2月16日(水)SRA-Jは、FOOD MADE GOODの評価項目にもある「プラントベース」と「食品ロス削減」をテーマに、トップシェフ2名にお話いただき、この日限りのスペシャル・ヴィーガンコースをお楽しみいただく「持続可能な食の未来 “Future Dining Table”」を主催しました。
植物由来の原材料から作られた食事「プラントベース」は、健康的であるだけでなく、動物由来の食材から作られた料理に対して環境負荷が低いことから、今世界的に注目されています。
また、FAOのレポートで、食品ロスと廃棄物を1つの国だと考えた場合、世界で3番目に大きな温室効果ガスの排出源となることが指摘されていることからも、「食品ロス削減」に向けた対策は急務の課題といえます。
この企画では、ミシュランガイド一つ星とグリーンスターを獲得したイノベーティブイタリアンレストラン「FARO」エグゼクティブシェフの能田耕太郎氏と、「ONODERA GROUP」グループエグゼクティブシェフでSRA-Jのプロジェクト・アドバイザー・シェフでもある杉浦仁志氏をパネリストに迎え「持続可能な食の未来」について掘り下げました。
はじめに、包括的な食のサステナビリティ評価を行うSRA-Jから、代表理事の下田屋毅より「プラントベース」と「食品ロス削減」に取り組むレストランを評価している理由についてご紹介しました。
日本人が1日あたりに出している食品ロスの量は約124gといわれ、これは、ごはんの場合お茶碗約一杯分に相当します。世界では、人が消費するために生産された食料の約1/3が捨てられているという現実があります。
こうした地球規模の課題は、私たちの毎日の食の中にあるのです。
杉浦シェフは、水害や人口減少問題を抱える佐賀で地域に根ざしたウェルビーイングメニューの開発や、秋田のフードラボでのデンマークと連携した発酵の研究など、各土地において、先人の知恵を未来へ伝えるべく、古来からの食の歴史とテクノロジーを合わせ、未来に繋がる人と地球に優しい循環型のレシピを創っています。
しかし、現実としてシェフ同士の会話では、日々の営業に関わることや「どうやったらミシュランの星を取ることができるか」という話題が多くなりがちです。それに対して、能田シェフ、杉浦シェフともに、企業のレストランのエグゼクティブシェフとして「どう社会に貢献することができるか」という視点で活動をしています。
実は能田シェフも、イタリアを拠点にしていた頃は他のシェフたちと同じように考えていたそうです。しかし、日本に帰国した際に「料理人として何を社会に返していけるか」と考えるようになりました。そんな時に、出会ったのが杉浦シェフでした。
普段からヴィーガンやフードロスをテーマに、一皿ごとに思いを込めた料理を提供している「FARO」とはいえ、レストランでそのことについてメインで話すことはありません。ここでは、そうした料理の裏にある「メッセージ」を深く掘り下げていきました。
Q:日本における「プラントベース」や「食品ロス削減」の現状について
杉浦シェフ:一人ひとりが意識できるような社会環境ができればいいですよね。日本でも豆や野菜をまるごと使ったZENBという商品ができたように、今まで捨てられた部分を、人のアイデアやシェフの手で価値に変えていくフェーズに入りかけていると感じています。海外の特徴でいうと、特に若年層の意識が高いです。今日はそうした動向に関心がある皆さんと、食事を通じて、身近なところから意識を変えていく機会にしたいと思います。
能田シェフ:東京のガストロノミーレストランやファインダイニングといわれるようなところでは、ほぼ皆さん同じ食材を使っています。日本の中でトップクラスといわれる食材は、需要に対して供給が間に合っていないのが現状です。僕自身も東京に戻ってきた際に、正直そういう食材が欲しいなと思いましたが、分けてもらえない。じゃあどうしたらいいのかと考えた時に、今までの経験を生かして、自分が本当に美味しいと思う食材を新たに開拓しました。
世間一般で言う「いいもの」を提供するのではなく、自分たちで価値を創り「こういう食材を食べてください」と伝えているのが今の「FARO」のあり方です。全ての食材に原価がかかっていますが、捨てた部分はお客様から還元されない。だったらそれを使うことで採算を取る方が良い。競争率が激しく値段が上がったものを買うのではなく、たとえ世間ではB級品であっても、僕たちがA級品だと思うなら、A級品の値段を出して食材を買う。それが生産者を支えるレストラン側からできる方法だと考えています。
杉浦シェフ:能田シェフが素晴らしいのは、「高級レストラン=全て高級な食材を使う」のではなく、端材もアイデアで価値に変えていくことができることです。例えばマグロのトロは、昔は廃棄されていた食材だったけれども、今は他の部位よりも高い値段で販売されています。これからの料理人はそういう「価値を創り出すクリエイター」のような役割を担っていくのではないでしょうか。能田シェフはそのパイオニア的存在だと思っています。
Q. A5ランクの牛肉が極端に評価される社会システムについて
