【インタビュー】あか牛を提供することで、阿蘇の草原の生態系と、この地で暮らす人の営みを未来へつなぐ ーアンティカ・ロカンダ・ミヤモト

【インタビュー】あか牛を提供することで、阿蘇の草原の生態系と、この地で暮らす人の営みを未来へつなぐ ーアンティカ・ロカンダ・ミヤモト

日本サステイナブル・レストラン協会は、日本の加盟店のすぐれた取り組みを、英国のThe Sustainable Restaurant Association (The SRA) と連携し、The SRAのウエブサイトやソーシャルメディアを通じて、業界のみなさまに共有しています。

2026年9月のテーマは、More Plants, Better Meat (より多くの野菜とベターミートの使用)について、SRAジャパン加盟店、アンティカ・ロカンダ・ミヤモト(熊本県熊本市)の、宮本シェフに話を伺いました。取材の全文を日本語で紹介します。

熊本市に店を構えるアンティカ・ロカンダ・ミヤモトの宮本けんしんシェフ。

宮本シェフが生産者とともに育てた牛肉を、薪火や炭を使って焼きあげるステーキを求めて全国からゲストが訪れる。

宮本シェフは、自身が考えるサステナビリティの意味についてこう語る。

私たちが取り組んでいるのは、食を通じて阿蘇の草原と人の営みを守り、次の世代につなげていくことです。

日本最大の草原、阿蘇で放牧される「あか牛」

阿蘇は、約22,000ヘクタールの面積を誇る日本一の広さを持つ大草原で、世界農業遺産や国立公園にも認定されています。野焼きや放牧、採草といった1,000年以上続く人間の営みによって、森林化が防がれ、雄大な草原の景観と独自の生態系が守られてきました。

野焼きは、毎年2-4月に行われ、5月に新しい草が芽吹きます。草原は、地上部全体で光合成が行われ、水は地下に浸透して貯水されます。

阿蘇には、500を超える種類の草が生えると言われており、牛が繁殖力の強い草を食べることによって、絶滅危惧種の草が復活する。牛がいることで生態系が保たれているのです。

また、野焼きをすることで環境が再生される効果もあります。 

また、一般的に、牛肉1kgを生産するためには、約15,000リットルの水が必要で、水資源の枯渇が問題視されます。ところが、阿蘇は、草原があることで貯水効果が高まり、九州を代表する多くの一級河川の水源になっています。「九州の水がめ」といわれているほどで、隣県の宮崎、大分の農業をも支えているといわれています。アンティカ・ロカンダ・ミヤモトが使う牛肉は、この阿蘇で放牧されているあか牛。

宮本シェフが使用するあか牛は、いまでは手がける人も少なくなった放牧で、阿蘇に自生する野草を飼料に育ちます。牧草ではなく、野草を使うのが阿蘇の伝統。

草原は、守るだけでは減っていく。 野草という自然資源を生かすこと。料理人があか牛をおいしく料理することで食べる人が増えると、さらに規模を拡大して放牧ができ、草原が活かすことができる。ボランティアや補助金などで草原を保全するということではない。おいしい牛を放牧で育てることで、一般の消費者にこの草原のしくみを伝えていく。

日本では、独自に配合した飼料を与え人の手で作り上げた、「サシ」の多い肉が、柔らかく美味しいと評価され、高値がつく。草だけを食べる放牧牛をおいしく提供するために、宮本さんは、大学や生産者と共同で放牧の方法や、補助的な飼料の与え方、独自の熟成方法などを研究しています。肉の味を高め、おいしく食べてもらうことで、放牧のあか牛の需要が途切れないようにするための努力です。

肉を食べることで草原と有明海の生態系が守られている

昔の人は環境のためではなく、田畑を耕す「暮らし」のために牛を飼い、その結果として阿蘇の美しい草原が維持されてきました。しかし、農業が機械化され、牛が農耕に使われなくなった現在では、食べるための牛を放牧し、その肉を料理人が美味しく料理することが必要です

また草原は、放牧牛がそのまま食べるだけでなく、干し草に加工したり、バイオマスの資源になったり、堆肥にしたり、今では少なくなった茅葺き屋根の茅として、伝統の建築を守るなど、多くの用途に活用されています。また、阿蘇に降った大量の雨は、火山灰や溶岩の地層でゆっくりとろ過され、カルシウムやマグネシウム、シリカなどの豊富なミネラルを含んだ湧水や地下水となります。その肥沃な水が白川や筑後川などの1級河川を通じて有明海に流れ込み、植物プランクトンや海苔の生育に欠かせない栄養をもたらしています。 

