを申し出てくださったのは、フランスの老舗ブランド ヴァローナジャポン様。ヴァローナ様からは、2種類のチョコレートをご協賛いただき、2人のシェフパティシエがとても贅沢なで素晴らしい味わいのホットチョコレートに仕上げてくださいました。

能登の牛乳を調達し生産者の支援も

能登ミルクさんは、石川県七尾市のジェラートが名物のカフェ。こちらで使われているのは、能登半島で無農薬の牧草だけで育てられた牛のミルクだそうです。今回のホットチョコレートのために160本の牛乳を購入しました。

復興を目指す、輪島工房長屋の店先で

周辺の家屋が倒壊する中、しっかり残った輪島工房長屋。この一角で営業するHosibosi coffeeさんをイベント会場に。

「ひさしぶり!」地域の方が顔を合わせる機会にもなり、あちこちで笑顔で会話される姿が見られました。

販売したスイーツは、ビスケットとガトーショコラと焼きもなか。また心掛けたのは、販売イベントにすること。トップシェフが作るスイーツを、通常価格よりお得な価格に設定。ホットチョコレートは、無料配布です。

加藤峰子さんのイルビスコットーネ(写真:手前左の2つ)
イタリアでは大きなビスケットのことをそう呼ぶそう。とてもシンプルだけど生活にそっと寄り添える愛情たっぷりのビスケットで「食べると幸せになれる」のだとか。プレーンとチョコレートの2種。

平瀬祥子さんの焼きもなか(写真:手前右)
北陸産の米を使用したサクサクのもなかの皮に、ポン菓子やナッツやチョコレートが詰まっています。棒ほうじ茶ショコラ、ソルトショコラ、紅茶ショコラの3種。

平瀬祥子さんのガトーショコラとテリーヌショコラ(写真:奥)

フランスの老舗ヴァローナののチョコレートを使い、丁寧に焼き上げ、しっとりした味わいに。

近くで居酒屋「mebuki」を営む、ミシュラン一つ星のフレンチレストラン「ラトリエ・ドゥ・ノト」の池端シェフも遊びにきてくださいました。

どんどん人が集まり、笑顔があふれてきます。

前を通る車を呼び止めて。

今回イベント会場をコーディネイトしてくださった、輪島でいしるの製造販売を行うへぐら屋の岩崎さんご夫婦。震災後、事業再開に向けて活動されていますが、まだまだ時間がかかりそうです。ただいまクラウドファンディングに挑戦されています!

Hosibosi coffeeの山崎里香さん(写真右)心を込めて焙煎したおいしいコーヒーと居心地の良い空間を提供されています。

イベント終了!告知を見てきてくださった方やたまたま通りかかった方。来てくれた方が、友人や知り合いの方に知らせてくださり、時間がすぎるごとに来場者が増えて行きました。多くの方の笑顔があふれる心温まるイベントになりました。

また、今回のガスや鍋などの機材は、日本料理 冨成さんにご協力いただきました。

輪島のみなさま、ありがとうございました。
スイーツの力で、心あたたまる幸せな時間をいっしょに過ごしていただけたなら、なによりです。
これからも応援を続けさせてください。

 

イベント概要

輪島工房長屋内で営業を再開したHosi bosi coffeeを会場に、シェフパティシエの2人が、能登の皆様に心も体も幸せになってほしいと願いを込めて作り上げたホットチョコレートを配布。厳選素材を使った体にやさしいスイーツも特別価格で販売。

タイトル FOOD MADE GOOD PROJECT:NOTO POP-UP
– こころとからだを想うスイーツとともに
日時 2024.12.19 木 10:00-15:00
会場 Hosi bosi coffee  石川県輪島市河井町4-168(輪島工房長屋)
シェフパティシエ 加藤峰子 平瀬祥子
企画・主催 日本サステイナブル・レストラン協会

食材の購入には、SRAジャパンにお寄せいただいた支援金および企業スポンサーからご提供いただいた食材を使わせていただきました。

スイーツの売上は、地元の経済復興と、外食と食文化の再建を目指し、会場となるHosibosi coffeeと、輪島 へぐら屋に、支援金として全額寄付いたしました。

 

ご協賛いただいた企業様(敬称略)

2種類の高品質なチョコレートをご協賛いただきました。  

  • タナリヴァ・ラクテ 33%

ミルキーなキャラメルの香りと、ほのかな酸味のバランスが絶妙なミルクチョコレート。ヴァローナセレクションの傘のもと取り扱っている「リパブリカ デル カカオ」というカカオ豆からチョコレートまで生まれも育ちもラテンアメリカ、というチョコレートブランド

