【命をつなぐ一口をつくる】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【命をつなぐ一口をつくる】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 ファイナリスト
上田愛奈 うえだ あいな(ザ・キャピトルホテル 東急)

山口県出身。福岡県 中村調理製菓専門学校に入学し、製菓衛生師科習得後、本命の調理師1年コースに転科し卒業。卒業を機に東京へ上京。

 上田愛奈さんは現在、ザ・キャピトルホテル 東急のメインキッチンでビュッフェや西洋料理のコース料理、婚礼料理など宴会料理を中心に担当している。

未来のレシピコンテストでは、ジビエの鹿肉を使った一口料理「深煎りの森 − 鹿の食卓と人が醸す恵み」を考案した。駆除された鹿の命を無駄にせず、食を通じて循環を生み出すこと。その思いを小さな一皿に込めた挑戦だった。

まだ入社1年目で大きな役割を任される段階ではないが、料理を食べるお客様の姿を想像しながら、日々の仕事に向き合っているという。

出身は山口県。中村調理製菓専門学校で2年間学び、卒業後に現在のホテルへ入社した。実家の周囲に洋食店が多く、さまざまなレストランで食事をする中で料理人という仕事に興味を持つようになった。
将来は技術を磨くだけでなく、後輩や周囲の人にも目を配れる「みんなに愛される料理人」になることを目標にしている。

■ レシピ制作の背景

 今回のコンテストで上田さんが考案した料理は「深煎りの森 − 鹿の食卓と人が醸す恵み」。

幼い頃から鹿を身近に見て育った上田さんにとって、鹿は親しみのある存在だった。しかし成長する中で、農作物被害などの理由から多くの鹿が駆除され、その一部が食べられることなく廃棄されてしまう現実を知ったという。

「命を無駄にせず、循環を大切にする食の在り方を提案したい」

その思いから、駆除された鹿肉を主役に据えた料理を考えた。鹿肉以外の食材には植物性食材や有機野菜を使用し、ベターミートとプラントベースの考え方を組み合わせた一皿に仕上げている。 

 

■ サステナビリティとの関わり

コンテストに応募するまで、上田さんは「プラントベース」や「ベターミート」という言葉をほとんど知らなかったという。

社内に貼られていたポスターをきっかけにコンテストの存在を知り、テーマについて調べるうちに興味が広がっていった。食材の育て方や環境への影響などを調べる中で、料理と環境の関係を意識するようになった。


特に印象に残っているのは、コンテスト前のプラントベース・ベターミートマスタープログラムのセミナーで聞いた言葉だった。

「なぜジビエはベターミートにはいるのか」という質問に対して講師が答えた「どうしても殺さなければならない命があるなら、その命をどうやって無駄にせず、最後まで届けるか」という言葉が、今回のレシピの大きなテーマになったという。

 

■ レシピ制作でぶつかった壁

料理人として働き始めてまだ半年ほどのタイミングでの挑戦だったため、「料理人として参加することへのプレッシャー」を強く感じていたという。


頭の中で思い描いた料理を本当に形にできるのか。そんな不安を抱えながらも、シェフや先輩に相談しながらレシピを作り上げていった。


先輩たちは答えを直接教えるのではなく、考えるためのヒントを与えてくれた。上田さんはそのヒントをもとに自分で調べ、試行錯誤を重ねていったという。


調理面で最も難しかったのは、鹿肉の火入れだった。今回は炭火のみを使ったローストを選び、温度計ではなく手で触れた感覚で火入れを判断した。自然の炭火を使うことで、調理方法自体もサステナブルな選択にしたいと考えた。

■ コンテストを通じて得た学び

このコンテストを通して、料理への向き合い方が大きく変わったという。
食材を調理する前に、それがどこから来たのかを自然と確認するようになった。また、野菜の皮などの食材ロスを減らす工夫も意識するようになった。