雄大な草原の自然・命の循環をコースに込めて

宮本シェフのコース料理に表現されるのは、阿蘇の千年の伝統である「野焼き」や、雄大な草原から海への命の循環を表現したストーリー。前菜からメインまで、その季節に熊本で旬を迎える野菜や食材が随所に登場します。

またコースには、宮本シェフ自身の記憶も重なります。子どもの頃に食べた祖母の手料理。有明海で放課後に友達と採りに行った貝や魚。故郷の風景。それらが確実に失われつつある風景にも心を痛め、積極的に伝統漁法の漁師さんから買い付けを行い、お皿で表現し、ゲストに訴えます。

地域の自然や伝統という大きな物語と、ひとりの料理人のパーソナルな記憶、その両方がコースのなかに織り込まれ、ただおいしく食べるだけではない、アンティカ・ロカンダ・ミヤモトならではの特別な体験をゲストに提供しています。

ベターミートを選ぶには

サステナビリティを考える時、牛肉はどうしても環境面での負荷が問題になり、使うことがためらわれます。そこでベタミートである放牧牛を調達しようとしても、その流通量は少なく、調達は簡単ではありません。ベターミートの選び方について、肉の専門家である宮本シェフはこう答えます。

 流通量の95%を占める和牛の中には、放牧牛ではありませんが、生産者が家族のように愛情を込めて大切に育てており、アニマルウェルフェアに配慮された、より良く育てられた牛を見つけることができます。またJGAP認証を取得している生産者もいます。このような生産者や認証の肉を使うことも一つの選択肢といえると思います

FOOD MADE GOOD Japan Awards2024 BEST調達賞受賞

アンティカ・ロカンダ・ミヤモトは、2024年に日本サステナブル・レストラン協会に加盟しました。しかし宮本氏は、それまで自分たちの活動を特別にサステナビリティを意識してきたわけではなかったといいます。

私たちは、何か特別にサステナビリティに取り組んできたという感覚ではありませんでした。地元で、昔ながらの方法で誠実に食材を育てている人たちから仕入れる。そういう当たり前のことを続けてきただけなのです

その取り組みをFOOD MADE GOODスタンダードによって客観的に見直した結果、最高評価となる3つ星を獲得。さらに「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2024」では、「BEST調達賞」を受賞しました。

メディアやお客様から好意的な反応をいただきました。でも、何よりうれしかったのは、私たちの仲間である生産者の皆さんが受賞を誇りに思い、一緒に喜んでくれたことです

すでに取り組んでいる店にこそ、FOOD MADE GOODスタンダードを

すでにサステナビリティに関する取り組みを行っているレストランは、すぐにでもスタンダードを始めることをお勧めすると、シェフはアドバイスする。

 自分たちの取り組みが客観的にサステナビリティに値すると高く評価されるかもしれません。また、自分たちになにが足りないのか、具体的に知ることができ、次に何を行うべきか方向性を見出すことができます

シェフ:
宮本けんしん Kenshin Miyamoto

19歳で渡伊。
イタリアの名店「ラ・テンダ・ロッサ」、「ラ・シリオラ」「ヴィッラ・ロンカッリ」などで修行。
27歳で帰国後、実家の「イタリー亭」に勤務。
31歳で「リストランテ・ミヤモト」開店。

2011年
農水省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞を受賞。

2012年
熊本県農業コンクール「農業貢献賞」。
熊日新聞創立70周年記念「熊本グランドデザイン論文」にて優秀賞。
アサヒビール『九州情熱人』にて「熊本で最も熱い人大賞」。
熊本県食農ネットワーク運営委員。
「食の大地・くまもと」世界農業遺産推進研究会代表。
阿蘇地域世界農業遺産推進協議会委員。

2013年
熊本県観光審議会委員就任。
「食の大地・くまもと」親善大使へ就任。
阿蘇地域世界農業遺産協会 顧問就任。
阿蘇地域世界農業遺産認定の立役者となる。

2014年
日本政府より「2015年 ミラノ国際博覧会日本館サポーター」就任を委嘱される。
社会活動支援機構より社会活動大賞受賞。
熊本県知事より「世界農業遺産・阿蘇」認定に尽力したとして、感謝状を授与される。