  • マダガスカル産カカオ

エクアドル・アマゾニア 75%

エクアドルのアマゾン地域で栽培されたカカオ豆のみを使用したシングルオリジンで、高いカカオ分、アーモンドやヘーゼルナッツなどのローストナッツの甘いノートと、バランスの取れたプロファイルが特徴的。

SRAジャパン ソーシャルビジネスパートナーである、Co・En Corporation様からは、マダガスカルで、アグロフォレストリで生産されている、バニラビーンズがホットチョコレートに贅沢に使われました。アグロフォレストリとは、自然と共存し自然の力を最大限に生かす、森のような木が生い茂る農園。とても丁寧に生産されています。

石川県白山市の陶器メーカーで、SRAジャパンの企業パートナーのニッコー様には、レスウエイスト(イベント期間中、極力廃棄物を出さないこと)を目指し、マグカップは、ニッコーの食器サブスクリプションサービス「sarasub」(サラサブ)より、リース提供いただきました。sarasubとは、回収した食器のリユース・リペア・リファービッシュを通じて食器の循環を目指す取り組みです。

FOOD MADE GOOD PROJECT NOTO-POP UP

FOOD MADE GOOD PROJECT NOTO POP-UPは、これから復興フェーズに入る能登と全国各地の料理人をつなぎ、 能登の飲食店や生産者のみなさまに元気になっていただくことを目指すプロジェクト。現地の飲食店に料理人を派遣してポップアップレストランを開催したり、全国各地で 能登の食材を使ったり、能登の料理人とコラボしたPOP-UPイベントを開催するなど、 能登の応援を続けてまいります。

皆様の温かいご支援やご協力をお願いいたします。いっしょに能登を応援しませんか。

8つのサステナビリティ神話を完全に打破しよう!

8つのサステナビリティ神話を完全に打破しよう!

この記事では、一般的なサステナビリティに関する誤解の背後にある事実を詳しく解説します。

  1. 地元産の食品は炭素排出量が必ずしも低いとは限らない。

食品の炭素フットプリントを考えるとき、『フードマイレージ』(食材がどれだけ遠くから運ばれたかを示す指標)を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際には食品がどれだけ遠くから運ばれたかは、より大きく複雑な炭素問題の一部分に過ぎません。確かに、遠方から輸送された食材、特に航空便で運ばれた場合は、炭素への影響が大きくなることがあります。しかし、実際には食品の環境への影響の大部分は輸送ではなく、生産過程にあります。

実際、多くの食品では輸送が全体の排出量に占める割合は10%未満です。排出量が特に高い食品(例:牛肉)では、その割合がわずか0.5%にすぎないこともあります!生産に使用されるエネルギーも想像以上に大きな影響を及ぼします。例えば、イギリスのエネルギー集約型の温室で栽培されたトマトは、地中海地域で自然に太陽で熟したトマトを輸入した場合よりも、輸送を考慮しても炭素フットプリントが高くなる可能性があります。

また、サステナビリティは多面的なものであり、炭素だけにとどまりません。土壌の健康、水の使用、廃棄物管理、汚染、動物福祉、労働者の公正な扱いなども、食品全体に影響を与える要因となります。そのため、必ずしも地元産の食品が最も炭素排出量が少ない選択肢とは限りませんが、それでも非常に重要なメリットをたくさん持っています。

地元密着型の短い供給チェーンは、気候変動や国際的な紛争の影響に対してはるかに強靭です。地元で購入することは、小規模農業を支援し、地域経済により多くの資金を循環させ、ビジネスがコミュニティに深く根を下ろす助けにもなります。メニューで産地を紹介することで、顧客が選んだ食事により深いつながりを感じるよう促すことができます。また、長い輸送や冷蔵保存が不要な分、旬の新鮮な食材を最適な状態で手に入れることが多く、しかもより手頃な価格で購入できる場合もあります。

  1. フェアトレードのようなサステナビリティ認証は費用がかかり、欠陥もあるため、導入する価値がない。

サプライチェーンの透明性を確保することは、ホスピタリティ業界において非常に重要ですが、手間と時間がかかる場合があります。責任ある調達とは、環境や社会に配慮した倫理的な供給元から購入し、地球への影響を最小限に抑えることを指します。この取り組みはサプライチェーンの最初の段階から始まり、栽培・収穫に携わる人々、そして彼らが暮らし働く地域社会や環境を大切にすることを含みます。また、生産者に生活可能な収入を保証し、環境に配慮した農業や漁業の実践を支援することも意味します。