「料理は技術だけではなく、命の責任を形にする仕事だと感じました」


職場でも変化があった。コンテストをきっかけに先輩や上司と料理について話す機会が増え、技術や工夫を教わる場面も多くなったという。

■ 今後の展望

料理人としてはまだスタートラインに立ったばかりだが、まずは日々の現場で経験を積みながら技術を磨いていきたいと考えている。

その中で、料理を通して人に喜んでもらうこと、そして食材や命への敬意を忘れない料理人でありたいと語る。

将来的には、後輩にも目を配りながらチームで料理を作れる、周囲から信頼される料理人になることを目標にしている。

■ 「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

 上田さんは、このコンテストを「参加するメリットしかない経験だった」と振り返る。

料理人としてまだ経験が浅い人でも、知識を調べ、料理を考え、伝える過程を通して大きく成長できるという。

応募時には200文字の説明文を記載しなければならず、短い言葉で料理の意図を伝えることが難しかったというが、料理を通してメッセージを伝える方法を学ぶ良い機会になったという。

「何度でも挑戦したいと思えるコンテストでした」

そう語る上田さんにとって、この経験は料理人としての新しい一歩になった。

【島の恵みを一皿に重ねる】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【島の恵みを一皿に重ねる】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 ファイナリスト
橋本夏帆 はしもとなつほ (Entoダイニング)

鳥取県出身。食材や市場が好きで、料理を学びたいという思いから島根県海士町へ。料理学校「島食の寺子屋」で地域の食材や食文化に触れながら和食を学ぶ。生産者の方々が届けてくれる食材や季節の恵みを大切にしながら、現在は隠岐・海士町の宿泊施設ENTŌダイニングで料理に携わっている。

 橋本夏帆さんは、隠岐諸島・海士町の宿泊施設 Ento(エント) のダイニングで料理を担当している。現在は主に朝食を担当し、日々の調理に加え、季節の食材に合わせたメニューのアレンジや食材の選定などにも関わっている。

料理の軸にしているのは、海士町の「地のもの」を使うことだ。野菜は自ら畑を訪れて仕入れ、魚も可能な限り現場で確認する。生産者の顔を見て食材を選ぶことを大切にしながら、島の自然と暮らしを料理で表現している。

出身は鳥取県。もともと旅行関係で働いていたが、料理への興味もあり転身、コロナ禍明けのタイミングで海士町の料理学校「寺子屋」に入塾し、その後Entoに就職。現在も島に暮らしながら、食に関わる仕事を続けている。

サステナビリティとの関わり

橋本さんにとってサステナビリティは、もともと強く意識していたテーマではなかった。しかし海士町で料理を続ける中で、地域の課題や食材の背景に自然と目が向くようになったという。

以前のコンテストテーマがシーフードだった際には、海士町周辺の海で起きている「磯焼け」の問題を知るきっかけになった。今回の肉のテーマでは、Entoの夕食で使用する隠岐牛の切り落としや脂身の活用について考えるようになった。

現在Entoでは若いスタッフが主体となり、現場で食材を見つけ、料理を作っている。橋本さん自身も、そうした環境の中で自然と食材の背景を考えるようになっていったという。 

 

■ レシピ制作でぶつかった壁

今回橋本さんが考案したレシピは「隠岐牛と海士の恵みのミルフィーユ」。

島の恵みを無駄なく生かしたいという思いから生まれた一皿だ。隠岐牛の端材に、地元の野菜や摘果みかん、完熟赤山椒などを重ね、秋の海士町を感じるミルフィーユに仕立てた。

レシピ作りでは、まず食材選びから始めた。隠岐牛を軸に、その脂身を食べやすくする柑橘やスパイスを組み合わせ、全体の構成を整えていったという。

同時に「プラントベース」や「ベターミート」といったコンテストのテーマを改めて調べ、隠岐牛が放牧で育てられている背景なども確認しながら、自分の料理がテーマにどう関わるのかを考えていった。

新しく食材を買うのではなく、現場で余っているものや、捨てられがちな部分をどう生かすか。橋本さんにとってレシピ制作は、日々の現場で感じていることを一皿に整理する作業でもあった。

 