2015年10月
イタリアミラノで開催されたミラノ国際博覧会にて、熊本県と阿蘇をPRする。
料理のデモンストレーションを行う。

2016年
熊本地震においての支援活動や東京でのチャリティーイベントなどを精力的にプロデュース。

2017年
JAL国内線ファーストクラスの機内食の監修。

2019年
農林水産省「料理マスターズ」シルバー賞受賞。

2020年
老舗料亭「なだ万」全店での「熊本フェア」のアドバイザー就任。

2021年
高島屋百貨店の熊本食材を活用したお中元をプロデュース。

2024年
FOOD MADE GOOD Japan Awards BEST調達賞受賞。

アンティカ・ロカンダ・ミヤモト
熊本県熊本市中央区新屋敷1丁目9−15
https://al-miyamoto.com/

FOOD MADE GOODスタンダードは、世界中で使われている、ホスピタリティ産業(飲食業、ホテル)のサステナビリティの推進度合いをはかることのできる、グローバルスタンダードです。日本サステイナブル・レストラン協会加盟店の正会員店舗は無料で参加することができます。自店のサステナビリティの推進度合いの客観的評価を得られるとともに、どこを改善したらよいのか等のアドバイスが得られます。詳しくは、日本サステイナブル・レストラン協会加盟店にお問い合わせください。

【レポート】FOOD MADE GOOD フィールドワーク in いすみ

【レポート】FOOD MADE GOOD フィールドワーク in いすみ

SRAジャパンが取り組む千葉県いすみ市の自然栽培の田んぼ「FOOD MADE GOOD Regenerative Ricefield(SRA田んぼ)」が、初めての実りの時を迎えました。

そこで、2026年8月24日(月)、SRAジャパンメンバーと、加盟店のスタッフと共同での初めての収穫作業となる「FOOD MADE GOOD フィールドワーク in いすみ」を開催しました。

千葉県は前日の大雨で、電車が運休になっており、無事に辿り着けるのか直前までやきもきしましたが、当日は驚くような晴天と暑さ! 東京、神奈川、埼玉、長野、大阪といった各地からメンバーが集結。まずは、このプログラムをご指導をいただいている、つるかめ農園の鶴渕真一さんより、段取りの説明がありました。日差しが強く、聞いているそばから背中を汗が流るほど気温も高まってきます。

みんなで歩いて田んぼに向かいます。持っているのは、大量の水やお茶。熱中症が心配されるほどの暑さ。農家さんの過酷さを作業が始まる前から感じます。

ついに到着しました、SRA田んぼです。無肥料、無農薬、何も追加することなく自然由来の力だけで米を育てる自然栽培米です。じっくり自分の力で育つ分、稲は虫や病気の影響を受けにくくたくましく育つと言われています。

いよいよ段取りを確認して、作業です!

田んぼの畦に生えている葦が、田んぼの中に入り込んでいるものをカマで刈り取ります。このままにしておくと、コンバインをかけた時に詰まってしまうため、取り除く必要があるそうです。簡単そうな作業に思いましたが、腰をかがめてカマを使うのは結構重労働。今回は大人数で取り組みましたが、これが一人や二人で行うとなると、なんと大変な作業でしょうか。

ある程度下準備のできたところで、鶴渕さんのコンバインが出動。稲はあっというまに刈り倒され、稲わらが短く切断されて落ちてきます。稲わらは貴重な有機質資源です。土に漉き込まれることで、土壌微生物が増えて土が豊かになるそうです。

今回のプログラムは、単なる「稲刈り体験」ではなく、生産現場を訪れ、プロの農家さんの実際の作業の現場を見るという目的があるため、機械で行うところはしっかり機械で行います。

稲刈りが済んだら、脱穀です。みるみるうちに軽トラックに籾が積み上がっていきます。

途中、コンバインが詰まり、鶴渕さんが手作業で詰まりを改善。作業が少し中断しましたが、時間通りに終了。
すっきり晴れやかな気持ちになります。

稲刈り、脱穀のあとは乾燥です。母屋に戻り、軽トラックから直接連結されたのは、巨大な穀物専用乾燥機。収穫したばかりの籾は、水分が多くふくまれているので、このまま保管するとカビが生えてしまいますので、すぐに乾燥機にかけられます。

午前の作業のあとは、鶴渕さんを囲んだお話の時間。

鶴渕さんからは、なぜ自然栽培に取り組むのかといった経緯につながるお話から、今の農家や農業全体が直面する課題、自然災害、米の価格の決定など、多岐にわたるお話をうかがいました。

 