地元で調達できる食品は比較的管理が容易ですが、他国から輸入する食材、特にアボカド、チリ、柑橘類、カカオ、コーヒー、ナッツ、パーム油、一部のシーフードや大豆など、環境への影響や労働条件に関するリスクが高い食材の場合、管理がより難しくなります。これらの食品を調達する際に十分な配慮を欠いた企業は、サプライチェーンに内在する問題が評判や財務リスクとして表面化することがよくあります。

こうした状況で、フェアトレードやレインフォレスト・アライアンス、MSCブルーチェック、有機認証などの認証団体が、特にこれらの高リスク食品において飲食業界の事業者を大いに助けることができます。

第三者認証には依然として不完全な点があります。これまでに業界に多くのポジティブな変化をもたらしてきたのは確かですが、小規模な農家にとって、追加の事務作業やコストが発生し、それが時に高すぎる障壁となるのは非常に歯がゆいことです。大企業がより良い農業慣行の発展を支援する素晴らしい方法の一つは、認証基準を満たすために取り組んでいる小規模農家に対し、財政的な支援を保証することです。例えば、農場が有機基準を達成するまでの間、一定量のジャガイモを購入することを約束するなどが挙げられます。

一方で、労働条件や環境管理の確認を行うリソースや知識、能力が企業にない場合、第三者の存在は本当にありがたいものです。第三者認証は、購入する製品の起源や影響を透明性のある形で管理し、サプライチェーン内の農家や漁師が公正に扱われていることを保証し、グリーンウォッシング(環境配慮を装った虚偽表示や偽装行為)を防ぎ、自社のリスクを管理するための最善の方法であり続けています。また、消費者が食品選択における透明性をますます求めている中で、認知度の高い認証は安心感を提供し、信頼を築く手段としても機能します。

 

  1. 栄養と健康はサステナビリティとは別の問題である。

栄養とサステナビリティは、一般に考えられている以上に密接に関係しています。2019年、EAT-Lancet委員会(人間の健康、栄養学、経済学、農業、政治学、環境サステナビリティの分野で活動する16か国の37人の科学者のグループ)は、食品システムにおける「安全な活動範囲」を定義するためのデータ駆動型の国際的な科学的目標を開発しました。これらの目標は、健康的な食事とサステナブルな食料生産という、すべての人々と地球に関わる2つの重要な分野に焦点を当てています。

これらは表裏一体で、地球にとって良いことは多くの場合、私たちの体にも良いことです。よりサステナブルで多様性のある植物中心の食事に移行することは、気候変動の緩和や生物多様性の保護、公衆衛生の向上につながります。

多様な食事を摂ることは健康に良いだけでなく、特定の作物や動物への負担を軽減し、生物多様性を守り、食品システムをより強靭にする助けにもなります。果物、野菜、豆類、ナッツ、全粒穀物を豊富に含む食事は、肉中心の食事や超加工食品を多く含む食事よりも、環境への負担が圧倒的に小さいです。肉の生産は、温室効果ガスを大量に排出するだけでなく、膨大な水や土地を消費します。さらに、森林伐採を助長し、水路を汚染し、全体的に見て非常に資源効率の悪い方法です。一方で、精製、調理、包装、保存などのプロセスでは、超加工食品の生産に多くのエネルギーが必要で、しばしば化石燃料に依存しています。

そのため、『Feed People Well』は『Food Made Good Standard』の10の柱の1つに位置づけられています。食品業界は、ゲストに対してより良い食の選択肢を啓発し、健康的(それでも美味しい!)な料理や飲み物を促進する重要な役割を担っています。EAT-Lancet委員会とWHOが示した国際的な科学的ガイドラインに基づき、私たちはF&B業界に対して、単に美味しいだけでなく、健康的で栄養価の高い料理を作り、促進することを推奨しています。

 

  1. リサイクル可能なパッケージはテイクアウトサービスにおいて最もサステナブルな選択肢である。

もちろんリサイクルは重要ですが、第一の選択肢にすべきではありません。プラスチックのリサイクルは、消費者が想像するほど効果的ではないことが多いです。実際、約75%のプラスチックは理論上リサイクル可能ですが、実際にリサイクルされるのは全体の9%に過ぎないことをご存知でしたか?これは適切なリサイクル施設が不足していたり、アイテムが適切に洗浄されていないためです。食品がついているパッケージはリサイクルされません。食品廃棄物が1、2個のアイテムに付着しているだけでも、それ以外のリサイクル可能な材料がすべて不適切と見なされ、埋め立て地や焼却処分されることもあります。