コンテストを通じて得た学び

今回の挑戦は、前年の参加とは大きく違っていた。

2024年の未来のレシピコンテストの際は、盛り付けや撮影を寺子屋の先生に手伝ってもらったが、今回はレシピ制作から撮影まですべて一人で完結させた。普段の朝食業務では効率を重視するが、コンテストでは自分が作りたい料理に集中して取り組むことができた。

「食材とじっくり向き合う時間が持てたことが楽しかった」

と橋本さんは振り返る。

また、ファイナリストに選ばれたことで地域の方から声をかけられることも。料理が写真やレシピとして可視化されたことで、「こういう料理を作る人なんだ」と周囲に伝わりやすくなり、それが新しい仕事の機会にもつながったという。

■ 今後の展望

海士町での生活も3年目を迎え、生産者や地域の人たちとのつながりはより深くなった。

今後はその関係性を生かしながら、島の食材や文化を料理として届けていきたいと考えている。町内に新しくできる飲食店などで、現場に立ちながらレシピ開発や料理づくりを支える仕事にも関わっていきたいという。

海士町の食材と人のつながりを、料理を通して伝えていくこと。それが橋本さんのこれからのテーマだ。

「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

橋本さんは、このコンテストを「自分を客観的に見つめる機会」だったと語る。

忙しい日常の中で、食材や料理にじっくり向き合う時間は意外と少ない。外部の料理人に評価してもらう経験もまた、普段の仕事ではなかなか得られないものだ。

「自分の料理を見直すきっかけとして、参加する価値はあると思います」

料理を始めたタイミングが違っても、真剣に取り組む人が挑戦できる場であってほしい。そんな思いも、このコンテストに参加したからこそ見えてきたものだった。

島根県・隠岐諸島の海士町で育つ隠岐牛と、島の海や大地の恵みを重ね合わせた一皿。放牧で育てられる隠岐牛の旨味に、海士町で採れる海藻や野菜などの食材を重ね、ミルフィーユ仕立てにした。島の自然環境と生産者の営みに目を向け、地域の食材を組み合わせることで、海と大地が育む食の循環と豊かさを表現している。

【「食で人をつなぐ」その起点としての一皿】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

【「食で人をつなぐ」その起点としての一皿】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜

未来のレシピコンテスト2025 ファイナリスト
片桐理乃 かたぎりりの(名古屋調理師学校2025年3月卒業)

2006年愛知県一宮市生まれ。地域と食・農のつながりに関心を持ち、地域みらい留学制度を利用して徳島県立城西高等学校神山校の食農プロデュースコースに進学。地産地消や農業に関わる学びを通して、食材が育ち料理として届くまでの過程を学ぶ。2024年よりDEAN&DELUCAでの勤務を経験し、料理の視野を広げるため2025年4月に名古屋調理師専門学校へ入学。2026年4月より名古屋調理師専門学校の教職員として勤務。

片桐理乃さんは1年間、調理師専門学校のテクニカル調理コースで、日本料理・西洋料理・中国料理・製菓を横断的に学び、現在は同校の教職員として勤務している。

食をツールに、人と人がつながる場をつくりたいと話す彼女。その原点は、小学校6年生のときに母と一緒に手作りしたおせち料理だった。

それまでおせちは「買うもの」で、どこか苦手意識もあったが、手作りして初めて味わったおいしさに心を動かされ、「料理ってこんなに楽しいんだ」と感じたことが、食への関心の出発点になったという。

地元・愛知県を離れ、高校は地域みらい留学を通して、徳島県神山町で地域創生を掲げる学校の農業コースに進学。小麦栽培や耕作放棄地の開墾、野菜づくりに取り組んだ。寮で三食自炊をしながら暮らす中で、食が生活と深く結びついていることを体感した。

神山町では「かま屋」という食堂でアルバイトも経験した。農家から食材リストを受け取り、旬のものを中心にメニューを組み立てる仕組みや、町内循環を意識した運営を間近で見てきた。ここで、食材を無駄にしないこと、旬を大切にすること、顔の見える生産者から買うことを、体験を通して学んできた。