お世話になった、つるかめ農園の鶴渕さん。

今回、鶴渕さんのお話を伺い感じたことは、米農家がかかえる課題が多岐にわたるということです。なかでも、特に大きいと感じたのが、経営の不安定さです。

米の価格は買い取り時になるまでわからず、生産者自身が自由に値付けできるわけではありません。また、かつては多くの人手を必要とする労働集約型の産業でしたが、現在は少人数で農作業を担うため、農業機械などへの多額の設備投資が欠かせません。資材や燃料などのコストもかかります。

これだけの時間と労力、費用をかけて米をつくっても、最後に農家の手元に残る利益がいかに少ないか。その現実を直接耳にすることができました。

では、消費者に直接販売すればよいのかというと、それも簡単ではありません。販売、発送、顧客対応といった付随業務に加え、情報発信やブランディング、マーケティングなど、生産とは異なるスキルが必要になります。当然、そこにも時間とコストがかかります。

そのほか、今回、鶴渕さんのお話を伺って特に印象に残った言葉があります。

「この美しい日本の里山の風景を守りたい。」

それは、農家が担っているのは、単に「米を生産すること」だけではないということです。在来種の種をつなぐこと。美しい水田を維持すること。農地が耕作放棄地になることを防ぎ、里山の景観を守ること。そして、地域の自然や文化を次の世代へつないでいくこと。農薬や化学肥料に頼らない農法に取り組む農家であれば、生産活動そのものが環境への負荷を抑え、水田を取り巻く生態系や地域環境を守ることにもつながっています。

つまり私たちが農家から受け取っているものは、「お米」だけではないということです。

景観、生物多様性、地域文化、農地の維持、そして次世代へつながる種や農業の知恵。
鶴渕さんは、米づくりを通してこれらを未来に繋げたいとお話されました。

こうした、いわば地域のインフラを支える役割まで農家が担っているにもかかわらず、その価値への対価が、現在の米の価格に十分に含まれているとは言い難いのではないでしょうか。

だからこそ、こうした米づくりを続ける農家に対して、飲食業だからこそできることを整理してみたいと思います。

まず考えたいのが、適正な価格で継続的に購入することです。

単発で「応援のために買う」のではなく、年間を通じて必要な量を伝え、できるだけ安定した価格で、単年でなく、継続的に購入する。いつどのくらいの量を購入するかということは、在庫を農家が持つか、飲食店が持つかということであり、とても難しいポイントになると思いますが、検討はできるのではないでしょうか。

さらに、米そのものだけではなく、農家が生み出している環境価値にも目を向け、その価値を価格や取引のなかで評価することができると良いと思います。

そして飲食店には、もう一つ大きな役割があります。

それは、農家の取り組みや米づくりの背景を、料理を通して消費者に伝えることです。

「誰がつくった米なのか」だけではなく、その田んぼが地域の環境や景観をどのように支えているのか。なぜこの米を選び、この価格で提供しているのか。料理人やサービススタッフが自分たちの言葉で伝えることで、消費者が米の本当の価値を知るきっかけをつくることができます。だからこそ、料理人と農家が直接つながり、対話を重ねることで見えてくるものがあるように思えます。

「米を卸業者から仕入れる」から、「顔の見える農家から米を買う」という関係に。そして、「農家とともに、地域の農業や環境を支える」というパートナーになることができないでしょうか。

今回の訪問をきっかけに、農家と飲食業がどのような関係を築くことができるのか、具体的なアクションを考え、提案していければとあらためて思いました。田んぼの活動に関心のある飲食関係の方は、ご一緒しませんか?いつでもSRAジャパンにご連絡ください。お待ちしております。

つるかめ農園

千葉県いすみ市深谷348
https://www.tsurukamefarm.com/

EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」が9月27日から適用開始:ホスピタリティ事業者に求められること

EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」が9月27日から適用開始:ホスピタリティ事業者に求められること

EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」に基づく新たなルールが、2026年9月27日から適用開始となりました。この指令は、レストランやホテルを含むホスピタリティ事業者が、サステナビリティについて消費者に「どのように伝えるか」に大きく関わります。

これは単なる新しい規制への対応ではありません。サステナビリティについて、あいまいな言葉ではなく、具体的な行動と証拠をもとに伝えていくことが、これまで以上に求められる時代への転換でもあります。

ここでは、ECGT指令のポイントと、ホスピタリティ事業者が今後どのように備えるべきかを整理します。

「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令(ECGT)」とは

「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令」(Directive (EU) 2024/825、ECGT)は、グリーンウォッシングや商品の早期陳腐化などの不公正な商慣行から消費者を保護し、商品やサービスについて、より信頼できる情報に基づいて選択できるようにすることを目的としたEU指令です。

