【未利用食材に新たな価値を】〜未来のレシピコンテスト・ファイナリストの声〜
未来のレシピコンテスト2025 ファイナリスト
一瀬 颯真 いっせそうま(ザ・キャピトルホテル 東急 中国料理「星ヶ岡」)
静岡県出身。東海調理製菓専門学校卒業後、東京・自由が丘「蔭山樓」にて研鑽を積む。2023年 ザ・キャピトルホテル 東急 入社。
「食用に向かない」と言われる肉を、料理人の技術でおいしくすることはできないだろうか。
ザ・キャピトルホテル 東急 中国料理「星ヶ岡」で点心を担当する一瀬颯真さんは、未来のレシピコンテストで産卵を終えた比内地鶏の老鶏を使った料理「雪花秋鶏~比内老鶏の雪花仕立て~」を考案した。一般には硬く食用に向かないとされる鶏を、中国料理の伝統技法によって一羽余すことなく味わう一皿に仕立てている。
一瀬颯真さんは現在、ザ・キャピトルホテル 東急 中国料理「星ヶ岡」で、点心を担当している。餃子や焼売などの点心の製造に加え、新しい点心メニューの開発も主な役割の一つだ。
既存メニューの改良だけでなく、食材の見直しにも積極的に取り組んでいる。現在特に力を入れているのは、点心に使用する食材の国産化だという。
「粉や肉、野菜など、点心に使う主要な食材をできるだけ国産に切り替えていく取り組みを進めています」
同ホテルでは全社として積極的にサステナビリティの取り組みを進めている。特に「星ヶ岡」は外国産食材から国産へ順次切り替えを進めるなど、サステナビリティの取り組みを強化し、FOOD MADE GOOD Awardsの社会部門で最優秀賞を受賞した。点心部門でもその方針に沿い、食材の見直しを進めている。
将来、料理人として自身の表現を深めていくうえで、できるだけ国産食材を使った料理を提供したいと考えており、現在の取り組みはそのための学びにもなっているという。
■ サステナビリティとの関わり
以前の職場では「サステナビリティ」という言葉自体が身近ではなかったという一瀬さん。同ホテルに転職し、料理人としての視野が大きく広がった。
「星ヶ岡」では47都道府県の食材をテーマにしたフェアを3カ月ごとに開催しており、各地の食材を使った料理の提案が求められる。その中で、自然と地域食材や国産食材への関心が高まっていった。
入社当初はデザート部門を担当し、平飼い卵や地域の牛乳などを扱う中で、食材の背景を自分で調べるようになったという。
「平飼いとはどういう飼育方法なのか、飼料はどうなっているのか。そういうところまで自然と調べるようになりました」
こうした経験が、食材の生産背景や環境への影響を意識するきっかけになった。
■ 未来のレシピができあがるまで
今回のコンテストのテーマは「ベターミート」。一瀬さんはまず、ベターミートやアニマルウェルフェアについて理解することから始めた。食材を探す中で最終的に選んだのが、秋田の比内地鶏の老鶏(親鳥)だった。実はこれは、「星ヶ岡」でスープのベースとして普段から使われている食材で、特別に取り寄せたものではない。
「すでに厨房にある食材で、サステナブルな料理が作れないかと考えました」
老鶏は一般的に肉が硬く、食用としては扱われにくい。しかし一瀬さんは、その評価に疑問を抱いた。
「食用に向かないと言われる肉でも、中国料理の技法を使えばおいしくできる。それを示すことが料理人の役割だと思いました」
当初は平飼い鶏の肉を使う予定だったが、制作を進めるうちに「価値が低いとされてきた食材こそ料理で向き合うべきではないか」という考えが強まり、老鶏を主役に据えることを決めた。
完成した料理「雪花秋鶏~比内老鶏の雪花仕立て~」では、老鶏を一羽余すことなく料理に使用している。肉は主役の料理として調理し、卵は秋田の冬景色をイメージした雪花仕立てと中国料理の保存食である鹹蛋(塩漬け卵)に。内臓は凍鶏(鶏肉の煮凝り)に仕立て、骨や筋などの端材は透き通った清湯スープとして活用した。
中国料理の技法を用いて、老鶏一羽の命を余すことなく味わう料理となっている。
■ コンテストを通じて得た学び
今回の経験で最も変わったのは、料理を考えるときの発想の出発点だったという。
以前はまず肉料理を考え、必要に応じてベジタリアン向けの料理に置き換える発想だった。しかし今は、肉料理とプラントベースの料理を最初から並行して考えるようになった。
それは制限への対応ではなく、食べる人の多様性を前提に料理を設計するという意識の変化だった。
また、食材選びの意識も変わった。国産のたけのこなどに切り替えることで味の質が向上し、「お客様に安心して提供できる」という実感にもつながったという。
■ 「未来のレシピコンテスト」の参加を考えている人へ
「サステナブルは、料理そのものに近い」
一瀬さんにとってサステナビリティとは、特別な概念ではない。端材をスープやタレに活かすこと、廃棄を最小限に抑えること、食材を丸ごと使い切ること。そうした行為は、もともと料理人が自然と向き合ってきた営みそのものだという。
「難しく考えすぎず、まずは自分が扱っている食材をよく知ること。捨てる部分を減らす工夫をすること。そういう小さな一歩から始められると思います」
未来のレシピコンテストは、その「当たり前」を言葉にし、改めて見つめ直す機会だった。料理人としての技術だけでなく、どんな価値観で料理と向き合うのか。その問いを、これからも厨房の中で更新し続けていく。
産卵を終え、食用として扱われにくい比内地鶏の老鶏を、中国料理の技法で一羽丸ごと味わう一皿。卵は秋田の冬景色に見立て雪花仕立てと鹹蛋に、内臓や端材は凍鶏や清湯スープとして構成した。伝統品種の生産持続とアニマルウェルフェアへの願いを込めて、老鶏の価値を料理で示している。



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