それでも、スーパーには一年中同じ食材が並ぶ現実の中で、「意識したい人」と「関心が薄い人」との間にある壁も感じていた。サステナブルな食の輪を広げることの難しさを、生活の中で実感していたという。

 

■ 未来のレシピができあがるまで

未来のレシピコンテストを知ったのは、学校の先生からの紹介だった。「プラントベース」「ベターミート」という言葉は神山町で耳にしていたものの、体験的に学んだことはなかった。調理師学校に通っている今だからこそ挑戦できるテーマだと感じ、応募を決めた。

レシピづくりは、まず「神山町にスポットを当てること」から始まった。

「今回レシピで伝えたかったことは、人と人がつながることの主軸に、食があったらいいということです。そういう思いに気づかせてくれたのが神山町だったので、神山町の食材を使いたいと思いました」

目指したのは、調味を重ねるおいしさではなく、できるだけシンプルに素材の良さを引き出す一皿だった。

「自分の中にある料理の楽しさって、調味料をたくさん使う美味しさももちろんあるけれど、塩だけなど、できるだけシンプルな調理法で、その食材の良さを引き立たせる美味しさを知ってもらうことだと思っていて。そういう美味しさを届けたいなと思いました」

つながりのある農家に旬の食材を聞き、「かま屋」での調理経験を思い出しながら、素材と調理法を組み合わせていった。塩を先に振って火入れを短くするなど、火力や調理時間を意識した工夫は、先生からの助言が大きかったという。 

 

■ レシピ制作でぶつかった壁ーー言葉にすること

 最も難しかったのは、「一皿を言葉で表現すること」だった。

「表記の仕方ひとつひとつに悩みました。こういう風に書いたらいいのかな、とか。自分の中では見えている工程や思いがあるけれど、それを他の人がパッと見て分かるように伝えることの難しさをすごく感じました」

その中で学校の先生は夜遅くまで試作に付き合い、知識を共有し、選択の後押しをしてくれた。提出文を書く際にかけられた、「小難しく理由を重ねなくていい。料理と同じで、シンプルに書けば伝わる」という言葉は、強く心に残っているという。

 

コンテストを通じて得た学び

 コンテストを通して片桐さんが感じたのは、「一皿の重さ」だった。

「受け取る側からしたら、ただの“一皿”かもしれないのですが、自分が作る側になると、そこにはいろんなストーリーがあったり、一皿が完成するまでのプロセスが本当に大きくて。そういう背景を含めた“重さ”や“壮大さ”みたいなものを感じました」

日常の調理でも、味付けだけでなく、火をかける時間そのものを意識するようになった。時短や効率が環境配慮にもつながることを知り、家庭でも調理時間を見直すようになったという。

■ 今後の展望

 コンテストの後、新たな可能性が生まれている。神山で狩猟免許を持つ後輩とレシピを掛け合わせたコラボイベントのアイデアが生まれたほか、高校でも卒業生が振る舞うランチ企画の話が広がった。

「食を通じて人をつなぐ」という自身の目標が、少しずつ形になり始めていると感じている。

 

「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ

 「参加前は正直あまり自信がなくて、『レシピなんてできるのかな』って思っていました。でも、先生のサポートがあったり、一緒に参加した仲間の支えがあったりして、最終的に提出するところまでたどり着くことができました」

「どんなコンテストにも出たことがなかった自分が、好きな料理で自信を持てた時間でした」

ファイナリストに選ばれたかどうかに関わらず、コンテスト期間そのものが成長の時間だったと振り返る。

「自信がなくても、誰かにサポートしてもらいながら取り組む中で、自分の中にある思いや、『これを大切にしたいんだな』という気持ちに改めて気づくきっかけになると思います。もし参加を悩んでいる人がいたら、ぜひ挑戦してみてほしいです」

「食べることは共に生きること」という考えのもと、狩猟された鹿肉と神山の豊かな自然で育った有機野菜を組み合わせた。旬や規格に縛られず、負荷をかけずに育った食材の美味しさを通して、生産者と消費者をつなぐ一皿を目指している。