ECGTは、新たに独立した消費者法体系をつくるものではなく、既存のEUの「不公正商慣行指令(UCPD)」と「消費者権利指令(CRD)」を改正するものです。ECGT指令そのものは2024年3月26日に発効しており、EU加盟国は2026年3月27日までに国内法化することが求められました。そして、これらの新たなルールは2026年9月27日から適用されています。

主な目的は次の2点です。

  • ・グリーンウォッシング、商品の早期陳腐化、信頼性に欠けるサステナビリティ表示などの不公正な商慣行から消費者を守ること
  • ・商品やサービスについて、環境・社会・循環性に関する、より明確で信頼できる情報を消費者に提供すること

ECGTによって改正された不公正商慣行指令は、企業間取引(B2B)ではなく、企業から消費者への商慣行(B2C)を対象としています。商品の販売前、販売時、販売後を含め、商品やサービスの販売・提供・広告などに直接関係するコミュニケーションが対象となり得ます。

違反に対する具体的な制裁や執行方法は、各加盟国の国内法によって異なります。EU法は、制裁が「実効的、比例的かつ抑止力のあるもの」であることを求めています。

また、複数の加盟国にまたがる重大な越境違反等については、加盟国が設定する罰金の最大額を、関係加盟国における事業者の年間売上高の少なくとも4%とすることが求められています。売上高の情報が利用できない場合には、最大額を少なくとも200万ユーロとする必要があります。したがって、「4%または200万ユーロがEU共通の罰金上限」という意味ではありません。

何が対象になるのか

ECGTの適用開始により、サステナビリティに関する消費者向けコミュニケーションでは、特に次の点に注意する必要があります。

1. あいまいな環境主張や、誤解を招く社会的主張

「エコフレンドリー」「グリーン」「環境に優しい」「気候に優しい」「省エネ」「生分解性」など、優れた環境性能を示しているかのような包括的・一般的な環境主張は、一定の要件を満たさない限り使用できません。

ECGTでは、このような「一般的環境主張(generic environmental claims)」について、その主張に関連する「認められた優れた環境性能(recognised excellent environmental performance)」を事業者が実証できない場合、原則として禁止されます。

ここでいう「認められた優れた環境性能」には、例えばEUエコラベル、加盟国で正式に認められたEN ISO 14024 Type Iのエコラベル、または適用されるEU法に基づく最高水準の環境性能などが含まれます。単に何らかの第三者認証を取得しているだけで、すべての一般的環境主張が認められるわけではない点には注意が必要です。

一方で、主張の内容を同じ媒体上で明確かつ目立つ形で具体化している場合には、「一般的環境主張」ではなく、具体的な環境主張として評価されます。

例(一般的):「環境に優しい包装」

例(具体的):「この包装材の製造に使用したエネルギーの100%は再生可能エネルギー由来です」

後者のように具体的に示した場合には、一般的環境主張には該当しません。ただし、その場合でも、主張が正確であり、十分な証拠によって裏づけられていることが必要です。

社会的な主張についても注意が必要です。適正な賃金、社会保障、労働安全、人権、平等、インクルージョン、多様性、社会貢献、動物福祉などは、ECGTによって明示的に「社会的特性」として取り扱われるようになりました。

ただし、環境に関する一般的主張と同じように「包括的な社会的主張が一律に禁止される」という意味ではありません。社会的特性について誤解を招く表示や説明を行っていないかが、ケースごとに判断されます。事業者は、事実に基づく主張についてその正確性を裏づけられるようにしておく必要があります。

ヴィーガンやベジタリアンといった表示も、それ自体が直ちにサステナビリティ表示になるわけではありません。しかし、「ヴィーガンだから地球に良い」「ベジタリアンだから動物福祉に優れている」といった環境面・社会面の利点を暗示するような形で使用する場合には、その文脈によって環境主張やサステナビリティ表示としてECGTの対象になる可能性があります。

将来の環境性能についての主張にも注意

「2030年までにネットゼロを達成します」「2035年までに環境負荷を半減します」といった、将来の環境性能に関する主張についても要件が厳格化されます。

こうした主張を行う場合には、明確で客観的かつ検証可能なコミットメントを示し、測定可能で期限の定められた目標と、その目標をどのように達成するかを示す詳細かつ現実的な実施計画によって裏づける必要があります。