プラスチックなどの有機物以外の廃棄物に取り組む際には、他にもより良い方法がたくさんあります。廃棄物処理の優先順位は、どの状況でも最も効果的な行動を示します。そのリストのトップは、まず廃棄物を作らないことです。使わない方法がないか、考えてみましょう。最も大きな影響を与えるために、私たち全員が購入の決定を下す前に「本当にこれが必要か?」と自問する必要があります。テイクアウトサービスを提供するレストランでは、ストローなどの不必要なアイテムを省く(障害を持つお客様が必要とする場合を除く)ことや、ナプキンを必要に応じて提供することが含まれます。また、可能であれば再利用可能な代替品を使用することも重要です。使い捨てカップの代わりに預かり金制の再利用可能なコーヒーカップを提供したり、テイクアウト用の食べ物に自分の容器やカトラリーを持参するよう顧客にインセンティブを与えることも一つの方法です。

すでに作られ、使用されたアイテムについては、それが本当に捨てるべきものかどうかを考えることが重要です。アイテムを再利用する方法を優先的に見つけること(できるだけ長く使用し続けることを目的にする)が、リサイクルよりも効率的であり、長期的な影響が大きいです。アイテムが本当に再利用できなくなった場合にのみ、正しいゴミ箱に廃棄するべきです。

もしテイクアウト用のパッケージを提供しなければならない場合、リサイクルを必要としない生分解性の選択肢を探しましょう。素晴らしい例として、Wahacaが作ったコンポスタブルなタコボックスがあります。BiopakとDeliverooと協力し、Wahacaのチームはタコ用の巧妙で認証されたコンポスタブルパッケージを開発しました。このカスタムBioCaneトレイはプラスチックフリーで、サトウキビパルプから作られており、サトウキビ精製産業の副産物です。その結果、コンポスト可能なテイクアウト用パッケージが生まれ、数ヶ月以内に自然に分解するため、庭に埋めることも可能です。

もちろん、リサイクルには重要な役割がありますが、環境への影響を減らすためにはもっと賢く、効果的な方法があることも忘れてはいけません。

 

  1. サステナビリティは自らのカーボンフットプリントだけの問題である。

環境への影響は、サステナビリティを考えるときに最初に思い浮かぶことが多いものです。排出量の削減、再生可能エネルギーへの切り替え、汚染の回避、水の使用の削減、食品廃棄物の削減、プラスチックの使用をなくすためにサプライヤーと協力することなどが含まれます。

しかし、サステナビリティは複雑で、包括的なアプローチが求められます。カーボンフットプリントは重要であり、取り組みの第一歩としては素晴らしいですが、特にF&B業界では、環境指標だけでなく、より多角的な視点が重要です。ホスピタリティ業界におけるサステナビリティは、カーボンの視点を超え、全体的で360度のアプローチを取ることで、より意味のある影響を与えることができます。私たちは、人々を中心に据えた進歩的でレジリエントなビジネスを築き、未来に向かって安全かつ責任を持って進んでいく必要があります。

サステナブルな調達は、サステナブルな食品ビジネスであることを意味する中心的な要素です。調達に使うお金の使い方は重要です。責任ある調達を通じて、シェフはより良い農業や漁業の実践を促進する需要を生み出し、サプライチェーン全体にポジティブな影響を与えることができます。

社会的サステナビリティにも目を向ける必要があります。環境要因に緊急性がある中で、ESGの「S」はしばしば忘れられがちですが、F&Bビジネスがそのネットワーク内の人々をどう扱うかは重要です。顧客からスタッフ、サプライヤー、ステークホルダーまで、ビジネスと関わるすべての人々は、尊重、公平、配慮を受けるに値します。レストランはコミュニティ内で非常に貴重な役割を果たしており、人々が集まる「第三の場所」として機能しています。職場内では、多様性と公平性、ワークライフバランス、いじめや嫌がらせへのゼロトレランス、適正な報酬が、レストランのサステナビリティ目標の一部となるべきです。

 