能田シェフ:レストランはお客様ありきなのですが、ヨーロッパではお客様を育てる循環があります。一方で日本ではクレームをベースにした関係性ですよね。「FARO」にも牛肉を食べたいというお客様はたくさんいらっしゃるけれども、牛肉を食べて満足するなら「FARO」でなくても良いと思います。需要の関係で牛肉はいろんなランクのものが流通していますが、家畜の多くは社会に対して優しくないやり方で生産されています。だったら無理して家畜を食べる必要はなくて、野生の動物を食べればいい。
日本では害獣と言われる猪や鹿も、きちんと料理してあげれば、A5ランクの牛肉にも負けないお肉なんです。それを僕たち料理人がしていかないといけない。日本は一般的に牛肉を食べはじめて100年ちょっとしか経っていないにも関わらず、今では牛肉がないと生きていけないという状況に陥っているということ自体、社会が混乱してるのだと思います。魚においては鯛が同じ状況です。養殖して、美味しくない、体にも良くないものも多く出回っています。「FARO」ではそうした魚ではなく、未利用魚と呼ばれる漁港にあがっても行き先がない魚を使っています。牛肉や鯛を使うことを否定はしませんが、他の食材も誰かが使わないとごみになってしまうので、それをお客様が支えるシステムにならないと日本の飲食業界の未来はないのかなと思います。
杉浦シェフ:一方でポジティブなところでは、メディアにおいても社会的な発信が増えています。数字のノルマがあるなかでも「自分に少しできることは何か」という意識の高い人たちが取り上げてくださることで、いいムーブメントが起こっていくことを予感していますね。
Q. 日本のポテンシャルについて
能田シェフ:日本は四季が豊かで、食材も世界にも類に見ないほどバリエーションがある国なので、そのポテンシャルを引き出すことはシェフとしてとても魅力的です。日本、特に東京は世界有数の観光都市になりつつあるので、食材だけにとどまらず伝統文化や伝統技術を伝えていきたいと考えています。
杉浦シェフ:私は今後日本で、料理人の働き方や価値が変わってくることに期待しています。私の考え方では、料理ではなく真ん中に「食」を置いています。なぜかというと、皆さんの日常生活や、それに付随して間接的に関わる人たちがたくさんいるからです。レストランを取り巻く社会問題として長時間労働の問題がありますが、テクノロジーを組み合わせることによって、働き方が最適化されたり、苦労する作業に機械をあてがったりすることもできるようになります。食品ロスに限らず、料理人がハブとなって、いろんな課題における「最適化」をしていけることを楽しみにしています。
Q. スペシャル・ヴィーガンコースの構成について
*能田シェフによるメイン「れんこんのロースト 野菜のめぐみ」
能田シェフ:僕は最初のアミューズの2品と、出汁を担当していて、そのほとんどが野菜くずから作られたものです。次に杉浦シェフによる前菜2品の後に、ZENBという黄えんどう豆のみを100%使ったパスタを使ってパスタ・エ・ファジョーリというイタリアの伝統料理のオマージュしたお皿を楽しんでいただきます。ヴィーガン料理なので、プロテインの大切さを考えて豆づくしにしています。メインはレンコンを使ったお皿で、下にサステナビリティソースを敷き、周りにパウダーでデコレーションしています。どちらも野菜の余った部分で作られたものです。デザートはパティシエの加藤より、レストランで余りがちな「パン」をテーマにしたお皿をご用意しました。
*加藤シェフによるデザート「毎日のパン」
杉浦シェフ:私は能田さんの料理を毎回見させていただいているので、その間をつなぐような料理をご提供させていただきました。
*杉浦シェフによるメイン「マッシュルームガーデン」
常日頃から2人で色んな話をしていて、気になる人がたくさんいた中で、今回は株式会社フードロスバンクにご協力いただきました。社会的にも問題になっている日本米や買い手がなくて困っている野菜をご提供いただき、今回のコースに盛り込んでいます。
Q. 料理をするうえでのセオリーについて
杉浦シェフ:私はフードペアリングという考え方をもとに料理をしていています。まず食材に対してどのような食べ合わせがあるかというのを隙間なく書き出していきます。例えば白いご飯に対して漬物、魚というふうに。その中で何と何が繋がっているかというのを、自分の中で3つくらいピックアップして一つの皿を作ることが多いです。米国の場合は様々な国や宗教の人たちがいて、ヴィーガン、ハラール、コーシャの対応が求められる中で、定義的なものから要素を合わせることでオリジナルの料理を作るということを海外で学びました。
能田シェフ:僕もイタリアで培ってきたものが今の自分に繋がっています。イタリア料理は家庭料理の派生で、基本的には食べ物を捨てないんです。ところが今イタリアの高級レストランに行くと当たり前に食べ物を捨てていて、家庭でしないことを職場でするという矛盾が生まれています。だからこそ、自分を育ててくれた恩返しに、イタリア料理の本来のフィロソフィーを伝えていきたいです。それに加えて、父親として未来を意識するようになったので、持続可能な社会をレストランから作るというのがテーマです。
(この企画は、地球環境基金の助成金を受けて開催しております)
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