また、その進捗については独立した第三者専門家による定期的な検証が求められ、その結果が消費者に利用可能な形で示される必要があります。

つまり、「いつかサステナブルになります」と宣言するだけでは十分ではありません。どのような目標を、いつまでに、どのような方法と資源を使って達成するのかを示し、その進捗を確認できる仕組みをつくることが重要になります。

2. カーボンオフセットに基づく気候関連の主張

これまで多くの企業が、排出量を算定したうえでカーボンクレジットを購入し、そのオフセットを根拠として商品やサービスを「カーボンニュートラル」などと表示してきました。

ECGTでは、温室効果ガス排出量のオフセットを根拠として、商品やサービスそのものが温室効果ガス排出の観点から「中立」「削減」「ポジティブな影響」を持つと主張することが禁止されます。

これは、カーボンクレジットの購入や外部の気候プロジェクトへの資金提供そのものを禁止するものではありません。また、それらの取り組みについて、透明かつ誤解を招かない形で説明することまで禁止されるわけではありません。

重要なのは、外部で行われる排出削減・吸収を、自社の商品やサービスそのものの気候性能として表現しないことです。

今後、排出削減について消費者に伝える際には、商品やサービスそのもののバリューチェーンやライフサイクルの中で実現した、実際の削減を具体的に示すことが一層重要になります。

なお、オフセットに依存していない場合であっても、「気候ニュートラル」「気候に優しい」といった表現が一般的環境主張に該当する場合には、前述の一般的環境主張に関する要件も満たす必要があります。

3. 要件を満たさない独自のサステナビリティ表示

ECGTでは、サステナビリティラベルについても新しいルールが設けられています。

原則として、消費者向けに表示されるサステナビリティラベルは、次のいずれかである必要があります。

  • ECGTの要件を満たす「認証制度(certification scheme)」に基づくもの
  • 公的機関によって設けられたもの

公的機関によるものではないサステナビリティラベルの場合、その認証制度には独立した第三者による検証が必要です。さらに、以下のような要件が求められます。

  • ・認証制度の要件や利用条件が公開されていること
  • ・透明性と信頼性が確保されていること
  • ・要件を満たす事業者に対して、公平かつ非差別的な条件で開かれていること
  • ・要件への適合状況を、適格で独立した第三者が監視していること
  • ・制度の要件が、関連する専門家やステークホルダーとの協議を経て設定されていること

2026年9月27日時点で市場に存在するサステナビリティラベルも、この要件を満たしている必要があります。要件を満たさない既存制度は制度を適合させる必要があり、そうでなければ関連するラベルを商業コミュニケーションから外す必要があります。ECGT自体には、この日以降の追加的な移行期間は設けられていません。

Food Made Good Standardについても、こうした新しいEUの要件を踏まえ、認証制度の透明性、第三者検証、証拠審査などの仕組みを整備しています。

Food Made Good Standardおよびそれに関連するプロセスについては、監査パートナーであるIntertekによる確認を経ており、ECGTにおけるサステナビリティラベルの認証制度要件を踏まえた運用が進められています。

なお、サステナビリティラベルとして認証制度の要件を満たすことと、「グリーン」「環境に優しい」などの一般的環境主張を使用するための「認められた優れた環境性能」を示すことは、法律上別の問題です。

認証ラベルが使用できるからといって、それだけであらゆる環境主張を自由に行えるわけではありません。

4. 事業の一部についての取り組みを、全体に当てはまるかのように伝えること

ECGTでは、商品やサービスの一部分にしか当てはまらない環境上の利点を、商品・サービス全体の特徴であるかのように伝えることにも注意が必要です。

例えば、商品の包装だけに再生素材を使用しているにもかかわらず、商品全体が再生素材でできているかのように「再生素材を使用」と表示すれば、消費者に誤解を与える可能性があります。

ホスピタリティ事業でも同様の考え方が重要です。例えば、「すべて地元産のものを調達しています」という表現では、食材だけでなく、飲料、清掃用品、アメニティなども含めて、すべて地域から調達しているように受け取られる可能性があります。

実際には「料理に使用する野菜の80%を○○県内から調達しています」ということであれば、その範囲を明確に示す方が、より正確で信頼できるコミュニケーションになります。

ホテルグループ全体、レストラングループ全体、あるいは施設全体について環境上の主張をする場合にも、実際にその範囲すべてで主張が成立しているのかを確認する必要があります。