  1. 最終的には、サステナブルな食の選択は顧客次第である。

サステナビリティを推進する責任を最終的に消費者に負わせたくなることがあるかもしれませんが、研究は一貫して、変革は業界主導で行われなければならないことを示しています。多くの研究は、人々が食べ物を選ぶ際、理性的な反映だけでなく、他の多くの要因、特に食の環境に影響されることを強調しています。それは、何が手に入るか、手頃な価格であるか、アクセスしやすいか、そしてどのようにマーケティングされているかに関わっています。

これにより、ホスピタリティ業界は、私たちのお店内での顧客の食事選択、さらには自宅でどのように食べるかという長期的な選択にまで影響を与える大きな力を持っています。この力には、公共の健康と環境への影響の両方においてポジティブな変化をもたらす責任が伴います。レストランや食品ビジネスは、消費者と生産者を結ぶ交差点に位置しており、世界規模で食のシステムを改善する機会を持っています。

私たちが気候目標を達成するためには、食べ方を変える必要がありますが、それは個人だけに変化を求めても実現しません。ホスピタリティ業界は、食のシステムを修正し、すべての観点で良い食事が誰でも手に入れられるようにする手助けができるのです。

 

  1. サステナビリティは小規模なビジネスでは手に入れられない贅沢である。

レストランは非常に忙しく、圧力鍋のような緊張感のあるビジネス環境で運営されています。そのため、他の課題がより緊急に思える場合、サステナビリティが後回しにされることがあります。しかし、この取り組みには実際に多くのビジネス上の利益があり、その中には現在、ホスピタリティ業界の関係者が直面している最も差し迫った課題に直接的でポジティブな影響を与えるものもあります。

透明性があり、正直で測定可能な方法でこれらの取り組みを行うことは、多くの顧客に安心感を与えます。これにより、ブランドの評判が向上し、より多くの顧客を引き寄せ、長期的なロイヤルティを高められます。これは、従業員にも当てはまります。研究は繰り返し、従業員は人々と地球を大切にする企業で働きたいと考えていることを示しています。サステナビリティへの取り組みを深めることは、採用の容易さや従業員の定着率の向上にもつながり、これはパンデミック以来続く課題です。

サステナビリティには投資が必要ですが、その結果としてコスト削減が実現することもあります。食品廃棄物を減らし、エネルギーや水の使用を適切に管理することは、コスト削減につながります。また、賢いサステナブルなメニュー設計により、料理の利益率も改善される可能性があります。地域産の食材を調達することで、輸送コストを削減し、仲介業者を省くことができるため、より高品質な食材をより安価で手に入れることができます。最後に、長期的には、将来的に強化される環境規制への備えとなります。

  1. 自分が食べるものは生物多様性に影響を与えない。

私たちは皆、食べ物を選ぶことで需要を変え、環境に影響を与える力を持っています。レストランにとって、この影響力はさらに大きいものです。

食の生産の産業化は、世界的な食事に大きな制約を与えてきました。一見、多種多様な食べ物が手に入るように感じられるかもしれませんが、実際には私たちの食生活は狭く、繰り返しがちです。FAOによると、人類はこれまでに約6,000〜7,000の植物種を食べてきましたが、現在私たちが食べているのはそのごく一部で、驚くべきことに全カロリーの50%がわずか3つの植物、すなわち米、小麦、トウモロコシから来ています。

現代の食システムは、非常に脆弱な基盤に支えられています。モノクロッピングのような方法は土壌を劣化させ、自然の生物多様性を大幅に減少させました。偏った種類の作物に依存することは、害虫、病気の発生、そして干ばつや洪水、熱波など急速に変化する気候の影響に対して食料供給を脆弱にします。これは公共の健康にも影響を与えます – 狩猟採集時代の先祖からどれだけ遠く感じても、食の多様性は私たちの健康にとって欠かせません。

主流とは異なる食材を選ぶという単純な行為が、広範囲にわたる影響を与える可能性があります。このような食材は、小規模農業でサステナブルな方法を使用して栽培されることが多く、栄養価や風味が優れていることがしばしばあります。私たちの食システムの産業化により、多くのものが失われてきました。農家がより多様な食材を栽培することを奨励することは、土壌を保護し回復させ、地球上の食べられる生物多様性と文化遺産を守るのに役立ちます。

シェフやレストランは、より多くの食材を使った食事の探求を促進するために、幅広い食材を使った食事の探求を促進することが重要です。たとえば、伝統的な品種や古代穀物、海藻、あまり使われない種類の魚介類、さらには在来の動植物に脅威を与える侵略的な種などです。