世界中のシェフやレストラン、特に影響力のある著名なシェフや有名店は、食の未来、ひいては地球の未来に対して、非常に重要な役割を担っています。

2023年のアジアのベストレストラン50は、まさにこのことを証明するものでした。 今年の受賞者であるマニラのTOYO EATERYは、自らの役割と責任を認識しているだけでなく、それに真正面から取り組み、フィリピンのみならず世界中のレストランに感銘を与えるような、前向きな変化をし続けるモデルを作り出しているからです。

環境を守ることはサステナビリティの重要な要素ですが、TOYO EATERYでは、それだけではなく、共に働く人々の伝統や文化、テロワール(風土特性)を尊重することを最も大切にしています。

TOYO EATERYは、フィリピン国内の良い影響を与えている人々との関係づくりを中心に事業を展開しています。特に、伝統食材や郷土食材に焦点を当て、サプライヤーや生産者をパートナーとして長期的な関係を築くことを大切にしています。

ジョーディ・ナバラ シェフ

この進歩的なレストランの理念の中で最も感銘を受ける要素のひとつは、可能な限り良い影響を与える食材を調達し提供するために、常に改善に取り組み続け、新たな方法を探し続けるひたむきな姿勢です。このことは、2022年の包括的なサステナビリティレポートに記載された彼らの発言によく表れています。

「私たちの店は世界で最もサステナブルなレストランではないかもしれませんが、今日が今までで最もサステナブルだと思います。これからも、私たちの価値観を守り、より良いものにしていき、世界がどんな変化に直面しても対応できるように成長し進化し続けていこうと計画しています。」

その例が、牛肉の転換です。彼らは2020年に輸入牛肉を使用しないという決断をしました。そして、その2年後の2022年には、メニューから牛肉を完全に無くしました。今では、テイスティングメニューの半分以上がベジタリアンかビーガンです。

改善し続けることへのコミットメントをさらに証明しているのが、「地元産」「オーガニック」「トレーサビリティ」の三原則に基づく透明な調達方針です。現在、原材料の90%が地元産、75%がオーガニック、同じく75%はトレーサビリティが確保されたものです。2025年にはそれぞれ95%、90%、90%にするという目標を掲げています。

 

マウンテン・バイオレット古代米という、その名の通り紫色(炊いても紫色)の米など、伝統的で土着の食材は彼らの食の哲学のまさに核心です。このような食材を調達し提供することで、生物多様性と職人的生産者のネットワークの両方を支援しています。

 

レストランは、その店の置かれた環境の中で運営しなければなりません。TOYO EATERY の場合、紅茶やコーヒー、砂糖といったハイリスクな食材の90%地元で調達し、しかも、そのほとんどをオーガニックにしたことが、彼らにとってプラスに働きました。

TOYO EATERY の看板メニュー、バハイクボ 

TOYO EATERY の精神を理解するためには、看板メニューのひとつである「バハイクボ」を見るのが一番でしょう。バハイクボは、18種類の野菜をさまざまな方法で調理したものです。この料理は、TOYO EATERY のパートナーである農家と築き上げ、これからも深めていく貴重な関係性を象徴しています。

農家との関係は、TOYO EATERYが女性農業者の協同組合であるGood Food Co,のために行った大規模な募金活動にも表れています。この活動を通して、農家の気候変動リスクへの適応や、リスクに対する生産者コミュニティの対策強化を支援しています。

店舗スタッフの健康も重要な優先事項です。毎年、店舗を休業して全従業員に休息とリフレッシュの時間を提供しています。

レストランの影響を全般的に改善するという目標は、調達にとどまりません。2年後を目標に、エネルギーと水の消費量を25%削減し、2024年末までに食品廃棄物ゼロを達成することを約束しています。

ジョーディ・ナバラシェフと彼のチームの受賞を祝福し、さらなる活躍を期待します。今後も彼らの活躍に注目していきたいと思います。

トム・タナー、サステナブルレストラン協会)