5. 法律で義務づけられていることを、特別な特長として宣伝すること

法律によってすべての同種の商品やサービスに求められている要件を、あたかも自社だけの特別なメリットであるかのように宣伝することも問題となります。

つまり、「法律を守っていること」自体を、競合他社にはないサステナビリティ上の優位性のように表示することはできません。

また、商品やサービスと実質的に関係のない利点を強調することも禁止対象となり得ます。欧州委員会が示している考え方に照らせば、もともと該当することが当然である商品について「○○フリー」などと強調し、消費者に特別な優位性があるように思わせる表示などには注意が必要です。

Food Made Good Standardが単なる法令遵守だけではなく、法的要件を超えた実践や継続的な改善を重視している理由の一つもここにあります。法令を守ることを出発点とし、その先にある実質的な行動を評価・改善していくことで、事業者がサステナビリティについて信頼できる形で伝えるための基盤をつくることができます。

対象となるのは、主に消費者向けのコミュニケーション

ECGTによって改正された不公正商慣行指令は、B2C、つまり事業者から消費者に向けた商慣行を対象としています。

そのため、投資家や企業などを対象として作成される企業レベルのサステナビリティ報告書やESG報告書は、通常、それ自体がこのルールの直接の対象になるわけではありません。

しかし、その報告書に掲載した情報を、ウェブサイト、SNS、広告、メニュー、店頭ポスター、商品パッケージ、消費者向けキャンペーンなどに転用すれば、そのコミュニケーションは消費者向けの商慣行としてECGTの対象となる可能性があります。

「ESG報告書に書いてあるから、そのまま広告にも使える」とは限らないということです。

EU域外の事業者はどうなるのか

ECGTはEU法であるため、EU域内企業だけに関係すると思われるかもしれません。

しかし、ECGTによって改正された不公正商慣行指令は、EU単一市場における消費者保護を対象としており、事業者や商品がEU域内のものか、第三国のものかだけで適用範囲が決まるわけではありません。

欧州委員会も、EU単一市場の消費者保護に関係する商慣行については、事業者や商品がEU域内または第三国のいずれに由来するかにかかわらず、ルールが適用され得ることを明確にしています。

そのため、日本を含むEU域外の事業者であっても、EUの消費者を対象として商品やサービスを販売・広告する場合には、このルールを意識する必要があります。

例えば、日本のホテルやレストランがEUの消費者を明確に対象としたウェブサイトやキャンペーンでサステナビリティに関する主張を行う場合には、ECGTを含むEU消費者法の適用可能性について確認しておくことが重要です。

こうした基準は、EU市場だけにとどまらず、今後、企業のグローバルなサステナビリティコミュニケーションにも影響を与えていく可能性があります。

ECGTはホスピタリティにとって何を意味するのか

ECGTの適用開始は、サステナブルなホスピタリティが、より成熟した段階に入る一つの契機と言えるでしょう。

これからは、「サステナビリティに取り組んでいます」という意図を示すだけではなく、次の点を具体的に示すことが、これまで以上に重要になります。

  • ・何をしているのか
  • ・どこまで実現できているのか
  • ・その根拠は何か
  • ・どのように進捗を測っているのか

しかし、説明責任が強化されることは、ホスピタリティ業界にとって必ずしも悪い知らせではありません。むしろ、本気でサステナビリティに取り組んできた事業者にとっては、自らの取り組みをより信頼できる形で伝えられる機会になります。

エネルギー効率の改善、食品廃棄物の削減、地域の生産者との関係づくり、スタッフの働く環境の改善、責任ある調達などは、環境や社会への貢献だけでなく、コスト削減、事業のレジリエンス、顧客やスタッフからの信頼、地域との関係強化にもつながり得ます。

共通のルールが整うことで、あいまいな「サステナブル」という言葉だけが独り歩きする状況から、実際に行動している事業者が、その取り組みを証拠とともに伝えられる環境へと変わっていくことが期待されます。

だからといって、何も言わないことが答えではありません

新しいルールを前に、「サステナビリティについて発信しない方が安全なのではないか」と考える事業者もいるかもしれません。

しかし、必要なのは「グリーンハッシング」、つまりサステナビリティについて沈黙することではありません。

大切なのは、「言わないこと」ではなく、「正確に言うこと」です。

ホスピタリティにおけるサステナビリティへの取り組みは、簡単に完成するものではありません。試行錯誤を重ねながら、継続的に改善していくものです。

だからこそ、「完璧です」と宣言するのではなく、「現在ここまでできています」「この数字を改善しています」「この課題にはまだ取り組んでいる途中です」と、進捗を具体的かつ誠実に共有することが重要になります。

