
Sustainable Brands OPEN SEMINAR レポート 「Nature Positive(ネイチャー・ポジティブ)で築く持続可能な未来:自然と調和する農業の可能性」

2025年3月18日、19日の2日間、東京・丸の内で開催された、持続可能な社会の実現に向けてサステナビリティのリーダーが集うアジア最大級のコミュニティイベント、サステナブル・ブランド国際会議2025。日本サステイナブル・レストラン協会は、フードサステナビリティパートナーとして、同イベントで提供される食事のサステナビリティの監修を行うとともに、サステナビリティに配慮された食事のとり方を体験する「FOOD MADE GOODダイニング」キャンペーンの企画と、運営協力を行いました。
そして、同イベントに合わせて行われた、Sustainable Brands OPEN SEMINAR(オープンセミナー)の中で、食に関する2つのセッションを企画。料理人や食関連メディアの編集者、農家などのみなさんと登壇しました。
初日は、「自然と調和する農業、ネイチャー、ポジティブで築く持続可能な未来」をテーマにセミナーが開催されました。
ファシリテーターを務めた同協会代表理事の下田屋氏は冒頭で、生物多様性の損失を食い止め、回復傾向に向かわせる必要性を強調し、本セミナーがそのための解決策を探る場となることを示唆しました。3名のパネリスト、料理通信編集長の曽根清子氏、東京練馬区のレストラン「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」オーナーシェフの岩澤正和氏、一般社団法人シゼンタイ全国循環型社会協議会代表理事の佐伯康人氏を迎え、それぞれの立場から自然と調和する農業への取り組みや、食の現状や未来への展望について活発な議論が交わされました。

食のつながりを紡ぐメディアの使命
料理通信の曽根清子氏は、料理通信が2006年の創刊以来、「生産者、料理人、食べる人を結ぶ」ことをミッションとしてきたと紹介しました。料理通信は、食べるという行為を365日実践するアクションと捉え、「地球にも人にもより良い食べ方」を探求する「Eating with Creativity(イーティングウィズクリエイティビティ)」というテーマを掲げ、食の世界で新しい価値観を生み出す人やムーブメントをフィーチャーしてきました。
特に、「生産者や料理人の価値観を掘り下げることで、読者が自ら食を選択できるような情報発信を重視している」と語ります。また、茨城県との6年間続く取り組みとして、都内のシェフを生産地に連れて行き、食材との出会いを創出し、その食材を使った料理をフェアとして展開する場づくり活動を紹介しました。
生物多様性の重要性については、千葉県木更津市にあるクルックフィールズとのミツバチ目線で森を巡るツアーを通じて、生態系の相互依存性と人間にとっての不可欠性を体験する企画も実施したり、近年注目されるリジェネラティブ農業についても、パタゴニアの事例や、西麻布にあるフレンチレストラン「レフェルヴェソンス」のインパクトレポートなど、日本におけるサステナビリティのリーダー的な取り組みを記事でも取り上げ、食を通じた地球課題解決への可能性を示唆しました。
曽根氏は食を取り巻く社会を客観的に捉えて発信し続ける食の編集者としての視点から、在来種への注目の高まりや、国産小麦の進化にも触れ、食の多様性と持続可能性への関心の高まりを伝えました。また、ネイチャーポジティブの活動を通じて、「消費者の選択が農家の行動を左右する」と強調し、メディアとしてこうした視点を消費者に発信し続ける必要性を感じさせてくれました。

人も地域も元気になるレストランづくり
PIZZERIA GTALIA DA FILIPPOの岩澤正和氏は、「愛媛県の限界集落にある田んぼでの農業体験を通じて、農家の課題を理解し、食材を通して物語を皿の上に表現することで、新たな料理感覚が生まれた」といいます。
特に、人材育成の観点からスタッフ全員を農場に連れて行くことが大切で、自社の成功事例を共有しました。「一緒に従業員を農場に連れていき、食の大切さを学び、従業員の意識を高めるような心を育てることにより、料理の価値を高めることにつながり、結果的にレストランの売上が向上したんです」と、岩澤氏は語ります。
PIZZERIA GTALIA DA FILIPPOは、今後、環境保護と災害への備えを両立するレストラン経営を目指しているといいます。自然の熱源である薪の使用や、国産小麦、里山で採れたよもぎなどの地元食材の活用した実績も数多くあります。地域の農家とのパートナーシップの重要性を強調し、遺伝子組み換え作物を作らない農家との連携や、能登の被災した農家から農作物の全量買い取り支援などの具体的な活動も紹介。そして消費者の理解が農家を支え、未来の農業を決定すると訴えました。
また、今年の春、一般社団法人ロングテーブルジャパンを立ち上げた岩澤氏。3月には実際に、練馬区の学校でロングテーブルのイベントを実施しました。イベントを通じて、食事が社会を豊かにする“対話”を生む場となる可能性を語り、未来を変える食体験を提供する場としてのレストランの役割を再考する必要性を提唱しました。日本の豊かな自然と食文化を活かし、世界の手本となることを目指し、レストランの語源である「回復させる、元気づける」という言葉に立ち返り、食を通じてより良い社会を創造していくと力強く語りました。

誰もが農業に参加できる環境づくり
シゼンタイの佐伯康人氏は、自分自身のお子さんが障害を持って生まれたことをきっかけに、障害者が働く場があまりにも限られていることに疑問を感じ、障害を持つ子供たちのために農業の道へと進みました。農業未経験ながら無農薬・有機農業を開始するも、虫害に悩まされた失敗談も赤裸々に明かします。
福岡正信氏著作の「わら一本の革命」に出会い、「何もしない」農法に触発され挑戦するも幾度とない失敗を経験しましたが、師である木村秋則氏との出会いをきっかけに自然栽培の可能性を確信し、実践を重ねてきたと言います。
そして、その後肥料や農薬を使わない農法で稲が力強く成長する様子や、田んぼの裏作での無肥料栽培の成功事例を紹介し、自然農法の驚くべき可能性を伝えました。全国の福祉施設と共に耕作放棄地を再生する「農福連携自然栽培パーティー」を設立し、自然栽培が環境回復や精神疾患の改善にも繋がる事例を紹介。そしてコロナ禍で食の危機を感じた佐伯氏は、『シゼンタイ』という団体を設立し、「今は障害者だけではなく誰もが農業に参加できる環境づくりを目指しています」と語りました。
若者や企業が自然栽培に関心を寄せ始めている現状を紹介し、自然栽培の高い収益性や種の自給自足の可能性を示唆。日本の食料自給率向上への貢献や、自然栽培を通じた日本再生への熱い想いを語り、自然と調和した持続可能な社会の実現に向けて力強くメッセージを送りました。

暮らしに根づくネイチャー・ポジティブ
セミナー全体を通して、ネイチャーポジティブという概念は、単なる環境保護の取り組みではなく、私たちの食生活、経済活動、そして社会全体に関わる重要なテーマであることが浮き彫りになりました。今までの農薬や化学肥料を使用してきた慣行農法による環境への負荷を認識し、生物多様性の回復を目指すためには、生産者だけでなく、料理人、そして消費者の意識改革と行動が不可欠です。
自然栽培をはじめとする自然と調和した農業の実践例は、持続可能な食料生産の可能性を示唆し、地域社会の活性化や新たなビジネスモデルの創出にも繋がります。参加者一人ひとりが「何を食べるか」という選択を通じて、より良い未来を築いていくことの重要性を再認識する時間となりました。
Sustainable Brands
OPEN SEMINAR
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Session 3 食と循環
※本セミナーは[Sustainable Brands OPEN SEMINAR & EXHIBITION]の内の1つのプログラムです。
[Sustainable Brands OPEN SEMINAR & EXHIBITION]の詳細はこちら
https://www.sb-os-ex2025.com/

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