実質的な進展を業界全体で共有し、学び合うことが、ホスピタリティの持続的な変化につながります。

事業者がECGTに対応するためにできること

まず重要なのは、現在の消費者向けコミュニケーションを一度見直すことです。ウェブサイト、メニュー、SNS、広告、ポスター、ステッカー、店頭表示、商品パッケージなどに、「グリーン」「エコフレンドリー」「環境に優しい」「カーボンニュートラル」「気候に優しい」といった表現が使われていないか確認してください。

使われている場合には、その主張が具体的に何を意味し、どのような根拠があり、ECGTの要件を満たしているのかを確認する必要があります。

  • ・現在使用しているサステナビリティラベルを見直す。 公的機関によるラベルなのか、あるいはECGTの要件を満たす第三者認証制度に基づくラベルなのかを確認します。認証制度の要件や利用条件は公開されている必要があります。自社で独自に作成した「エコバッジ」や、第三者検証の仕組みを持たないサステナビリティマークについては特に注意が必要です。
  • ・一般的な表現ではなく、具体的な事実を伝える。
  • 「地球に優しいレストラン」よりも、「2025年度と比較して店舗の電力使用量を18%削減しました」と伝える方が、消費者にとっても分かりやすく、検証可能です。
  • ・すべての主張について証拠を残す。
  • エネルギー使用量、食品廃棄物量、水使用量、再生可能エネルギーの割合、地元産食材の割合、認証食材の購入記録など、主張の根拠となるデータや資料を整理しておきます。「地元産」という表現を使うのであれば、「地元」を何km圏内、あるいはどの地域として定義しているのかも明確にするとよいでしょう。
  • ・主張する範囲を明確にする。
  • 事業の一部にしか当てはまらない取り組みを、事業全体の成果として表現しないことが重要です。例えば、店舗の電力が100%再生可能エネルギー由来でも、厨房で化石燃料由来のガスを使用しているのであれば、単純に「当店では100%再生可能エネルギーを使用しています」と書くと、実際より広い範囲を示しているように受け取られる可能性があります。「店内で使用する購入電力の100%を再生可能エネルギー由来に切り替えています」など、対象を具体的にする方が適切です。
  • ・企業向けESG情報を、そのまま消費者向けコピーにしない。
  • 投資家向けの報告書で使用している表現が、そのまま消費者向け広告に適しているとは限りません。消費者向けのコミュニケーションでは、証拠に裏づけられているだけでなく、分かりやすく、具体的で、誤解を招かないことが重要です。
  • ・将来目標については、目標だけでなく計画と進捗を示す。
  • 「2030年までにネットゼロ」といった目標を発信する場合には、その達成方法、測定可能な中間目標、必要な資源、進捗確認の仕組みまで考える必要があります。
  • ・社内の確認体制をつくる。
  • サステナビリティに関する表現を、マーケティングやPR部門だけで判断するのではなく、サステナビリティ・ESG担当者などが確認できるプロセスを整えることも重要です。
  • ・信頼できる認証制度を、自社の改善のための枠組みとして活用する。
  • Food Made Goodのように、事業者の実践を幅広く確認し、改善につなげていく第三者認証の枠組みは、単に「ラベルを取得する」ためのものではありません。何ができていて、どこに改善の余地があるのかを整理し、その取り組みについて根拠を持って消費者に伝えるための基盤として活用することが重要です。

これから求められるのは「言わないこと」ではなく「証拠を持って伝えること」

ECGTがホスピタリティ業界に投げかけているメッセージは、サステナビリティについて話すことをやめることではありません。

あいまいな言葉から具体的な事実へ。

自己宣言から検証可能な証拠へ。

「良いことをしています」というメッセージから、実際の行動と進捗の共有へ。

という転換を促していると言えるでしょう。

ホスピタリティは、食材、エネルギー、廃棄物、人、地域、生産者など、多くの社会・環境課題と日々直接関わる業界です。

だからこそ、実際の取り組みを可視化し、測定し、改善し、その進捗を誠実に伝えることには大きな意味があります。

SRAでは、Food Made Goodを通じて、レストランをはじめとするフードサービス事業者が、自らの現在地を理解し、継続的な改善を進め、その取り組みを信頼できる形で伝えられるよう支援していきます。

参考

     

    参照記事:https://thesra.org/news-insights/insights/how-to-make-sure-your-hospitality-business-is-ready-for-ecgt/